原案・黒岩勉『全領域異常解決室』(第1話)「神隠し事件とシャドーマン」
内閣官房国家安全担当審議官室(内閣府本府庁舎)→全決に調査依頼
鶴岡(つるおか)/演:? 総理大臣。鶴岡八幡宮。
氷川(ひかわ) /演:? 長官。氷川神社。
鹿島(かしま) /演:? 直毘吉道の前任者。鹿島神宮。
直毘吉道(なおび よしみち)/演:柿澤勇人 内閣官房国家安全担当審議官
全領域異常解決室 東京支局 ※全員神。
宇喜之民生(うきの たみお)/演:小日向文世 局長。宇迦之御魂神。
雨野小夢(あまの こゆめ) /演:広瀬アリス。室長。天宇受売命。
興玉雅(おきたま みやび) /演:藤原竜也。興玉神(実は天石戸別神)。
豊玉妃花(とよたま ひめか)/演:福本莉子 豊玉毘売命。
《非常勤職員》
芹田正彦(せりた まさひこ)/演:迫田孝也 デリバリー。猿田毘古神。
村主虎飛矢(すぐり こびや)/演:名村辰 舞台俳優。園芸店。少彦名命。
警視庁捜査一課「ヒルコ専従班」 ※全員人間だが、名は神社名に似る。
荒波健吾(あらなみ けんご) 警部、班長。荒波々岐神社。
二宮のの子(にのみや ののこ)/演:成海璃子 警部補。大隅国二宮。
北野天馬(きたの てんま) /演:小宮璃央 巡査部長。北野天満宮。
第1話 神隠し事件とシャドーマン
1.神隠し事件
5件の殺人事件━━といっても、殺害現場には遺体がなく、着衣、持ち物、髪の毛、そして、大量の血液のみがあった。血液の量から失血死したことは確実で、遺留品(身分証)とDNA鑑定により、亡くなったのは、
2024/4/ 5 大守 浩志:関東医科大学理事長。大物主命。
2024/5/14 石狩 愛実:ジュエリーデザイナー。伊斯許理度売命。
2024/6/23 健実 和生:政治家(元格闘家)。建御雷神。
2024/7/16 大月比呂佳:徳島県出身の料理研究家。大宜津比売神。
2024/9/ 5 刀田 楓真:大手広告代理店代表取締役社長。布刀玉命。
の5人、いや、5柱の神々であることが分かった。
「蛭児(ヒルコ)」と名乗る神から犯行声明が出され、警視庁捜査一課に「ヒルコ専従班」が結成された。そのメンバーは、
荒波 健吾/演:ユースケ・サンタマリア 警部、班長。
二宮のの子/演:成海璃子 警部補。
北野 天馬/演:小宮璃央 巡査部長。
の3人であった。
対策室で、班長の荒波健吾は、亡くなった大月比呂佳の写真をじっと見つめていた。彼女とは同郷で、小学校の同級生であった。
───何としても犯人・蛭児を逮捕しなければならない。
そうは思うが、遺体が消えてしまうとは実に奇妙である。身分証やスマホを隠して遺体の身元を分からなくする事件はあるが、遺体だけを隠す事件はまさに「神隠し」であり、前代未聞だ。そんなことする理由が分からない。
事件は続いた。次の3人が連続して殺されたのである。
・相原樹里(あいはら じゅり):化粧品通販サイトを運営する経営者。
・生駒雲母(いこま きらら):看護師。
・駿河美鶴(するが みつる):ガールズバーの経営者。
8件の不可解な連続殺人事件に、日本国民に不安が広まると同時に、蛭児を神と崇める信者も現れてきているという。
事の重大さに、内閣官房は全領域異常解決室東京支局(通称「全決(ぜんけつ)」)に、新任の内閣官房国家安全担当審議官・直毘吉道を窓口として事件の捜査を依頼した。
「全領域異常解決室」とは、アメリカの国防省内の組織と同じ名であるが、日本の全領域異常解決室は、世界で最も古い捜査機関で、古代から日本を守ってきたという。そのメンバーは全員が神で、東京支局のメンバーは、
・宇喜之民生(うきの たみお)/演:小日向文世 局長。宇迦之御魂神。
・雨野小夢(あまの こゆめ) /演:広瀬アリス。室長。天宇受売命。
・興玉雅(おきたま みやび) /演:藤原竜也。 興玉神(天石戸別神)。
・豊玉妃花(とよたま ひめか)/演:福本莉子 豊玉毘売命。
の4柱の神々と、
・芹田正彦(せりた まさひこ)/演:迫田孝也 デリバリー。猿田毘古神。
・村主虎飛矢(すぐり)/演:名村辰 舞台俳優。園芸店。少毘古那命。
の2柱の非常勤職員から成るが、室長の雨野小夢は不在で、興玉雅が室長代理を務めていた。
2.室長の帰還
「天岩戸開き」において踊りを披露した天宇受売命なだけに踊りが得意な雨野小夢は、全領域異常解決室の室長と警視庁音楽隊カラーガード(MEC、メック)を兼任していた。そして、「天孫降臨」において道案内をした猿田毘古神なだけに道案内が得意な非常勤職員の芹田正彦に案内され、稲荷山(とうかさん)にある全領域異常解決室東京支局へ行くと、そこには目を潤ませた室長代理の興玉神こと興玉雅がいた。天宇受売命といえば、猿田毘古神の妻であり、現在は全領域異常解決室の室長であるが、猿田毘古神こと芹田正彦にしろ、興玉神こと興玉雅にしろ、明らかに態度がおかしかった。
──いや、おかしかったのは室長である雨野小夢の方であった。
芹田正彦にも、興玉雅にも初めて会ったような態度なのである。
──実は、雨野小夢の天宇受売命としての記憶は消えていたのである。
3.シャドーマン
さて、内閣府から事件の解決を依頼された全領域異常解決室東京支局の雨野小夢と興玉雅は、警視庁捜査一課「ヒルコ専従班」に捜査状況を伺いに行った。
最初の5人の被害者に共通点は無いが、直近の3人については、
・第一発見者は地下アイドルの松宮瑠偉
・3人の被害者は全て松宮瑠偉のコアなファン
という共通点があった。また、犯人だと疑われた松宮瑠偉は、取調室で、
「これは神隠しですよね? 俺は蛭児が見えるんです」
と証言し、実際、防犯カメラにも歪んだ黒い影のような人物(蛭児?)が写っていた。
実は興玉雅も、(記憶はないが)雨野小夢も、最初の5柱の神々とは面識があり、興玉雅は、それが蛭児の犯行声明にある「神隠し」だと分かっていた。「神隠し」とは、「神が人間を消すこと」ではなく、「神を消すこと」をいう。
神はいる。人間の姿をしている(肉体は人間で、魂は神)。
神は人間と同じで、喜んで笑う事もあるし、悲しくて泣く事もある。
そして、肉体の死亡(病死、事故死、老衰、等)時に、魂は抜け出して、生まれたばかりの赤ちゃんに宿る。そして、ある程度成長すると、神としての記憶がよみがえり、神としての自覚を持つようになる。
こうして転生を繰り返し、神々は古代から存在し続けているのである。
ところが、「事戸(ことど)渡し」(神としてのの記憶や自覚の消去)をされてから肉体が死亡すると、不思議なことに、着衣、持ち物、髪の毛、そして、大量の血液を残して、遺体が消えてしまうのである。そして、恐ろしいことに、転生できず、魂も消えてしまうのである。つまり、もう、大物主命、伊斯許理度売命、建御雷神、大宜津比売神、布刀玉命は存在しないのである。
そして、この「事戸渡し」は神にしか出来ないので、犯人は神である。
さて、古代からこうした神の失態を秘密裏に処理するのが全領域異常解決室の仕事である。とはいえ、「ヒルコ専従班」のメンバーに「これは神の仕業です。我々神に任せて下さい」と言ったところで、信じてもらえず、笑い飛ばされるだけであるので、興玉雅は、
「これは蛭児ではなく、『シャドーマン』という光る人型UMA(ユーマ。未確認生物)の仕業かもしれない」
と話しておいたが、荒波健吾は「フェイク動画かもしれない」と流した。
しかし、興玉雅は、最初の5件は神の御業で、直近3件は人間による模倣だと見抜いていた。犯人は松宮瑠偉か、その関係者であると考え、松宮瑠偉を刺激すれば何かが分かるだろうと、全領域異常解決室のメンバーである豊玉毘売命こと豊玉妃花が、その能力を使って空間をゆがめ、松宮瑠偉に蛭児に見立てた黒い影を見せていたのである。その結果、松宮瑠偉は、「蛭児が見える人間」としてSNSで話題になり、動画サイトの「ルイチャンネル」の登録者数800万人以上、ライブ配信には300万人以上が集まるという人気チャンネル配信者になっていた。
4.事件解決
興玉雅と雨野小夢は松宮瑠偉のマンションへ。
そこには事務所社長の落合健太郎と、松宮瑠偉の妻・ひよりがいた。ひよりは元々、松宮のファンであったが、「ファンにしれたら殺される」として、今は、ファンには妻であることを隠しながらスタッフとして松宮瑠偉を支えていた。
松宮瑠偉は、自室の隅で蛭児が見えやすくなるというサングラスをしてうずくまっていた。そして、
「1ヵ月ほど前から歪んだ影が見えるようになり、ファンの女性たちが次々に襲われた。俺に惚れ込んだヒルコが俺のコアファンに嫉妬して殺した」
と語った。
「神隠し」に遭った被害者の体が松宮瑠偉のファンミーティングのバーベキューが行われた「聖地」河川敷で見つかったと連絡が入り、興玉雅らは発見現場へ向かう。そこにあったのは相原樹里と生駒雲母の腐敗した遺体だった。
警視庁では捜査本部が開かれると、興玉雅は、雨野小夢に、全領域異常解決室を代表して考えを話すよう促した。雨野小夢は、「シャドーマンの仕業」とはせず、「松宮瑠偉が『ヒルコが見える』と言い出してから、彼の動画の再生数は激増。さらにバズらせるため、松宮瑠偉は落合健太郎と協力して事件を起こした。落合健太郎は偽造パスポートを入手を急いでおり、飲食業界の知り合いから大型クルーザーを借りていることからも、稼ぐだけ稼いだ後に国外逃亡するつもりではないか」と発言をし、どうだと言わんばかりに興玉雅を見ると、興玉雅は、「ありきたりな大変つまらない筋読みでした。残念です」(とてもとても全領域異常解決室の室長とは思えない。勘が鈍っている)と嘆いた。
その直後、松宮瑠偉の動画チャンネルで緊急生配信が始まった。動画には落合健太郎とひよりが登場。ひよりは蛭児への注意喚起を促し、「このようなサングラスをかけると蛭児が見える」と言った後、自分が松宮瑠偉の妻であると告白した。この配信を見た興玉雅は、
「ひよりさんが危険です」
と捜査本部を飛び出した。雨野小夢は、慌てて追いかけた。
配信を終え、暗い道を1人歩くひより。その背後を追う影。その蛭児と思われる影が包丁でひよりを刺そうとした時、その影を捕まえたのは、松宮瑠偉だった。
「もういいんだ。一緒に逃げよう」
そこに興玉雅と雨野小夢が到着。松宮瑠偉は興玉雅に刃物を突きつけるが、武術の心得がある興玉雅は、松宮瑠偉を簡単に制圧した。そして、ひよりを襲おうとした“影”の正体は、殺されたはずの駿河美鶴であることが判明。相原樹里、生駒雲母、駿河美鶴の3人は、自分たちが蛭児の犠牲者となって松宮瑠偉のSNSや動画をバズらせ、松宮瑠偉をスターに押し上げて武道館に立たせようと「推し活計画」を画策した。それは、時間をかけて看護師の生駒雲母に血を採血させ、2ℓ溜まったところでぶちまけて髪や洋服、持ち物を置いて行方をくらます(海外に逃亡する)という計画だった。しかし駿河美鶴は、松宮瑠偉を独占するために相原樹里と生駒雲母を裏切り、殺害。
「本当に君が二人を?」
と問う松宮瑠偉に、笑みを浮かべながら、
「瑠偉が私だけのものになるのは当然でしょ? だって、私が一番瑠偉を推してたんだもん」
と答える駿河美鶴に、興玉雅は、
「いえ、あなたは2人に負けています。爪ですよ。相原さんと生駒さんは全てを捨てました。でも、あなたは、お気に入りのネイルを捨てなかった。いつも派手なネイルをしているのに、あなたの現場にはつけ爪がなかった。蛭児に殺されたら肉体だけが消え、カラコンまで残るのに、爪がないのはおかしいですよね。あなたの推しへの愛が足りなかった証拠です」
「違う」
「しかも妻がいることが分かると秒で沸騰して、そのまま殺しにやってきた。自分勝手で、独りよがり。ファンの風上にも置けない」
「瑠偉はこいつを捨てて私と逃げようとしてくれた!」
「本当にそうでしょうか。彼は妻のひよりさんをあなたから守るためにやって来たのです。つまり、松宮さんの一番大切な人は、ひよりさんということです。以上が今回、全領域異常解決室が導き出した結論です」
と告げて去る。
激昂し、ひよりに襲いかかる駿河美鶴を雨野小夢はあっさりと制圧した。
5.顛末
警視庁の花園管理官は会見の場を設け、直近3件の「神隠し事件」は松宮瑠偉とそのファンであった駿河美鶴の共謀だったと公表し、松宮瑠偉のマネジメントを担当していた落合健太郎についても海外逃亡の用意をしていたとして取り調べを進めていると伝えた。
直毘吉道は今回の事件解決を経て、蛭児への恐怖を感じている国民の割合が減少したことを全領域異常解決室の局長の宇喜之民生に報告するが、宇喜之民生は今回の事件はただの模倣犯であり、蛭児自体は未だ謎のままであるとし、引き続き調査を続ける意向を示した。
そして興玉雅は、通信履歴の解析により、ひよりが今回の計画の発案者だったと判明したと指摘。妻として松宮瑠偉を誰よりも推していたひよりは、彼が他の女性と関係を持つことが許せずにいた。彼女たちのファン心理を巧みに利用し、夫もろとも破滅させたのだ。興玉雅は、ひよりに、
「見事な復讐です」
と言い放った。
「だとしたら、どうだっていうんです? 私はちょっとアイデアを話しただけ。実行したのは夫やあのバカなファンたちです。私は何の罪にも問われませんよね?」
「ええ。蛭児が見えるという触れ込みでネットでバカ売れしたあのサングラスがあなたのオリジナル商品で膨大な利益を得ていたとしても、罪には問えないでしょうね。松宮さんは、取り調べに対してこう言ってるそうです。『妻のひよりを喜ばせたかった』と。人生を懸けて応援してくれていた妻のために、どうしても有名になりたかったのだそうです。人生を懸けて誰かを推せる人は幸せです。これからさみしくなりますね」
そう言って興玉雅は去った。
さて、ひよりがデザインしたサングラスは「蛭児が見える」という触れ込みで大ヒットし、彼女は3300万円という莫大なお金を得ていた。しかし、彼女は人生を懸けて推してきた「推し」を失ってしまったのである。
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