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渋谷らくご(20年11月15日 14時)

■演目
一、 落武者(昇羊)
一、 蒟蒻問答(小せん)
一、 小人十九(吉笑)
一、 一眼国(正蔵)

■所感
祝、六周年!
11/15(日)14時会は新作派の二ッ目と古典派のベテラン/若手真打が交互に上がる幕の内弁当。演者が変わる度に会場に流れる空気が変わると共に、尻上りに高まった熱を正蔵師がグググッと締めたのが印象的だった。

昇羊さん「落武者」。
観る度に『(良い意味で)この人は何なんだろう』と思わされる演者、昇羊さん。
前回拝見した際は池袋近辺に停留していたMM号の話、今回はTBSドラマ「恋する母たち」を熱く語る。MM号の時は本編とのつながりがあったか記憶に無いが、今回の「恋する母たち」は本編とちゃんと繋がる真ツ当な枕の選択……なのだが、何だろう。この違和感、ザワザワした感じ。そこはかとなく、いや明確に“アレ”な感じが出ている(誉め言葉)。仲里依紗・木村佳乃に一瞥もくれず吉田羊に異常に執着する姿。吉田羊が部下に流される姿を男の願望側面では無く、何故か夫を持つ貞淑な妻目線で咎める姿。糾弾しつつ何処かに羨ましさが滲み出る姿。どこを切り取っても“アレ”な感じが出ている(誉め言葉)。
言うなれば、変態紳士。全裸だが蝶ネクタイと靴下は忘れない。ニタリと笑う姿に思わず慄き、何かを刺激してはいけないと強張った笑顔で返す……という類の楽しい演者。
本編「落武者」もその素質が十二分に光っていた。落武者の満更でも無い感じ、下衆な期待に胸躍りつつカバディのように一定の距離を保ちつつの臆病者振りが楽しい楽しい。サゲのしょうもなさも含めて面白かった。

小せん師「蒟蒻問答」。
前方の変態紳士からバトンを受け取り、直ぐに静かで穏やかな空間に切り替えてしまう掌握力に痺れる。
訥々と始まった「蒟蒻問答」は語るように、歌うように。心地良いリズムに身を任せ、噺の世界に流れに身を委ねる時間。噺の世界に肩まで浸かってノンビリしている所に、突如放り込まれる『煮え湯ブッかけろ』や『埋める所は幾らでもあるんだ』の物騒な文言にギョッとしつつクスクス笑う。頭から尾っぽまで餡子がギッシリだった。

吉笑さん「小人十九」。
落ち着いた雰囲気を再度、掘り起こし。全国ツアー中のソーゾーシーで巻き起こる珍道中で会場の温度を上げる。ソーゾーシーは以前より拝見しており、また今回の東京公演に行ったので、メンバーの関係性が年をおうごとに変わっていく遷移が面白い。あと、お互いがお互いに『変な人』と思っている関係性も面白い。ソーゾーシーで燻る太福さんの懸念話を語りつつ、メディア露出に伴う言葉警察の一斉摘発からの新作「小人十九」。
吉笑さんだからこそ出来る造りになっていて、違和感の出し方が非常に巧い。枕からの流れで気が付く人は気付く、気が付いた人のクスクス笑いが追加の違和感を生み出して、更に気が付く人が増える。“ルールに気が付く人”が感染者の如く、空気感染していく様も面白い。噺の内容も進化しており、感染者の炙り出し方が明確だったり明確じゃなかったり、違和感の混ぜ方の配分が変わっていたりと色々な事が引っかかる楽しい時間だった。

正蔵師「一眼国」。
膝の関節炎で合曳を使っている話から、ギョッとする程似ている権師の憑依。からの見世物小屋の枕を通して本編。
兎にも角にも、悪い香具師が物凄い巧い。正蔵師の中にこの要素が無いと出てこないだろう、という“悪”の要素が養老の滝の如く溢れ返っている。六部に対して話を引き出そうと繰り返す『温かいおまんま、炊けてるんだ』の表現力たるや。お前ら、これさえやれば何でも話すんだろう、という相手を見くびった感じも、あくまで自分が上という立場も、安く儲けのネタを仕入れてやろうという傲慢さも、全てが詰まっている。繰り返される、その言葉の抑揚で香具師の気持ちが手に取るように分かり、こいつがロクデナシであることも分かる。
冒頭から終盤まで流れるように語られ、全くのノイズ無しで噺の世界に没入することが出来た。語りに温かみを感じさせる時と、温度を全く感じさせない時、その両方が共存する師の語り口にグッときた。
以上

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