80.これが、ほんとうにやりたいことだった。
「自由に生きたいのですよ、俺は。役人などに阿ったり、指図をされたりしたくもなかった」
「そしていま、自由なのか?」
李俊が、言葉を詰まらせた。
「小さな自由のために、おまえは大きな自由を捨てた。ゆえに、私はおまえがやっていることを、一切認めぬ」
(略)
このまま、ここで眠ったように生き続けていいのか。
この欅が、背をのばし、幹を太らせるのを、じっと見つめて過ごすのか。いや、欅は自分よりずっと長生きするだろう。この欅に見つめられながら、自分はここで老いていくだけなのか。
(略)
「俺がやることを言おう。叛乱だ。俺は叛乱を起こし、役人と闘う」
(略)
李俊は、自分がいまからやろうとしていることに、熱中しはじめていることに気づいた。
(略)
穆弘が帰ってしまうとすぐに、李俊は『替天行道』と大書した旗を作らせ、本営にした建物の屋根に掲げさせた。若い者たちが、歓声をあげる。不意に、李俊は全身がふるえるのを感じた。これが、ほんとうにやりたいことだった。
出典
北方謙三「水滸伝」4巻 道蛇の章
より。
ひとこと
いやー、もう、久しぶりに読み返しましたが燃えました。
自分の初期衝動に立ち返るって大事ですね。
自分がどういう風に生きたいかも。
よく「やりたいこと探し」とかいいますが、
本当は「やりたいこと」ではなく「生きたい生き方」なんじゃないかな、と思います。
この話と、北方水滸伝の話は、
またするかもなので、今日はこの辺で。