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憂鬱たち
決断するということ
「それじゃあ、また一週間後」
軽く手を振ると同じように軽くてを振り背を向けた姿を確認する間もなく鉄の黒い扉は音もなく閉まり、係の女が無遠慮にガチャリと音を立てて鍵をかけた。
扉の向こうはおそらく自由が制限された、というのは謳い文句でおそらく全く自由のない世界。騙されたかもしれない、そう思った。
この扉を一枚隔てただけの違いでこれは一体どういうことなんだろう。人の尊厳ってなんだったっけ?ふと考えそれを打ち消すように、
「それではお願いします」
と軽く会釈し逃げるように立ち去った。
疲れ果てて立ち寄った珈琲店でかなり遅めの昼食と温かい珈琲。味は美味しかったと思う。だけど上手く喉を通らない。
「ちょっと早かったかなぁ…」
夫がポツリと呟いた。
担当医と支援員から面談に行って欲しいと言われた。快く従った。彼らの説明は真っ当で不快な点が見当たらなかったからだ。
面談中もさほど心に引っかかることもなく、なんなら現状よりも本人が快適な暮らしを手に入れられる気がして気分はよかった。
警戒心の強いわたしたちは、それでも各々でググってみたりもしたし、与えられた説明書をもとにされるがままにならないようにと手早く準備した。順調だった。なのに、このすっきりしないもやもやしたものはなんなんだろう…。
「おはよう」
そう声をかけて朝食に手をつけたとき、
「憂、この休日は久しぶりに何処かに出かけようか、気分転換に。」唐突に夫がそう言った。
「君を責めるつもりはない。そんなことは少しも思っていない。これでいいと思っていた。だけど本当にこれでよかったんだろうか…」
驚いて顔を上げる。夫はそんなことを言葉にする人だったけ。意表をつかれ少し固まってしまった。
「わたしもそれは昨日からずっと心に引っかかってた。でも…」
「そう、だからと言って俺たちに選択肢はない。
だからこれでいいと思っていた。なのに昨日からずっと胸がすっきりしないんだ。」
そう言った夫の目は少し赤みを帯びており、声は震えていた。
つづく(かもしれない)