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松永K三蔵さんのサイン会に行かない

仕事帰りに梅田の紀伊国屋に行くと、芥川賞を獲った松永K三蔵さんのサイン会の告知が窓に貼ってあった。
9/7㈯の昼。仕事がなかったので、行こうと思った。

当日。予定の14時になっても、本屋のどこにもサイン会会場が見当たらない。スマホで調べてみると、2番レジ奥特設室と書いてある。2番レジの奥に行っても、それらしき場所はない。サイン会、なくなったのか?と思っていると、レジ奥にカーテンで隠された部屋があることに気づいた。そこから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。僕は松永K三蔵さんの芥川賞受賞式の中継をYouTubeで見たのだ。その声が聞こえてきたので、ここだと思った。
サイン会とは、本屋の通路とか、人混みの中でするのだと思っていた。

しかしスマホでサイン会の概要を調べると、「受賞作『バリ山行』の単行本を買った人のみ」とのこと。僕は文藝春秋の誌面で読んでいたので、単行本は買っていない。単行本はあまり買わない。高いから。最後に買ったのは1年以上前の村上春樹の新作だ。

特設室と書店の通路はカーテン低い壁とカーテンで仕切られており、急接近すればサイン会の内容が聞き取れた。
紀伊国屋スタッフ「次の方どうぞ」
特設室に順番に入ってくる。
サインをもらいに来た人「受賞おめでとうございます!」
松永K三蔵「ありがとうございます」
もらいに来た人「私、地元が西宮で……」
K三蔵「あ、そうなんですね!」
もらいに来た人「なので光景がすごい想像できました」

このように、本にサインを書いてもらっている間、普通に話すことができる。長い人は2分くらい喋っていた。
その後、少しの休憩があり、松永K三蔵さんと講談社の編集者(おそらく)がサイン会の進み具合を話していた。盗み聞きの罪悪感はあったが、そこから離れることはできなかった。

結局30分くらい聞いていて、僕は松永K三蔵にとても好感を持った。YouTubeで見た通り、とても「普通の」人のように感じた。サイン会に来た人に「ありがとうございます」と言うのだが、その言い方がとても低姿勢で、全然事務的な感じがしない。こう言う言い方は即席でできるものではない。きっと、そういう性格なのだろう。
普通のというのは、作家にありがちなスノッブなところがないことである。彼らは知識をひけらかすようなことはしないが、編集者たちに「やっぱ作家は違うな」と思われたいとは思っている。その強がる様子が、松永K三蔵さんには感じられなかった。

こういう好感の持たせかたがあるのだ、という発見があった。僕は従来、無個性な作家はあまり好きではなく、会見でちょっと調子に乗って恥ずかしいことを言うような作家の方に好感を持つ。しかし、普通の人というのは、それだけ読者の共感を呼ぶのだ。

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