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アナフィラキシーショック(Anaphylactic Shock)について

定義
アナフィラキシーショックとは、アナフィラキシーと呼ばれる急性の全身性アレルギー反応が極端に進行し、血圧の急激な低下と臓器の虚血が生じる生命を脅かす緊急状態である。これは即時型アレルギー反応(Ⅰ型アレルギー)に分類され、特定のアレルゲンに曝露された後、数分から数時間以内に発症する。アレルゲンに対する免疫系の過剰反応により血管の急激な拡張や血管透過性の亢進が引き起こされ、全身の循環不全をもたらす。

病因とメカニズム
アナフィラキシーショックは、アレルゲン(抗原)に対するIgE抗体が、以前に感作された肥満細胞や好塩基球に結合している際に、再度同じアレルゲンに曝露されることで発生する。この過程により、ヒスタミンやロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学伝達物質が免疫細胞から大量に放出され、以下のような全身性反応が引き起こされる。
1.血管の拡張(血管平滑筋の弛緩)
・全身の血管が拡張し、血圧が急激に低下する。これにより臓器への血流が減少し、組織への酸素供給が不足する(虚血)。
2.血管透過性の亢進
・血管から組織へ液体が漏れ出し、血管内脱水が進行する。これにより循環血液量が減少し、低血圧がさらに悪化する。
3.気道収縮
・気管支平滑筋が収縮して気道狭窄が生じ、呼吸困難や喘鳴が引き起こされ、酸素供給が著しく低下する。
4.心筋抑制
・一部のメディエーター(例:トリプターゼ)が心筋に直接作用し、心拍出量の低下を引き起こす。これは心原性ショックの側面も伴う。

主なアレルゲン
アナフィラキシーショックの原因となる主なアレルゲンは以下の通りである。
1.食物:ピーナッツ、ナッツ、卵、牛乳、魚介類など。
2.薬物:抗生物質(ペニシリン系)、NSAIDs、造影剤など。
3.昆虫毒:ハチやアリの毒。
4.ラテックス:ゴム製品。

臨床症状
アナフィラキシーショックは、アナフィラキシー反応の一部として現れ、以下の症状が急速に進行する。
1.皮膚症状
・蕁麻疹、発赤、掻痒感、血管性浮腫が見られることが多い。特に顔面や喉頭部に浮腫が生じた場合、呼吸困難が急激に悪化する。
2.呼吸器症状
・気道狭窄による喘鳴、呼吸困難、咳嗽が見られ、重症の場合は喉頭浮腫による呼吸閉塞が発生し、窒息のリスクがある。
3.循環器症状
・血圧低下とそれに伴う頻脈、めまい、意識障害が生じ、極度の低血圧は失神や意識喪失に至ることがある。
4.消化器症状
・悪心、嘔吐、下痢、腹痛などが生じることがあるが、他の症状に比べて軽度である場合が多い。
5.神経症状
・酸素不足により混乱、不安、さらに重症の場合は昏睡が生じる。

診断
アナフィラキシーショックの診断は、臨床症状に基づき、アレルゲンへの曝露歴が明らかであれば迅速に行う。以下の3つの主要基準のうち1つ以上が満たされれば診断が確定される。
1.急速に進行する皮膚症状(蕁麻疹、血管性浮腫)と、呼吸困難または低血圧が同時に見られる場合。
2.既知のアレルゲンに曝露後、呼吸器症状や血圧低下が生じた場合。
3.血圧低下(成人で収縮期血圧が90mmHg未満)またはショック症状が出現した場合。

治療
アナフィラキシーショックの治療は迅速に行う必要があり、エピネフリン(アドレナリン)が第一選択の治療法である。アナフィラキシーは生命を脅かす緊急事態であり、遅延なく治療を開始することが重要である。
1.エピネフリン(アドレナリン)
・0.3mg(成人)または0.15mg(小児)の筋注が推奨される。エピネフリンは血管収縮作用を持ち、血圧を回復させるとともに、気管支拡張作用により呼吸困難を軽減する。また、ヒスタミンの作用を抑制し、症状の進行を防ぐ。状況によっては、5〜15分おきに繰り返し投与する。
2.酸素投与
・酸素飽和度が低下している場合は酸素投与を行い、組織への酸素供給を維持する。重症例では気管挿管や気管切開が必要となることもある。
3.輸液療法
・血圧低下や血管透過性亢進による血管内脱水を補うため、晶質液(生理食塩水やリンゲル液)を迅速に補充し、循環血液量を維持し、血圧を回復させる。
4.抗ヒスタミン薬
・ジフェンヒドラミンやクロルフェニラミンなどのH1受容体拮抗薬を補助的に使用し、皮膚症状の改善を図る。ただし、エピネフリンほどの効果は期待できない。
5.ステロイド
・ヒドロコルチゾンなどのステロイドは、アナフィラキシーの遅延反応や二次的な反応を抑えるために使用されるが、即効性はないためエピネフリン治療を補完する役割を果たす。

予防
アナフィラキシーショックの予防には、アレルゲンの特定と回避が重要である。患者は、アレルゲンを含む食品や薬剤、環境を避けるための指導を受ける必要がある。
1.アレルゲン回避
・既知のアレルゲンに対する曝露を避けるため、食品表示の確認や医療機関でのアレルゲンに関する情報提供が必要である。
2.エピネフリン自己注射器の携帯
・アナフィラキシー既往歴のある患者には、エピネフリン自己注射器(EpiPen®など)の処方と使用方法の指導が重要である。自己注射器を常に携帯し、発作時に迅速に使用することで重篤な進行を防ぐことができる。

まとめ
アナフィラキシーショックは、アレルゲンに対する即時型アレルギー反応が全身に広がり、急激な血圧低下や呼吸困難を引き起こす生命を脅かす緊急事態である。治療の第一選択はエピネフリンの早期投与であり、迅速な対応が予後を左右する。医療従事者は、ショック症状を見逃さず、迅速かつ的確な対応を取ることが求められる。また、患者の予防策として、アレルゲンの回避と自己注射器の適切な使用が重要である。

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