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ヘリコバクター・ピロリ感染症とは?

多くの胃の不調や疾患の原因となる「ヘリコバクター・ピロリ感染症」。このピロリ菌は、胃の中に住みつき、さまざまな胃腸の問題を引き起こすことが知られています。

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)とは
ピロリ菌の特徴
ヘリコバクター・ピロリ、通称ピロリ菌は、らせん状のグラム陰性桿菌であり、数本の鞭毛を持っています。この形状と鞭毛により、胃の粘液層を自由に移動することができます。

感染経路
主な感染経路は経口感染と考えられています。つまり、汚染された食物や水、さらには家族間での食器の共有などを通じて感染する可能性があります。

感染率
感染率は地域や年齢によって異なります。一般的に、開発途上国で高く、先進国で低い傾向があります。しかし、日本では特に高齢者での感染率が高く、60歳以上では70〜80%以上と報告されています。一方、若年者では10〜30%程度です。

ピロリ菌が引き起こす疾患
ピロリ菌の持続感染により、以下のようなさまざまな疾患が引き起こされます。ただし、感染者全てがこれらの疾患を発症するわけではありません。
・急性胃炎、慢性胃炎:胃の粘膜が炎症を起こし、胃痛や不快感を感じることがあります。
・胃過形成性ポリープ:胃の内壁にポリープが形成されることがあります。
・消化性潰瘍:胃や十二指腸に潰瘍ができ、痛みや出血を引き起こします。
・機能性ディスペプシア:明確な原因なしに胃の不快感や膨満感が続く状態です。
・胃がん、胃MALTリンパ腫:長期感染により、胃がんやリンパ腫のリスクが高まります。
・免疫性血小板減少症(ITP):血小板が減少し、出血しやすくなる疾患です。

ピロリ菌の感染と胃粘膜傷害のメカニズム
胃内での生存戦略
ピロリ菌はウレアーゼ活性を持ち、尿素からアンモニア(NH₃)を産生します。このアンモニアが胃酸を中和し、ピロリ菌が胃内で生存できる環境を作り出します。

胃粘膜への定着
ピロリ菌は胃の細胞内には侵入せず、胃壁の細胞表面に定着します。ここで増殖し、さまざまな毒素を放出します。

持続感染のメカニズム
1.細胞空胞化毒素(VacA蛋白):ピロリ菌が産生するこの毒素が、直接的に胃粘膜を傷害します。
2.炎症性サイトカインの産生(CagA蛋白):CagA蛋白が炎症性サイトカインの産生を促進し、炎症が増強されます。
これらの作用により、胃の粘膜が傷つき、前述の疾患を引き起こすことになります。

幼少期と成人期の感染の違い
・幼少期の初感染:持続感染となりやすく、長期的なリスクが高まります。
・成人期の初感染:急性炎症(急性胃粘膜病変など)を経て自然排除されることが多く、持続感染することは少ないとされています。

ピロ資金の検査法
ピロリ菌検査には大きく分けて内視鏡を使用する方法と使用しない方法があります。
内視鏡を使用しない検査法
尿素呼気試験
・最も精度が高い検査方法
・4時間以上の絶食後に検査薬を服用
・服用前後の呼気を採取して判定
血液検査(抗体検査)
・血液中のピロリ菌抗体を測定
・3U/ml未満は陰性、3~10U/mlは感染の可能性あり
便中抗原検査
・便中のピロリ菌抗原を直接検出
・結果が出るまで約7日間必要

内視鏡を使用する検査法
迅速ウレアーゼ試験
・胃粘膜を採取して特殊な反応液に入れる
・約30分で結果が判明
・ピロリ菌の酵素活性を利用
培養法
・採取した胃粘膜を5~7日間培養
・薬剤耐性の確認が可能
組織鏡検法
・胃粘膜を特殊染色して顕微鏡で観察
・ピロリ菌を直接確認する方法

ピロリ菌の除菌療法
除菌療法の必要性
1.胃がんリスクの低減
・胃がん患者の99%がピロリ菌に感染しています。
・除菌により胃がん発生率が約3分の1に減少することが統計的に証明されています。
・若い世代での除菌は特に効果が高く、胃がんになる確率を大きく下げられます。
2.関連疾患の予防
・胃・十二指腸潰瘍の再発防止
・悪性リンパ腫の予防
・特発性血小板減少症(ITP)のリスク低減
・慢性胃炎の進行抑制 などがあげられます。
3.医学的根拠
日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、ピロリ菌感染者全員に除菌療法が強く推奨されています。
WHO(世界保健機関)により「確実な発がん因子」として認定されています。

保険適用となる条件
胃カメラ検査で「慢性胃炎」の診断を受けることが必須条件です。具体的には:
・胃カメラ検査で慢性胃炎を確認
・ピロリ菌感染の検査で陽性
・上記2つの条件を満たした場合、保険適用となります。
※消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、早期胃がん(内視鏡的治療後)、慢性胃炎(ピロリ菌感染胃炎)、ITPは、ピロリ菌陽性(迅速ウレアーゼ試験、尿素呼気試験、血中抗体価などで判定する)であれば除菌療法が保険適用となります。

ピロリ菌の除菌療法
ピロリ菌は抗菌薬に対して耐性を生じやすい性質があります。特に、一般的な感染症で頻繁に使用されるクラリスロマイシン(CAM)に対する耐性菌が増えています。そのため、耐性化を防ぐために、複数の抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬(PPI)を組み合わせた多剤併用療法が行われます。

ピロリ菌の除菌療法とは
ピロリ菌の除菌療法は、主に2種類以上の抗菌薬と胃酸の分泌を抑える薬剤を組み合わせて行われます。この組み合わせにより、ピロリ菌を効果的に除去し、胃の粘膜を保護することができます。

一次除菌療法
使用される薬剤:
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB):胃酸の分泌を抑える薬剤です。
・アモキシシリン(AMPC):広範囲の細菌に効果があるペニシリン系抗生物質。
・クラリスロマイシン(CAM):マクロライド系抗生物質で、ピロリ菌に対して有効。
投与方法:1日2回、1週間内服。
除菌成功率:約70〜90%。
一次除菌療法は最初に行われる標準的な治療法です。しかし、クラリスロマイシンに対する耐性菌の増加が報告されており、除菌率が低下する傾向にあります。

二次除菌療法
一次除菌療法が失敗した場合に行われます。メトロニダゾールはクラリスロマイシン耐性菌に対して有効で、二次除菌の成功率を高めます。
使用される薬剤:
・PPIまたはP-CAB
・アモキシシリン(AMPC)
・メトロニダゾール(MNZ):抗原虫薬であり、抗菌作用も持つ。
投与方法:1日2回、1週間内服。
除菌成功率:約80〜90%。

三次除菌療法
一次・二次除菌療法が失敗した場合に検討されます。シタフロキサシンはニューキノロン系抗菌薬であり、他の抗菌薬に耐性を持つピロリ菌に対して効果的です。
標準的な処方内容:シタフロキサシンを含む3剤療法
・シタフロキサシン 200mg/日
・ボノプラザン 40mg/日
・メトロニダゾール 500mg/日 またはアモキシシリン 1500mg/日
これらの薬を1日2回に分けて7日間服用します。除菌成功率は70-90%程度です。
注意点:
・現在のところ保険適用外(自由診療)です。
・専門施設での治療が推奨されています。

除菌療法の流れ
各除菌療法の内服終了から4週間後に効果を確認します。効果の確認には、尿素呼気試験や便中抗原検査などが用いられます。除菌に失敗した場合は、次の段階の除菌療法に進みます。

PPIやP-CABの役割
PPI(プロトンポンプ阻害薬)やP-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)は、胃酸の分泌を強力に抑制します。これにより、
・胃酸による胃壁の傷害を抑制します。
・抗菌薬が胃酸で失活するのを防ぐことで、抗菌薬の効果を最大限に引き出します。

除菌療法の副作用と対策
主な副作用
・下痢・軟便: 最も多い副作用です。
・味覚異常、舌炎、口内炎: 一時的なものが多いです。
・逆流性食道炎の出現: 除菌後も注意が必要です。

対策
・整腸剤の併用: 下痢や軟便の予防に有効です。
・症状が強い場合は医師に相談: 副作用が生活に支障をきたす場合は、速やかに医療機関を受診してください。

治療中の注意点
・禁酒: 飲酒はPPIの効果を低下させ、肝臓への負担も増加します。除菌療法中は禁酒が推奨されます。
・定期的な内視鏡検査の実施: ピロリ菌除菌後も胃がんのリスクは完全には消えません。早期発見のために、定期的な検査が重要です。

まとめ
ピロリ菌の除菌療法は、胃の健康を守るために欠かせない治療法です。一次除菌療法から始まり、必要に応じて二次、三次と段階的に進められます。副作用や治療中の注意点を理解し、適切に対処することで、治療効果を最大限に引き出すことができます。
重要: 治療に関しては必ず医師と相談し、適切な指導のもとで進めてください。

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