vol.021「最優先でやること:場の安全性の確保と、ネットワークの出力との、蜜月な関係。」
ときどき、直接の利害関係のない人から、わりに込み入った相談を受けることがある。自分よりは若い人の、悩み整理の手伝いをすることもある。
「聴く技術」と密接に連動するのが、「相談を受ける技術」です。
「誰かから相談を受ける回数」の統計データは無いだろうけど、もしあったら、全国平均値(中央値)よりは上にいると想像している。
仕事の関係者以外、たとえば管理者なら直属のチームメンバー(いわゆる部下)以外で、もしくは家族・親類以外で、相談を受ける頻度は、皆さんどのくらいだろう。週末や平日夜に、「長電話相談タイム」というイベントを設ける人は、そう多くないのではないか。
1.相談する気になる条件
相談することは、リスクが発生することだから、「誰それに(たとえばtakuyamaに)相談してみよう」と思うには、何かしらメリットなり理由があるはずだ。
私自身のケースで、「なぜ相談する気になったか/再相談しようと思ったか」を考えてみると、
① さえぎらずに聴く
② 否定しない、茶化さない
③ 守秘義務をまもる
あたりだろうか。すこし整理してみる。
① さえぎらずに聴く
いちばん基本的な作業。「聴く技術」の一番目にも挙げた項目だ。
・ワンセンテンスを、途中でさえぎらずに聴く。最後まで聴く。一文が終わっても、しばし待つ。段落がとぎれるまで聴く。
・悩んでいるとき、相談ごとを抱えているときは、考えながら言葉が出るのだ。ひととおり、話が出しきるまで聴く。
なにも深刻な相談にかぎらない。上司が部下の報告を聴くとき、面談などの改まった場。すべてこれをベースにする。
② 否定しない。馬鹿にしない
聴くテクニック、相談に乗るスキルよりも何よりも重要なこと。とにかく否定しない。茶化したり、からかったりしない。「大した悩みじゃないじゃん」と馬鹿にしない。
相談に来る時点で、当人にとっては深刻で、大きな問題なのだ。
軽んじるような言動を取った瞬間に、【あなたや私のところへは】二度と相談に来なくなるだろう。
③ 守秘義務をまもる
「馬鹿にしない」と並んで重要なことが、「守秘義務を徹底すること」。
相手の許可を得ないかぎり、誰にも言わない。誰か、例えば相談された分野の専門家に意見を聞く場合も、相談者の個人情報はあいまいにする。
「相談に乗ってやってるのだから、言う権利がオレにはある」という勘違いを起こしやすい。ダメ。ゼッタイ。
②馬鹿にしない、③守秘義務をまもる は、こちらが考えているセーフティラインより2回りぐらい安全(慎重)なほうへ倒して考える。
それぐらいでちょうどいい。
考えてみると、最初の相談を持ちかけるまでは、①②③はあらかじめ分からない。
ということは、それまでの接点で、そういった印象を持たれていたことになる。「相談してみるか」と思わせる関係構築が、たまたま彼ら彼女らとはできていた、ということだろう。
もうひとつ。
これは相手から見えているときと、気づかれてないときとあるけども、「相談タイムのための、準備をしていること」が該当するもしれない。
④ 相談タイムのための準備をする
相談タイムまでに、事前にもらっているメールの内容をもとに、準備をする。
・聞いているテーマについて、基本的な用語を検索する
・紹介できそうなWeb記事や書籍をリストアップしておく
・確認したい質問を書き出しておく
・助言(の候補)を書き出しておく
といったことだ。
無償の、私用の=仕事や義務ではない相談を受けるときに、準備する人もいればしない人もいるだろう。する人は、同じく少数派だろうと想像している。
助言の内容が素晴らしいかどうかよりも、「自分のために、前もって調べてくれた」という心理的な効果が大きいのだ。
2.ネットワークはどんなときに強くなるか
なにかのコミュニティ、勉強会でもいいのだけど、
① 一定以上のコストを支払う
② 共通の目標や負荷が発生する
のいずれか、または両方が成立するとき、参加者間のネットワークが強力になりやすい。
① 一定以上のコストを支払う(例:参加費、時間、距離)
参入障壁が高い=参加する総コストが大きいと、場に「安全」が発生する。退出する障壁、失ったときのリスクが大きい場、と言い換えてもいい。
「元を取る」という強力なモチベーションが働くから、積極・活発にもなる。
② 共通の目標や負荷が発生する(例:重めの課題、受験)
共通の負荷=考えることを要する問題、時間のかかる課題があると、仲間意識が生まれる。「あれやった?」「どこまで手をかける?」と互いに気にする。「宿題をやってません→先生に怒られたくない」という心理が働く。
「さぼると損する(もったいない)」という緊迫感がなければ、やらなくても平気だから、やっぱり①高い参加コスト が大前提だ。
代表的な例の一つが「会社」という"場"だろう。
そこに参加するためのコスト、居続けるコスト(恩恵)、失うコストが大きい。仕事以外の、プライベートなテーマで情報交換しあう、助言を求めることがある。
「場が安全である」という前提がそこにある。
場(会社)から外に出たときに失言をして批判を受けるケースは、この裏返しだと考えている。
3.「安全な場」とはなにか
「安全な場」とはどういった場だろうか。
① 前向きである
会社員なら、職場へ休暇を申し出て、参加する。経営者なら、会社を空けて(=スタッフに任せて)参加する。世間がバケーションの時期に、休みを費やして参加する。
参加者が総じて「前向きで意欲が高」くなりやすい。また「共通の言語で話せる安心感」が発生しやすい。
② 利害関係がない
ふだんの仕事と関係のない場にひとりで参加すると、ほぼ「はじめまして」の人々のなかに入る。年齢も、職業も、出身も性別もさまざまだ。会社の同僚には言わずにいること、例えば"意識高い"セミナーに自費で参加している、という事実。
初対面どうしなら、気兼ねなく話せる。のびのびと発言できる。
③否定されない
いちばん大きい要素かもしれない。「相談する気になる条件」と同じだ。
過去の失敗談や、未成熟、未整理の思案、悩みをコメントしても、誰も否定しない。責められることがない。容認、傾聴、感想、ときに共感をもって受けとめられる。
「何を言っても、【発言したことそのもの】は責められない場」は、生きていると案外すくないものだ。
4.「場」を探すコツ
① 安全な場を高確率で探すコツ
これを反対方向から見てみるる。安全な場、活性の高い場を探したかったら、参加コストの高いものが良い。
個々の能力や背景に差がないとき、
「体験、価値を共有しているどうし」
「同じコストを支払っているどうし」
のほうが、ガードを下ろしやすくなる。特に後者は、文字どおり現金なものだけど、即効性が高い。
「3千円のセミナーに10回行くより、3万円のセミナーに1回行きなさい」
といった言い方がある。
講義の内容=コンテンツの質 もあるけど、参加者の濃度=コミュニティのご利益 を含んでいる。場、コミュニティ、ネットワークに期待して、対価を支払っているのだ。
②「ネットワーク」の持つ特性
参加して手に入れたとして、ネットワークというものは本質的に、「端と端につながるノード(参加者)の入力」に依存する。
電話という道具の、両端にいるのがノーベル賞受賞者どうしなら、人類を代表する高尚な内容が流れる。両端にいるのが、後ろ向きなくたびれたサラリーマンどうしなら、愚痴や第三者の陰口が流れる。おなじ原理だ。
ネットワークそれ自体は、何ら付加価値を生み出さない。
もちろん、パイプが太い(細い)、流れやすい(にくい)、レスポンスが早い(遅い)、増強する(衰弱する)ことはある。だけど、「発信しないのに勝手に返信がくる」ことはない。
「入力=元を取ろうとする行動」で、すべての出力(リターン)が決定される。そして、「元を取ろうとする」「継続する」ことは案外に難しく、しばしば少数派でもある。
誰かの相談に乗るときのコツがあるとしたら、
「正解を講釈」するのではなく「相手が考える支援」をする
ことだ。
専門の研究者でもなんでもない、あなたや私が考えつく"正解"は、しょせん、我流の、自説の披露だ。たいして価値があるわけでもなく、当たるも外れるも、の占い程度のものにすぎない。
そうではなく、相談タイム終了後、相手が、自分で考えられるような補助線を引く。その手伝いをするということだ。
「何の切り口で書き出してみてはどうか」
「身近で、吐き出せる相手をみつけられそう?」
「また煮詰まったときどうするか決めておくといい」
相談している時間よりも、一人の時間のほうがずっと長いのだから。問題の所有者はその相手であって、こちらがどうこうできることではないのだから。
相談を受けるときは、こんな感じで、「安全」と「自走」を重視して言動するようにする。
そして、「相談に乗ってやっている」と、チラとでも考えないこと。「こちらが、趣味で、物好きで、自分の実益をかねて相談に乗らせてもらっている」と考えること。
この前提条件の設定が、いちばん重要で、いちばん難しいことでもあります。
次回は「才能よりも技術よりも、手に入れやすいのは『一貫性』だ」という話をします。
(つづく)