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遁走としての旅

 施川ユウキ氏の「鬱ごはん」を読み返しているが、すごく印象に残るセリフが多い。施川氏は他の漫画でも、Twitterでもご自身が印象的なことをかなりつぶやいていて、「言葉の人」なのだな、と思わせるものがある。

 3巻の中盤で彼は金沢に旅行に行くのだが、

「無知ゆえに、人はいつも考え方を誤り、正しい見解を失い、自分のエゴに固執し、間違った行動をとる。その結果妄想世界に執着するようになる」とブッダが言った
 …と、ウェルベックの小説に書いてあった

 と、こんな独白をする。これはミシェル・ウエルベックの小説「プラットフォーム」に出てくる文なのだけど、思わずこの本を買ってしまったくらい、すごく印象に残ってしまった。

旅行とは、生活という現実を一旦先延ばしにする行為だ

 これも好きな独白。このあたり、つげ義春の旅行記「貧困旅行記」の冒頭の話「蒸発旅日記」を少し感じる。つげ義春はこの話の中で、たった数回文通しただけのファンだという女性に会うために九州へ行き、「住み着くつもり」などと嘯くのだ。

 「この世からの遁世」は古今東西、ひとつのテーマであったのだと思う。私の波長に合っているのではないかとぼんやり思うが、同時に、最近それが現実味を帯びて感じられ、そのまま惹かれていってはいけないのではないかとも思う、怪しい魅力がある。

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