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塵輪鬼(じんりんき)は八岐大蛇か?

塵輪鬼(じんりんき)は、沈輪鬼(ちんりんき)ともいう。
(「じんりんき」ではなく「ぢんりんき」であろう。)

御存知ない方も多いだろうが、
・日本に攻め込んだ異国人の先陣の大将
 →仲哀天皇に討たれる(石見神楽「塵倫」)
 →仲哀天皇にも矢が当たり崩御(『八幡愚童訓』)
・実は八幡大神(『八幡宇佐宮御託宣集』)
・仏敵の麁乱荒神(『元亨釈書』)
・蒙古の大将(「岡本頼元奉納祝詞」)
日本史のあちこちに登場する重要人物、いや、重要怪物である。
あちこちに登場するので正体というか本質を把握しにくい。

───塵輪鬼の共通点を探り、その正体(本質)に迫ってみた。

さらに、「鬼」の定義を試みた。

『歴史人』(2023年6月号)「鬼と呪術の日本史」(ABCアーク)

1.石見神楽「塵輪」(仲哀天皇が退治)


石見神楽(いわみかぐら)は、日本の神楽の様式のひとつ。島根県西部(石見地方)と広島県北西部(安芸地方北部)において伝統芸能として受け継がれている。日本神話などを題材とし、演劇の要素を持つ。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 日本武尊の子・仲哀天皇が、自ら塵輪を退治する物語(ストーリー)。
 「塵輪」は、日本に攻め入った異国の大将軍だという。仲哀天皇の死後、仲哀天皇妃の神功皇后は、海外進出「三韓征伐」を果たすが、それ以前に日本が外国に攻められていたとする設定(「異族襲来説話」)が興味深い。

天皇「自らは人皇第14代の帝、帯中津日子の天皇とは自らがことなり。今度異国より数万騎を従え攻め来る中に、じんりんと申して身に翼あり、神通自在に飛び行く大悪鬼、国々村々を駆け廻り、日々に人民を亡ぼすことその数を知らず。我が官軍のうち彼に敵するもの一人もなかるべし。この者飛び来らば急ぎ高麻呂、自らに奏聞いたすべし。我また天神地祇を頭に頂き、天つ御親日の御神の御稜威を背に受け、天の鹿兒弓、天の羽矢の威徳を以て、退治せばやと思うなり」
高麻呂「これはこれは、有難き詔にて候。じんりんそのまま差しおきたまはば、人民の歎きは申すに及ばず、遂に玉体安穏のほど覚束なく、何とぞ御退治遊ばされたく然らば民安全と存じ候」
高麻呂「かけまくもかしこき御簾の内に言上仕り候。先だって仰せつけられ候じんりん、只今黒雲に乗つてこの辺に飛び来り候ほどに、急ぎ甲冑弓ぜんの御用意あって、何とぞ御退治遊ばされたく候」
「それに立ち向ふたるはいかなる神にましますぞ」
「自らは、人皇第十四代の帝、帯中津日子の天皇の神なり。汝いかなるものやらん」
「おお我はこれ、今度日本征伐の大将軍、じんりんとは我が事なり。汝一命を惜しむものならば、早や早や我にこの国を譲り、この所を立ち去るべし」
「あら愚かやな。汝魔法を以て霞に隠れ雲に乗り、神通自在に飛び行くとも、われまた天神地祇の威を頭に頂き、天つ御親日の神の御稜威を背に受け、天の鹿兒弓、天の羽々矢の威徳を以て、汝が一命打ちとどめんこと只今なり」
「あらおかしやな、おもしろやな。いざや立い合い勝負を決せん」

校訂石見神楽台本

 天皇が実名で登場する演劇って珍しいと思う。

🔳都治神楽社中  (つちかぐらしゃちゅう)
 石見西部を中心とした八調子神楽で、神社の例祭はもとより県内外の諸行事へ積極的に参加している。保持演目は、「鈴神楽」「塩祓」「八幡」「弁慶」「天神」「塵輪」「大江山」「恵比須」「頼政」「日本武尊」「八十神」「道返し」「黒塚」「かっ鼓」「切目」「岩戸」「神祇太鼓」「鐘馗」「五穀種元」「天蓋」「鹿島」「八衢」「大蛇」「五神」と多い。
■演目「塵輪」
 人皇第14代仲哀天皇の御代、異国より日本征伐を企てて数万の軍勢が攻めてきた。 その中に「塵倫」という身に翼があり、黒雲に乗って虚空を自由に飛び回る神通自在の大将軍(塵輪は翼を持ち黒雲に乗って飛来する鬼なので、衣裳の背中には翼が描かれている)がおり、国々村里を荒らし、多くの人民を滅ぼしていた。しかし、我が日本国には、この大悪鬼にかなう者がいなかった。そこで、仲哀天皇自ら不思議な霊力のある十善万乗(じゅうぜんばんじょう)の神変不測の弓矢(天の鹿児弓(あまかごゆみ)と天の羽々矢(あまはばや))を持って高麻呂を従え討伐に向かい、激戦の末、神通力を持ち、戦術にも長けた鬼を退治した。

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