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絵画解説:「バベルの塔」

 ブリューゲルの絵画「バベルの塔」のパズルを買った、という話を前回少し書いたのだが、今回はそれにちなんで解説を試みたい。
 とは言っても、バベルの塔という物語は有名で、もはや僕があえてするような余地はない気もする。

ピーテル・ブリューゲル『バベルの塔』
Wikipediaより。

 バベルの塔。それは旧約聖書にある話を描いたもの。
 天にも届く塔を建てることによる洪水への対策と神への挑戦。
 だが、神にとっては謀叛むほんである。
 よって、その塔は破戒(または未完成のままに)されると共に、以降、人間の言葉もバラバラにされた(言語がひとつではなくなった)。
 言葉を混乱させることで、作業は中止。それどころか、もはや神に挑むほどに団結する術もなくなった。すなわち傲慢と刑罰の物語というわけだ。

 さて、考古学上、この聖書に登場するバベルの塔のモチーフは、古代メソポタミア文明に登場したシュメール人の神殿「ジッグラト」ではないかと考えられている。

ウルのジッグラト復元図。Wikipediaより。

 無論、シュメール人の文明は、人類の中でも最古級のものであるから、旧約聖書にとっても遥か彼方の記憶である。
 この神殿を造った異教徒シュメールが滅んだのは、とりもなおさずこの神殿の所以である。その理屈がバベルの塔という物語へと結集したと考えられる。

 マグダ・レヴェツ・アレクサンダー著『塔の思想』でも、この件には触れられている。その中での「塔」の定義づけを紹介しておこう。

 曰く、ジッグラトは塔であるが、ピラミッドは塔ではない。ピラミッドは墳墓であり、象徴としての山ではない。ピラミッドはその内部のファラオを祀るものである。つまり下方をめざすもの。
 一方で、ジッグラトや塔は、上方・天をめざす。塔は生活上、無くても問題の無い施設である。あくまでも象徴的なものということ。

 すると、「バベルの塔」という絵画を観返しても、なるほど今日みかける“塔”らしさはあまり無い。
 けれど、その塔の目的が上方への指向であるのは分かる。
 ちなみに、塔自体の説明を少ししたが、ブリューゲルの描いたこの「バベルの塔」のモチーフは、ジッグラトではなく、コロッセオと思われる。

コロッセオ。Wikipediaより。

 こちらも古代ローマという異教の象徴であり、滅んだ文明の象徴でもある。また、山田五郎は自身のチャンネル動画で、ローマ・カトリックの腐敗を指摘してもいると、解説していた。

 このように、塔というのは、元来、非日常的なモノであり、宗教観や権威付けとセットで建設されてきたものだった。
 古代ギリシア神話でも、「イカロスの翼」という話がある。
 蜜蝋で固めた翼によって空を飛ぶ能力をイカロスは得たが、太陽に接近し過ぎたことで蝋が溶けて翼がなくなり、墜落して死を迎えたという話。
 
 それ故、これも人間の傲慢や技術そのものへの批判として用いられることがある。塔が世界共通の用いられ方をしているように、天への畏敬もまた、同様に文化に刻まれている。
 ブリューゲルの描いた「バベルの塔」は、超高層建築物の建ち並ぶ現代社会にも問いかけ続ける作品と言えるだろう。

 ブリューゲルといえば、『農民の婚宴』も有名だ。
 その当時のあり方や考え方を含めているところからも、歴史的なアプローチが楽しい画家の一人と僕は思う。

『農民の婚宴』


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綾波宗水
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