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アラハバキ

■アラハバキ


「アラハバキ 」は縄文人の神とも、蝦夷の神ともいう。
また、「アラ」は鉄の古語で、製鉄民の神だとも。村境にあって、邪悪なものの侵入を防ぐ「塞(さえ)の神」説もあり、「塞の神」は、本来は「サヒ(鉄)の神」だとする。(製鉄民の神は、シュメールのドラゴン(九頭竜)で、日本に製鉄技術と共に伝わって八岐大蛇になったと思うけどね。西洋のユニコーンが東洋では麒麟と呼ばれるように、シルクロードの途中で神の姿は変化する。)
「アラハバキ」の表記は「荒覇吐」「荒吐」「荒脛巾」「阿良波々岐」など数多い。

■『ササラ風土見聞録』「アラハバキという名の神」
 アラハバキという耳慣れない名の神は、一説によると縄文時代から連綿と伝えられているとも言われる。一般的になじみは薄いが、祭神としている神社は全国に150社以上あるといわれる。蝦夷(えみし)の神であったという説が一番有名だが、神社の多くは旅の神とか足の神などとしてアラハバキを祭っている。ハバキ=脛(はばき。昔の旅人が脛に巻いた脚絆)に似通った音から関連づけられたのであろう。漢字による表記は《荒吐》《荒覇吐》《荒脛》などとまちまちで、古事記の中に現れる奇妙な字面をもつ神と同様、初めにあった音に漢字を当てはめた、いわゆる当て字であることが判る。足の神→下半身神ということで、男性性器をかたどった御神体を祭る神社もある。アラハバキ神は塞の神であるという説もある。塞の神は村外れに祭られる道祖神であり、集落を疫病や戦、招かざる客から護るとともに、夫婦和合の神でもある。陽石や陰陽石、夫婦のレリーフなどで表される。また、アラハバキ神を祭る神社の多くは磐座(いわくら)を御神体としているため、出雲の磐座信仰との関連を指摘する者もいる。そして磐座=巨石信仰が学問上確認されるのは古墳時代以降ということもあり、アラハバキ神は縄文よりも新しい神であるというのである。アラハバキ神が遮光器土偶に酷似しているという説もあるが、それは《東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)》という書物に載っている話である。《東日流外三郡誌》は、アラハバキ族という者たちが北東北に住んでいて、その祭神がアラハバキであると書かれている。しかし、その書物に現れる誤字が発見者のものと同じだとか、書かれたとされる時代と文法が異なっているなどの点から、現代になって創作された偽書であるという疑いが極めて強い。
https://www.thr.mlit.go.jp/isawa/sasala/vol_38/vol38_2fr.htm

※「【神社雑記】諏訪神とアラハバキ神 」


※『神奈備にようこそ』
「客人社と荒波々幾神を祀る神社一覧」


荒ハバキ神の「ハバキ」の語義は不明である。不明であるから多くの漢字表記が存在する。

①アラハバキ=女性器のアイヌ古語説:倶知安のアイヌ酋長・菊池俊一夫妻が語るところでは、アイヌの古語で、男性器はクナト、女性器はアラハバキで、一対(ペア)だという(吉田大洋 『謎の弁才天』)。男性器は石棒、女性器は土偶か?

②ハバキ=箒の古語説:日本で唯一、伊勢神宮(内宮)でしか祀られていない神に「矢乃波波木(ヤノハハキ)神」という「箒(ほうき)」に宿る女神がおられる。ハバキ=箒で、アラハバキ神=ヤノハハキ神の荒魂、箒に宿る男神と考えられる。だが、そうであれば、アラハバキ神とヤノハハキ神が対(ペア)で祀られるはずであるし、ヤノハハキ神を祀る神社が、アラハバキ神を祀る神社のように多くあるはずである。

③ハハ=蛇の古語説(吉野裕子『山の神』):「ハハ」は蛇の古語であり、「ハハキ(蛇木)」とは、蛇のように細長い木製品の「箒」、祭りの中枢の高木だとする。諏訪地方の御柱はアラハバキ神か?

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私は、「アラハバキ=女性器のアイヌ古語説」の支持者で、私の説は、
「アラハバキ神⇒岐(クナト)の神(誤伝)」説
である。
 アラハバキは、アラハバキを象ったとされる鳥居(たとえば、鎌倉の鶴岡八幡宮は、社殿を子宮、若宮大路を胎道、浜の大鳥居をアラハバキに見立てて整備された)の両側に置かれる石である。現在、鳥居の両側には、古式に従い、上の写真のように櫛石窓神&豊石窓神を表す石が置かれたり、櫛石窓神&豊石窓神を祀る小祠が置かれているので、アラハバキ神=石神=櫛石窓神&豊石窓神=門神説もある。
 神社(聖地)の出入口である鳥居=アラハバキ(女性器)の両側には、アラハバキと対をなすクナト(男性器)を表す先が尖った石を置いたが、そのクナトがアラハバキだと誤伝されて広まったとするのが私の説である。(というか、菊池俊一夫妻には申し訳ないが、アイヌの古語は、男性器がアラハバキで、女性器がクナトではないか?「ト」は、火門(ほと)、山門(やまと)、水門(みと)の「門」だと思う。なお、現在のアイヌ語では、男性器は ci(チ。日本語の「ちんちん」の語源)、女性器はkorpe(コㇽペ / コㇿペ)、kor'm'm(コㇿㇺㇺ)、m'm(ㇺㇺ)である。基本的な用語でもこんなに異なる。よく「この地名は、アイヌ語で・・・の意味です」と聞くが、現在のアイヌ語で解釈するのではなく、アイヌ語の古語で解釈するべきであろう。)
 本来はクナト(岐の神)とアラハバキ(鳥居)が一対なのであるが、現在は鳥居の両側には門神(一対の櫛石窓神&豊石窓神)
・随身門では一対の随身(矢大臣、看督長)
・寺の仁王門では一対の(阿吽の)仁王
・道教では神荼&鬱塁
が一対で祀られている。

 以上、私は、

アラハバキ(鳥居の両側の石)⇒石神⇒先の尖った巨石⇒磐座
              ⇒鳥居(聖地の出入口)の両側の門神
              ⇒村の出入口の岐(クナト)の神


と転移したと考えている。

文字資料がない時代に生まれた古代の神々(アラハバキ、ミシャグジ等)や祭器(石棒、銅鐸、子持ち勾玉等)などについては、ご神徳や使用方法が不明である。

■東三河のアラハバキ神


東三河(設楽郡が分離する前の宝飫郡)の式内社は、

・形原神社:旧鎮座地は石碑のみで詳細不明。製塩の神か?
・御津神社:旧鎮座地の磐座「石畳」を祀る。
・菟足神社:穂国造を祀る。
・砥鹿神社:山中の磐座「天の磐座(国見岩)」を祀る。
・赤日子神社:聖山の磐座を祀るとされる。海神族の神社。
・石座神社:山中の磐座「石座石」を祀る。

※「三河国の式内社(しきだいしゃ)」

上記の『神奈備にようこそ』「客人社と荒波々幾神を祀る神社一覧」によれば、東三河(宝飫郡、設楽郡)のアラハバキ神を祀る神社には、

・砥鹿神社摂社荒羽々気神社(ご祭神:大己貴命荒魂)
・宮道天神社(ご祭神:宮道大明神、緑大明神、客人大明神)
 ※ただし、現在のご祭神は「建貝兒王、草壁皇子、大山咋命」
・神倉神社(ご祭神:イザナミの命)
 ※明和9(1772)年の棟札に「客人大権現」
・石座神社摂社荒波婆岐社(ご祭神:豊石窓命、奇石窓命)
・竹生神社摂社荒羽々気社
・熊野神社摂社荒羽々気社

があるという。

 三河国一宮・砥鹿神社(ご祭神:大己貴命)の本宮の摂社・荒羽々気神社(ご祭神:大己貴命荒魂)は、大己貴命を祀る社殿の少し下にある国見岩とは別の磐座「天の磐座」の横に小祠があり、草履が奉納されている。昔は祠が無く、豊石窓命&奇石窓命が宿る「荒羽々気」と呼ばれるご神木があったという。

 宮道天神社は、宮道氏(後の蜷川氏)の本貫地の神社で、本来のご祭神は、宮道氏の祖・建貝兒王(日本武尊の三男)である。

 豊石窓命&奇石窓命を祀る石座神社の摂社・荒波婆岐社は、鳥居の片脇にある。本来であれば、豊石窓命と奇石窓命を分けて、鳥居の両脇に祀るべきである。(三河国分寺の守護社・八幡神社は、鳥居の両脇に豊石窓命と奇石窓命を分けて祀っている。)

 ちなみに、東三河から西遠(天竜川以西の遠江国)では、古墳のことを「火穴(ひあな)」という。古墳は、死者の再生を願う装置で、石室=子宮、羨道=胎道であるから、「火穴」は「ほと」と読むべきではないかと思っている。


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