見出し画像

パーキンソン病(Parkinson's Disease:PD)について

パーキンソン病は、主に中脳の黒質(Substantia Nigra)に存在するドーパミン作動性ニューロンが徐々に変性・脱落することによって引き起こされる、慢性進行性の神経変性疾患である。この結果、ドーパミン(Dopamine)の不足が生じ、運動機能を制御する錐体外路(Extrapyramidal System)に障害が現れる。PDは進行する運動障害とともに、認知機能や自律神経機能にも影響を及ぼすことがある。

病態生理
パーキンソン病の病態は、主に黒質緻密部(Substantia Nigra Pars Compacta)のドーパミンニューロンの変性によるものである。これにより、基底核(Basal Ganglia)におけるドーパミンの供給が減少し、運動の制御が困難になる。
・黒質と基底核の関係:黒質は運動の開始や調整に関与する基底核の一部であり、ドーパミンを放出して運動をスムーズに行う役割を果たす。ドーパミンが減少すると、淡蒼球(Globus Pallidus)や線条体(Striatum)における神経伝達が乱れ、運動の開始や調整が困難になる。
・レビー小体(Lewy Bodies):パーキンソン病患者の脳内ではレビー小体と呼ばれる異常なタンパク質(主にαシヌクレインの蓄積)が見られ、神経細胞の機能不全や細胞死を引き起こす。

臨床症状
パーキンソン病の主な症状は以下の4つの運動症状が特徴的である。
1.安静時振戦(Resting Tremor):典型的には片側の手や足に震えが現れ、安静時に最も顕著になる。振戦は動作中には軽減することが多い。
2.筋固縮(Rigidity):筋肉が硬くなり、関節を動かす際に抵抗感が増し、動作がぎこちなくなる。
3.無動・寡動(Bradykinesia):運動の開始が遅くなり、動作全体が遅くなる。表情筋も影響を受け、仮面様顔貌(Masked Facies)と呼ばれる無表情な顔つきになる。
4.姿勢反射障害(Postural Instability):バランスを取る能力が低下し、転倒しやすくなる。病気が進行すると、歩行時に前屈姿勢や小刻み歩行(Shuffling Gait)が見られる。

非運動症状
パーキンソン病は運動障害だけでなく、非運動症状も広く見られる。
・認知機能障害:レビー小体型認知症など、記憶力や遂行機能の低下が見られる。
・自律神経障害:便秘、排尿障害、起立性低血圧、発汗異常などがよく見られる。
・睡眠障害:レム睡眠行動異常や不眠症が発生する。
・うつ病や不安:多くの患者がうつ症状や不安を訴える。

診断
パーキンソン病の診断は、主に臨床症状に基づいて行われる。特に安静時振戦や無動が存在する場合、パーキンソン病が強く疑われる。DATスキャン(ドーパミントランスポーターイメージング)は、ドーパミン神経の変性を評価するために使用される。

治療
パーキンソン病の治療は運動症状の緩和を目的とした薬物療法が中心であるが、根本的な神経変性を止めるものではなく、症状をコントロールすることが目的である。
1.レボドパ(L-DOPA):ドーパミン前駆体であるレボドパはパーキンソン病の第一選択薬であり、体内でドーパミンに変換され、脳内のドーパミン不足を補う。ただし、長期使用により薬効の短縮やジスキネジア(不随意運動)が発生することがある。
2.ドーパミン作動薬(Dopamine Agonists):プラミペキソールやロピニロールはドーパミン受容体に作用し、運動症状を緩和する。幻覚や衝動的行動などの副作用が現れることがある。
3.MAO-B阻害薬:セレギリンやラサギリンはドーパミンの分解を抑制し、脳内のドーパミンレベルを維持する。
4.COMT阻害薬:エンタカポンなどがレボドパと併用され、レボドパの作用時間を延長する。
5.外科的治療:薬物療法に反応しなくなった場合、脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)が適応される。脳内の特定部位に電極を挿入し、電気刺激を与えることで運動機能を改善する。

最新の研究動向
パーキンソン病における最新の研究は、病因解明や治療法の開発に向けて進んでいる。特にαシヌクレインの蓄積を阻害する薬剤や、幹細胞治療による神経再生の研究が進行している。また、遺伝的要因(LRRK2やPARKINなど)を持つ患者に対して遺伝子治療の可能性も模索されている。

まとめ
パーキンソン病はドーパミン欠乏によって生じる運動障害を中心とした慢性神経変性疾患であり、早期診断と適切な治療が症状管理において重要である。

いいなと思ったら応援しよう!