腹が立つ
昨夜、眠りにつく前に一冊の本を読んだ。終わりがあまりにも呆気なく、というよりは、不意をつかれて、とも違うけど、なんて言えばいいんだろう、体裁を整えず感情のまま言うのなら「は?こんな所で終わるの?え?うっわ、最悪」と言った感じで、実際私は読んだ後、気持ち悪くて、ムカついて結局眠れず午前3時まで布団の中で寝返りを打ち続けた。
読んだ本というのは、『パッとしない子』(辻村 深月 著)でページ数も40ページ程しかないすぐに読めるものだった。
なにがそんなに私の感情を荒立てたのかと言うと、あの小説の"リアルさ"だと思う。教え子がアイドルになって再会する、よくある話ではないがアイドルだって人間だ、義務教育を受けてきただろうしそうなるとその年数分関わってきた人間がいる。私が好きな、アイドルの○○くんの人生にだってその生きた年数分、関わってきた人間がいるし、その中に教師も含まれる。どこかでは必ず起こる話、もちろん、私の身近に例えてもよくある話だ。自分の発した言葉が違うように他人に伝わっていく、時には悪意なく、時には明確な悪意を持って。面白おかしくするために、誇張されて、私が悪者になって、そうやって伝わっていく言葉たちを今まで嫌という程見てきた。そして、その逆も。私が悪意を持って、伝えてしまった言葉たちを、私自身は見てきた。誰でも一度は経験したことがあるであろう、その、嫌〜な感じを、「どうだ?こんなことあっただろ?分かるだろ?言葉に苦しめられたことが、お前にもあるだろう?」とまざまざと見せつけられるような苦しさ。もどかしさ。もやっとして気持ちが晴れず、夕ご飯が美味しく食べられなかったあの夜。そんな気持ちを思い出して嫌〜〜〜な気持ちになった。そして何より腹が立っていたのは、これだけリアルなテーマを持ち出したにも関わらず、小説のどこにも救いの手はなく、自分を慰めるための落とし所もなく、終わってしまうという残酷さに、だ。アイドルである彼は、あの先生に、呪いをかけた。自分が売れているアイドルだという立場を利用して、一生モノの呪いをかけた。かけられた先生の人生はこれから始まるのに、物語は終わってしまう。彼女の中でなにか逃げ道を見つけることも無く、ただ、プツン…とテレビが切れるように、物語は終わってしまう。それによって私は彼女の今後の人生を嫌でも想像してしまう、呪いをかけられたまま生きていかねばならないそんな人生を。
呪いをかけられたのは彼女だけではない。きっと読者である私もまた、筆者に呪いをかけられたのだろう。それこそ、一生モノの呪いを。