貧困ダイエット

お昼時、僕はフラフラと街を彷徨っていた。お腹はペコペコである。この空腹を何とか収めなければならない。血走った目で僕は周囲を見回していた。目に飛び込んでくるのはマクドナルド、松屋、吉野家といった飲食チェーンの看板だ。しかし僕はそんなものには目もくれずまっすぐに歩き続けた。そして歩き続けること数分、お目当ての激安スーパーにたどり着いた僕が、餓鬼のような顔で手に取ったもの、それは弁当でもなければ惣菜やおにぎり、菓子パンでもない。コーラのペットボトル1つ、それだけだった。コーラを大切そうに抱きかかえた僕は小走りでレジに行き、そそくさと会計を済ませると店を出るか出ないかのところでキャップを開け放ち喉を鳴らしてあのシュワシュワを胃に送りこんだ…。

これはここ最近、仕事をしている日に僕がいつも繰り広げている光景である。とうとうお昼ごはんを摂るという習慣さえ喪ってしまった。原因は端的に金欠である。
その前もお昼ごはんは抜きがちであった。なにしろ勤務体系が不規則である。食事をするタイミングを見失ってお昼ごはんを抜くことはよくあることだった。
だが今は違う。タイミングを見失うとかそんなのは関係ない。どんなに休憩時間と空腹がやってくるタイミングがドンピシャだろうと、僕はお昼ごはんを食べない。
とはいえ、やはりそこは人間である。そして三度三度の食事を当たり前に摂るのが習慣として根づかせて生きてきた先進国の住民である。だからお昼時にはお腹がすく。しかしもはや僕にはお金がない。そこでコーラなのだ。炭酸モノは空腹を紛らわせるにはとても効果的な飲み物だ。数ある炭酸飲料の中でもコーラは抜群に腹持ちが良い。そうして僕はお昼時にはコーラを求めて街を彷徨う妖怪と化してしまっているのだ。

コーラと言っても最近は気軽に飲めるものではなくなってしまった。その辺の自動販売機でコーラを買うことなどとてもできない。
180円。
自販機でコーラを買おうとすればこれだけの金額を取られる。もう一度書こう。180円だ。コーラ一本で180円である。とても手が出せる金額ではない。こんな無茶な話はない。だがスーパーなら100円出せばどうにかコーラを購入することができる。100円、これが今の僕がお昼ごはん代に出せる精一杯の金額である。

なんでもかんでも値上げの世の中である。賃金の上昇をはるかに上回るペースで物の値段はぐんぐん上がっていく。今はまだお昼ごはんをコーラに差し替える程度で済んでいるが、このまま行けばコーラすら買えなくなるかもしれないし、昼だけでなく朝も夜も満足に食事を摂れなくなる日がやってくるかもしれない。そんな目にあってる人はたくさんいるだろうし、もっと酷い境遇に置かれている人もいる。ていうか、ずっと前からいっぱいいた。そんな人たちは「何とかしてくれろ」と必死に叫んでもきたわけだが国のお偉いさんたちはそんな叫びに耳を塞ぎ続け、ヘラヘラしながら自己責任論なんかをうそぶいていた。人間は何かを食べないと死ぬようにできてるんだから、「食べ物を買えない」と言っている声に耳をシカトするのはもう「死ね」と言っているのに等しい。まさに民主主義の破壊行為と言っていい暴挙であり暴力である。自分たちはそんな暴力をふるっておいて、いざ自分たちが「死ね」と言われ爆弾を投げられたら「民主主義を破壊するテロには屈しない」なんてカッコいい顔をしながら毅然と言い放ってるんだから世話のない話である。民主主義なんてのはもうとっくに自分たちで壊しているのだ。

なんか政治的な話になってしまったが、とにかく僕はお昼ごはん=コーラの男にまで墜ちてしまった。
「それはお前が努力もなんもせずに生きてきたからだろ。はは」
などと嘲笑する向きもあるだろう。それもまた真実ではあるが、人に誇れるだけの努力こそしてこなかったもののそれなりに真面目に働いてきたのにこんな状況である。人並み程度にはやってきたはずだ。幻冬舎とかは「鈴木くんはわかってないな。人並みじゃダメなんだ。人並み外れた努力をしないとね。はは」とほざくかもしれない。人並み外れた努力をしなければお昼ごはんも満足に食べられない国って終わってるんじゃね? と思うばかりである。


1日2食でとにかくコーラばかり飲む生活。この生活を続けたら人はどうなるのだろうか。
驚くべきことに、この食生活はめっちゃ太る。すごいペースで太る。
おかしい。こんなことはあってはならない。そう思う。そう思うが実際に体重計に表示される数字は「お前、めっちゃ太ったよ」と無常に真実を突きつける。
「コーラだからダメなんだ。ダイエットコーラにしよう」
などと足掻いてもだめである。体重計の数字は日に日に増えていく一方だ。
お昼コーラ生活をスタートしたとき、僕は密かに希望を抱いていた。不本意ながらも1日2食になってしまったのだ。これは痩せないはずがない。僕は以前のように、スマートな体型をした爽やかなイケメンへと変貌し婦女子とたくさん淫らなことができる、そう夢見ていたのだ。
夢は壊れました。僕はプクプクと太り続けていきます。
そもそも僕は、スマートな体型をしたイケメンだったことなどなく、いつだって婦女子からは蛇蝎のごとく嫌われて生きてきた。今後も同じように、いや以前よりも一層酷くぽっちゃりした有様で生きていかなくてはいけないのだ。

貧困のためにやむなく始まったコーラダイエットも失敗に終わってしまった。ならばいっそ、以前の食生活に戻した方が太るペースはマシになるのではないかと思っている。マシになったところで僕はどうせ蛇蝎、何も変わりはないがそうやって諦めるのも悲しい話だ。蛇蝎にだって五分の魂はあるのだ。
しかし前の食生活に戻せない。今のコーラ生活になった原因はお金がないからなのだ。お金がなければこのあからさまに健康に悪そうなコーラ生活を抜け出せない。
そういうわけで、私はお金がほしいです。
3食食べる、わりと人間として基本な気がします。美味しいお昼ご飯が食べたい。だからお金がほしい。どうか皆さん、僕に日用の糧をお与えください。糧代を恵んでください。下のサポートというところから恵んでください。よろしくお願いいたします。

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