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大腿骨頸部骨折(Femoral Neck Fracture)について

定義
大腿骨頸部骨折とは、大腿骨の頸部と呼ばれる股関節に近い部分で発生する骨折である。特に高齢者に多く見られ、骨粗鬆症を背景にした転倒や軽い外力でも骨折が生じやすい。この骨折は高齢者の生活の質(QOL)に大きな影響を与えるため、早期診断と適切な治療が重要である。

解剖学的背景
大腿骨は人体で最も大きな骨であり、股関節で骨盤と連結している。大腿骨頸部は、大腿骨頭(股関節の球状部分)と大腿骨幹をつなぐ部分であり、血管の供給が乏しいため、骨折後に血流障害が起こるリスクが高い。治療が遅れると、大腿骨頭壊死などの重大な合併症を引き起こす可能性がある。

大腿骨頸部骨折の分類
大腿骨頸部骨折は以下の2つの大きなカテゴリに分類される。
1.内側骨折(股関節内骨折、股関節内)
・骨折線が股関節の内部(関節包内)にある骨折である。関節包内での骨折は血流障害を引き起こす可能性が高く、適切な治療がされない場合には大腿骨頭壊死のリスクがある。
2.外側骨折(転子部骨折、股関節外)
・骨折線が関節の外側に位置する骨折である。内側骨折と比較して血流への影響は少ないが、転位(ずれ)が生じやすいため、骨折の固定が必要となることが多い。

リスク因子
大腿骨頸部骨折の主なリスク因子は以下の通りである。
1.骨粗鬆症
・骨密度が低下している状態では、軽い外力でも骨折しやすくなる。特に高齢女性に多く見られる。
2.高齢
・加齢に伴い骨密度が減少し、筋力やバランス能力が低下するため、転倒のリスクが高まる。
3.転倒歴
・過去に転倒歴がある場合、再度転倒するリスクが高まり、骨折のリスクも増加する。
4.筋力低下
・筋力が低下すると転倒しやすくなる。
5.視力障害や神経系の障害
・視力低下や神経系の障害によりバランスが保ちにくくなり、転倒リスクが高まる。
6.多剤併用
・薬剤の副作用(鎮静剤や降圧薬など)がバランスや筋力に影響を与え、転倒を誘発することがある。

臨床症状
大腿骨頸部骨折は転倒や外傷後に以下のような症状が現れる。
1.歩行不能
・骨折した脚に体重をかけられず、立つことや歩くことが困難になる。
2.股関節や太ももの痛み
・骨折部位に鋭い痛みが生じ、特に股関節を動かすと痛みが増す。
3.患側の脚が短縮し外旋
・骨折した側の脚が短く見え、脚が外向きに回転(外旋)することが多い。

診断
大腿骨頸部骨折は外傷歴や症状から疑われ、以下の検査で診断が確定される。
1.X線検査
・大腿骨頸部の骨折の有無や転位の状態を確認するために行われる。ほとんどの骨折はX線で確認できるが、ごく初期の骨折では骨折線が確認できないことがある。
2.CTスキャン
・X線で不明瞭な場合や詳細な骨の状態を確認するために行う。
3.MRI
・特に初期の骨折やストレス骨折の診断に有効である。

治療
大腿骨頸部骨折の治療は、骨折の部位や患者の年齢、活動レベル、健康状態によって異なるが、一般的には手術が選択される。
1.手術治療
・スクリュー固定術(内固定術):若年者や活動性の高い患者では、大腿骨頭を保存するためにスクリューで骨折部を固定する手術が行われる。骨折が転位していない場合に適用される。
・人工骨頭置換術:高齢者や骨折が転位している場合には人工骨頭(大腿骨頭を人工の金属やセラミックに置き換える)を行う。術後の機能回復が比較的早く、合併症リスクが低いため広く行われる。
・人工股関節全置換術(THA):股関節の変形や機能不全が進行している場合、股関節全体を人工関節に置き換える手術が行われる。
2.保存療法
・手術ができない場合(重篤な併存疾患がある場合)は保存療法が行われる。長期間のベッド上安静とともに疼痛管理やリハビリテーションを行うが、骨折の治癒が遅れるため予後は手術治療よりも良くない。

リハビリテーション
大腿骨頸部骨折の治療後にはリハビリテーションが重要である。早期にリハビリを開始し、筋力や関節の可動域を回復させることが予後の改善に寄与する。
1.早期離床
・ベッドから早期に離れて歩行訓練を行うことが筋力低下や合併症を防ぐために重要である。リハビリ専門医や理学療法士の指導のもと、体力や痛みの状況に応じて運動量を増やす。
2.歩行訓練
・杖や歩行器を使用し、少しずつ荷重をかけながら歩行訓練を行う。脚にかかる負担を調整しながら転倒を防ぐよう指導する。
3.筋力トレーニング
・大腿部や臀部、体幹の筋力を回復させるためのトレーニングを行う。筋力を強化することで再度の転倒や骨折を防ぐことができる。

予後と合併症
大腿骨頸部骨折は特に高齢者にとって重篤な疾患であり、手術後も長期間のリハビリや生活のサポートが必要となることが多い。手術後の合併症に注意が必要である。
1.血栓症
・長期間の臥床により深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症のリスクが高まる。予防として抗凝固療法や弾性ストッキングが使用される。
2.感染症
・手術後に感染症(術部感染、尿路感染、肺炎など)が発生するリスクがある。手術部位の感染予防として適切な抗生物質の使用や衛生管理が重要である。
3.大腿骨頭壊死
・大腿骨頸部骨折では、大腿骨頭への血流が遮断されやすく、骨頭壊死が発生するリスクがある。血流が十分に確保されないと、骨頭が変形し股関節の機能が低下する。
4.再骨折
・高齢者や骨粗鬆症の患者は骨が脆弱であり、再度骨折するリスクが高まる。適切なリハビリテーションや転倒予防が徹底されない場合、再発のリスクが高い。
5.機能障害
・骨折後のリハビリが不十分であると股関節や下肢の機能障害が残り、日常生活に支障をきたすことがある。早期のリハビリ開始と長期的なリハビリテーションが重要である。

予防
大腿骨頸部骨折は特に高齢者において予防が非常に重要である。以下の方法でリスクを軽減できる。
1.骨粗鬆症の治療
・骨粗鬆症がある場合、適切な薬物療法(ビスホスホネートやカルシウム・ビタミンD補充など)を行い、骨密度を改善し骨折リスクを軽減する。
2.転倒予防
・家庭内での環境整備(手すりの設置、滑りにくい床材の使用など)が重要である。特に浴室や階段には手すりを設置することが推奨される。
3.筋力トレーニングとバランス訓練
・下肢や体幹の筋力を維持し、バランス能力を強化するための運動を日常的に行う。ウォーキングや水中運動、バランストレーニングが効果的である。
4.ビタミンDとカルシウムの摂取
・ビタミンDは骨の健康に重要であり、日光浴やビタミンD強化食品の摂取が推奨される。またカルシウムを十分に摂取することで骨の強度を保つことができる。
5.視力と聴覚のケア
・視力や聴覚の低下があると転倒リスクが高まるため、定期的な眼科や耳鼻科の受診を行い、必要に応じて補正具(メガネ、補聴器)を使用することが重要である。

まとめ
大腿骨頸部骨折は特に高齢者に多く、生活の質や寿命に大きな影響を与える疾患である。骨粗鬆症や転倒が主な原因であり、早期診断と適切な治療が必要である。治療は手術が一般的であり、人工骨頭置換術やスクリュー固定術が行われる。術後には早期のリハビリテーションが重要であり、筋力回復や転倒予防が予後に大きく影響する。また、再骨折や合併症を予防するために、日常生活での環境整備や筋力トレーニング、骨粗鬆症の管理が不可欠である。

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