素盞嗚尊の子供たち
『二十二社註式』「祇園社」によれば、牛頭天王は、播磨国明石浦に垂迹し、広峯、北白川東光寺、感神院と遷ったそうである。承平5年(935年)6月13日の官符には、5間(9m四方)の神殿1棟に天神、婆利女、八王子を祀ったとあり、これが祇園社(現在の八坂神社)の創祀とされる。(祇園社の創祀については、①斉明天皇2年(656年)、伊利之(之留川麻之意利佐)が新羅の牛頭山に座した素戔嗚尊を山城国八坂に祀ったのが創祀、②貞観18年(876年)、僧・円如が、播磨国広峯の牛頭天王を勧請したの創祀、など諸説あります。)
http://www.yasaka-jinja.or.jp/about/
「天神」は「天王」のことで、『仏説武答天神王秘密心点如意蔵王陀羅尼経』には十変化し、その1つが、武答天神王(むとうてんじんおう)であり、牛頭天王(ごずてんのう)だとある。(「武答天神」は、頭に角が生えていたので「牛頭天王」と呼ばれた。)
「婆利女(ばりにょ)」は、「天神」の妻で、「頗梨采女(はりさいにょ/ばりうねめ)」ともいう。
「八王子」は「天神」と「婆利女」の8人の子で、『祇園牛頭天王縁起』によれば、
第1王子:相光天王 太歳神 本地:釈迦如来
第2王子:魔王天王 大将軍 本地:文殊師利菩薩
第3王子:倶魔羅天王 歳徳神 本地:弥勒菩薩
第4王子:徳達神天王 歳末神 本地:観世音菩薩
第5王子:羅侍天王 黄幡 本地:薬師如来
第6王子:達尼漢天王 伏龍神 本地:普賢菩薩
第7王子:侍神相天王 豹尾 本地:阿弥陀如来
第8王子:宅相神摂天王 大隠神 本地:地蔵菩薩
の8王子である。
さて、『二十二社註式』が書かれた時代には、創建時の「天神、婆利女、八王子が1間」から「牛頭天皇、元の御前、今の御前が3間」に変わっていたようで、
西の間:元の御前。奇稲田姫垂迹。一名婆利女。一名少将井。
中の間:牛頭天王。大政所と号す。進雄(すさのお)尊垂迹。
東の間:虵毒気竜王の娘。今の御前である。
とある。
(「少将井」「大政所」は祇園会の御旅所が置かれた場所の地名であり、社名で、豊臣秀吉が変更するまでは、神輿3坐のうち1基が少将井(京都府京都市中京区少将井町)の御旅所の「少将井社」(御祭神:少将井の宮=櫛稲田姫命)に遷され、名井「少将井」の井桁に神輿を安置して疫病の流行を防いだという。残る2基は大政所(京都府京都市下京区大政所町)の御旅所「大政所天王社」(御祭神:牛頭天王)に遷された。)
※参考記事:「少将井御旅所跡 霊水と藤原実資」
https://www.kyoto-inf.com/2019/03/05/posted-shoshoiotabishoato/
東の間の「虵毒気竜王の娘」は、「今の御前」(継室)だという。
虵毒気竜王については、
説①牛頭天王(義浄三蔵訳『仏説武答天神王秘密心点如意蔵王陀羅尼経』の天王十変化の1つに「蛇毒気神王」とある。)
説②牛頭天王の王子(安倍晴明『三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集』に、第7王子が生まれた時に池に捨てた胞衣(えな)と月水(経血)から生まれた第8王子(「第八豹尾神は蛇毒気神。本地は三宝大荒神」)とある。)
説③八俣大蛇(一条兼良『日本書紀纂疏』に「蛇毒気神、疑ふらくは是、八岐大蛇の化現か」とある。)
の3説があるが、「虵毒気竜王の娘」が、牛頭天王の娘、牛頭天王の孫娘、八岐大蛇の娘のいずれであっても、牛頭天王の結婚相手としてはふさわしくないと思う。
※津島神社境内社・蛇毒神社では八岐大蛇が祀られていた。(現在は建速須佐之男命荒御魂を祀る荒御魂社に変っている。)
※参考記事:「佐野郡の式内・眞草神社 -毒蛇気神-」
https://note.com/sz2020/n/n661d12e5dadd
■『二十二社註式』「祇園社」
牛頭天皇、初て播磨国明石浦に垂迹し、広峯に移る。其の後、北白川東光寺に移る。其の後、人皇57代陽成院元慶年中、感神院に移る。
西間 本の御前。奇稲田姫垂迹。一名婆利女。一名少将井。脚摩乳、手摩乳の女。
中間 牛頭天皇。大政所と号す。進雄尊垂迹。
東間 虵毒気竜王女。今の御前也。
人皇61代朱雀院の承平5年6月13日の官符云ふに「観慶寺を以て定額寺と為す事を応ず。(字は祇園寺。)山城国愛宕郡八坂郷地に一町在り。檜皮葺三間堂一宇(庇四面に在り)。檜皮葺三間礼堂一宇(庇四面に在り)、薬師像一躰、脇士菩薩像二躰、観音像一躰、二王、毘頭盧一躰、大般若経一部六百巻を安置す。神殿五間檜皮葺一宇、天神、婆利女、八王子。五間檜皮葺礼堂一宇、右山城国解得偁、故に常住寺の十禅師伝燈大法師位円如、去る貞観年中、建立為し奉る也」と。
或云ふ「昔。常住寺の十禅師円如大法師、託宣の依り、第56代清和天皇の貞観18年、山城国愛宕郡八坂郷樹下に移り奉る。其の後、藤原昭宣公、威験を感じ、台宇を壊運し精舎を建立す。今の社壇是れ也」と。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1879424/406
■義浄三蔵訳『仏説武答天神王秘密心点如意蔵王陀羅尼経』
凡そ天王、十種反身有り。第一に曰く武答天神王、第二に曰く牛頭天王、第三に曰く倶摩羅天王、第四に曰く蛇毒気神王、第五に曰く摩那天王、第六に曰く都藍天王、第七に曰く梵王、第八に曰く玉女、第九に曰く薬宝賢明王、第十は疫病神王なり。
明治以降の八坂神社の御祭神は主祭神・素戔嗚尊、櫛稲田姫命、八柱御子神である。
中の座:牛頭天王 (武塔天神王)→素戔嗚尊 (すさのをのみこと)
東の座:八王子 →八柱御子神(やはしらのみこがみ)
西の座:頗梨采女 (婆利女) →櫛稲田姫命(くしいなだひめのみこと)
(神大市比売命と佐美良比売命を配祀)
「八柱御子神」 とは、素戔嗚尊の8人の子供(八島篠見神、五十猛神、大屋比売神、抓津比売神、大年神、宇迦之御魂神、大屋毘古神、須勢理毘売命)の総称である。
前置きが長くなったが、この記事のポイントは、
①八柱御子神の母親は、櫛稲田姫命、神大市比売命、佐美良比売命のどなたか?
②素戔嗚尊の子供は八柱御子神の8人だけか?(多くの子供たちの中から、牛頭天王の「八王子 」に合わせて8人を選んだのではないか?)
の2点である。
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