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鳥猟犬たちの晴れ舞台 ~全日本狩猟倶楽部創立90周年記念大会レポート~
2024年に創立90周年を迎えた全日本狩猟倶楽部(全猟)。
記念大会となる第67回全日本チャンピオン戦に終日同行した。
大切に飼育、トレーニングをされた愛犬たちは、元来そなえている本能を発揮し、ノーリードで広大な大地を疾走する。
その素晴らしき猟犬たちの大会をレポートしていこう。
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(左)長島正芳さん(26 番)とワンダーランド・Ⅶセター・シャネル。
(右)今大会で全日本チャンピオンとなった西村寿男さん(39 番)とイーストシティ・キャサリン
猟犬の伝統を継承する全猟
狩猟家や猟犬愛好家たちによって1934年に創立した全猟(正式名称:一般社団法人 全日本狩猟倶楽部)という狩猟の団体がある。
ご存じの方は多いと思うが猟犬の血統書を発行しており、その発行数は創立以来、64万頭を超え、国内外の高い評価を得ている。
1933年から猟野競技会(フィールドトライアル)の全国大会を主催。全国各地から会員たちが競技会場に集い、鳥猟犬たちの技を披露する場となっており、大会結果は機関誌『全猟』にまとめられている。さらに全猟では、山梨県の本栖猟区と静岡県の西富士猟区を委託管理し、猟区の運営を行っている。そこでは狩猟鳥の増殖と捕獲の調整をはかる目的で60年にわたりキジの保護と放鳥をつづけ、その結果、国内有数の野生キジの生息地となった。
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猟区のキジたちは賢く、足元でジッとしていてなかなか飛び立たない
猟野競技会ではゲームと呼ぶ狩猟鳥。猟区のキジたちは賢く、足元でジッとしているこのように90年の長い歴史をもつ全猟の記念大会(第67回全日本チャンピオン戦、第11回全日本若犬チャンピオン戦、第44回全日本幼犬猟野競技大会)が2024年12月7〜8日に開催した。また別の会場では「鳥猟犬ミーティング」という血統書のない初心者にも門戸を開いたフィールドトライアル体験会も行なわれた。
競技大会のルールや見どころ
エントリーできるのはセターやポインターなどの血統登録された鳥猟犬で、年齢区分は3つに設定されている。また審査時にチェックするポイントはグラウンドワークとバードワークのふたつ。グラウンドワークとはふだん聞きなれない言葉だが、猟野を走りゲーム(キジなどの狩猟対象種の意)の微臭を探索する行動を指す。鼻を上げながら猟野を広く走り回り、藪に潜んでいるキジのにおいを探す行動である。バードワークとは、ゲームの微臭が出ている所を知らせるためにポイント姿勢をとり、そしてゲームの動きを制御(動かないようにする)して、ハンドラーの指令で藪に突っ込みゲームを飛ばせる行動をいう。見学者がチェックするべきポイントを知っておくと、観戦が何倍にも楽しくなるだろう。
今競技大会の主催者と来賓
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本栖猟区は富士のふもとにあり、 真冬の澄んだ空気のなか大会が開催された
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全日本チャンピオンは〝完〞成犬である
競技大会の開始前に明石三郎大会委員長に競技の見どころなどを聞くなかで、興味深い話があった。「競技大会にはチャンピオン戦、若犬チャンピオン戦、幼犬猟野競技会がありますが、年齢によって経験していることが違うので動きが当然変わってきます。幼犬は探索の仕方が未熟だったり、若犬はスピードはあるけれど粗さが目立つこともありますが、なかには年齢に関係なく良い動きをする犬たちもいます。チャンピオン戦は3歳以上の成犬がエントリーでき、各地の大会で良い成績を収めてきた隙のない良い犬たちがそろっています。そのなかのチャンピオンは完成された犬に与えられるもので、まさに〝完成犬〞といえます」
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この顔を見ているとこちらも楽しくなってしまう
なるほど!と膝を打つ言葉だと思った。しかし、審査は厳格に行われ、なかにはチャンピオン犬誕生しない回もあるそうだ。第67回全日本チャンピオン戦では39組がエントリーした(英ポ牝8頭、英ポ牝3頭、英セ牝19頭、英セ牝9頭。うち2頭は棄権)。初日12月7日は朝から快晴で、富士山もくっきり拝むことができた。8時に1組目のコースに到着した。コースや大会ルールを説明後、渡辺英之富士河口湖町長が大会開始を告げるホイッスルを吹きハンドラーがリードを外すや否や、2頭は猛スピードで走りだし、瞬く間に何百mも先へ行ってしまった。猟犬たちが最初に目指すのはゲームが潜む藪と牧草地の境目だ。
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猟犬たちは藪の中へ果敢に入っていき探索を行っている。
この藪がダメなら次の藪へと探索を広げていく
キジは牧草地の中央部などのような開けた場所にはいない。キジの姿が見られるのは藪の境や田んぼのヘリなど、すぐに隠れられる場所だろう。つねにタカなどの捕食者を気にしているので、基本的に生息しているのは藪の中となる。たとえキジがいたとしても人間の目では見つけることができないし、近くに行けば飛び立つが、そのスピードは速く低く飛ぶためにハンターが反応できないこともあるだろう。だが猟犬がいれば、事前にゲームがいる場所を知らせて制止してくれるので、射撃にいたるまでの体勢を整えることができる。
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この姿勢のままハンドラーが来るまでゲームを制止する。
ゲームを飛び立たせない程度の距離感を保つ
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相手犬が前方でポイントし、後方でポイント姿勢をとるよう訓練されている
猟犬たちはただ闇雲に猟野を走り回っているわけではなく、走りながら藪から出る微かなゲームのにおいを探知している。キジのにおいについては想像がつきにくいが、鶏舎のにおいをかなり薄めたものといえば想像できるかもしれない。広大な猟野に数羽しかゲームがいないので、それを探知する犬の嗅覚の鋭敏さにはいつも驚かされる。人間には足りない力を猟犬に補ってもらい、共にひとつの目標に向かっているのだ。
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出場犬→ハンドラー→審査員→現地役員の順番で競技コースを進む。
観戦者(ギャラリー)は30~50m後方で観戦できる。
猟犬はハンドラーの100mほど先の雑木林の縁を探索している
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ハンドラーの命令なしに追い出すために動きだすようなことはけっしてしない
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ハンドラーはそれに気づいて命令できるようにしたい
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探索→ポイント→フラッシュの一連の流れが美しく決まってゲームが飛び立てば、ハンドラーも猟犬も嬉しい
猟犬たちの一連の動きに見惚れる
ハンドラーは猟犬がポイントするまで何もせずに犬任せに走らせているのかといわれると、けっしてそうではないのである。猟犬の動きを見ながら、命令したいときは笛や声で呼び戻し、ゲームが潜んでいそうな藪などへと積極的に誘導する。ハンドラーはハンティングやゲームの生態についての知識も有することで的確に命令でき、そうさせることによって猟犬の経験値も上がっていく。
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写真は第67回全日本チャンピオン犬のイーストシティ・キャサリン
前述のように競技大会ではグラウンドワークとバードワークを審査する。「走っている猟犬の鼻の位置は高く保っているか」「一直線に走るのではなく左右にジグザグに走っているか」そして「開けた場所と藪などゲームが潜む地形を理解して緩急つけた行動をしているか」なども見ている。においは当然風上から風下へ流れていくので、「猟犬が風向きを判断しながら走っているか」もチェックされている。
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全日本チャンピオン戦では1ラウンド概ね20分間行われるが、その3分の1の時間(約6分間)をハンドラーとコンタクトできない場合は失格となる場合がある。〝コンタクトできない状態〞とは、呼んでも応答がなかったり目視ができなかったりしている状態だ。探索に行ったきり戻ってこないケースもまれに起こるそうで、シカやイノシシなどの獲物を起こして、それを追ってしまっていることもある。
ポイントすると場が活気づく!
本大会中にポイント姿勢をとった場面を何度か見ることができた(が、ゲームを飛び立たせたのは数えるほどだった)。猟犬がゲームが潜んでいる一点を見つめて、尻尾をピンと立てて静止する姿勢をポイントという。ハンドラーと100m以上離れていても、ハンドラーが近くに来るまでジッと同じ姿勢をつづけている。猟犬からゲームまでの距離は5m程度ともいわれているが、ゲームを制止させて飛び立たせないギリギリの距離を取っているのである。
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そしてハンドラーが命令すると藪へと入っていき(フラッシュという)、ゲームを飛び立たせる行動へと移る。しかし、本栖猟区のキジたちは何十年も競技大会で追われてきた経験があるためか、日本一スレているのではないかと思うほど逃走力に優れている。猟犬がフラッシュしても飛び立たずに、藪の中の道を走って追跡を巻いてしまう。キジは飛ぶのも速いが、走るのも速く、濃い藪の中ではゲームのほうが有利だろう。飛び立ってしまうと撃たれるのを知っているのかはわからないが、それでも飛び立たせる猟犬はとても優秀だ。
猟犬たちは20分間、ずっと走り回っている。ある藪に入ったかと思えば、別の方向から突然出てくるほど、縦横無尽に猟野を駆けているのだ。GPSで記録しておいたハンドラーの歩行距離を見ると、スタートからゴールまで平均
1㎞前後だった。猟犬たちは果たしてどれくらいの距離を20分間に走っていたのだろうか? その体力にはいつも驚かされてしまう。
今回初めて競技大会の世界に触れたが、猟犬たちの一挙手一投足に見惚れ、あらためてその能力に感嘆し、素晴らしい姿を見ることができた。そしてこのような猟犬たちと一緒にフィールドを歩いて鳥猟ができれば、豊かな狩猟生活を送ることができるのではないだろうか。なお、本大会の審査員の講評は『全猟』春号に掲載予定なので合わせてチェックしてほしい。
各大会結果発表
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『全猟』誌や入会などに関する問い合わせ
全日本狩猟倶楽部
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