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チック症について

チック症は、突然的で素早く、反復的な運動や発声を特徴とする神経発達障害です。これらの運動や音声は不随意であり、一時的に抑制できることもありますが、長期的には制御が難しい場合があります。精神科専門医として、チック症について詳しく解説いたします。

1.定義と概要
チック症とは
・チック:突然的で素早い、反復的な運動(運動チック)または発声(音声チック)のことを指します。
・チック症:チックが一定期間持続し、日常生活に支障をきたす状態を指します。

分類
チック症は以下のように分類されます。
1)一過性チック障害:チックが1年以上続かず、一時的なもの。
2)持続性(慢性)運動または音声チック障害:運動チックまたは音声チックのどちらかが1年以上持続します。
3)トゥレット症(トゥレット障害):運動チックと音声チックの両方が1年以上持続します。

2.症状と特徴
運動チック
・単純運動チック:まばたき、顔をしかめる、肩をすくめるなど、単純な動き。
・複雑運動チック:跳ねる、回転する、他人や物に触れるなど、より複雑な動き。
音声チック
・単純音声チック:咳払い、鼻を鳴らす、喉を鳴らすなどの音声。
・複雑音声チック:言葉やフレーズを繰り返す、他人の言葉を繰り返す(エコラリア)、不適切な言葉を発する(コプロラリア)。

症状の特徴
・一時的な抑制:チックは一時的に抑制できることがありますが、抑制すると緊張感が高まり、後でチックが増加することがあります。
・症状の変動:ストレスや興奮、疲労により症状が悪化することがあります。
・意識レベル:チックは無意識に起こることが多いですが、発作前に前駆感(チックが出そうな感覚)を感じる人もいます。

3.原因
生物学的要因
・神経伝達物質の不均衡:ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが乱れていると考えられています。
・脳の機能的異常:大脳基底核や前頭前野の機能異常が関与している可能性があります。
遺伝的要因
・家族歴:チック症やトゥレット症は家族内での発症率が高く、遺伝的素因が示唆されています。
環境的要因
・妊娠・出産時の合併症:母体の喫煙、飲酒、ストレス、出生時の低体重などがリスク要因とされています。
・心理的要因:ストレスや不安が症状を悪化させることがありますが、直接の原因ではありません。

4.診断
診断基準(DSM-5に基づく)
トゥレット症
①複数の運動チックと少なくとも1つの音声チックが存在し、同時でなくてもよい。
②チックが1年以上、ほぼ毎日または間欠的に存在する。
③発症年齢が18歳未満。
④他の医学的状態や薬物の影響によるものではない。

持続性(慢性)運動または音声チック障害
・運動チックまたは音声チックのどちらか一方が1年以上持続します。

一過性チック障害
・運動チックまたは音声チック、またはその両方が存在するが、1年未満で消失します。

評価方法
・詳細な問診:症状の種類、頻度、開始時期、影響を確認します。
・観察評価:実際のチックの様子を観察します。
・家族歴の確認:遺伝的要因を評価します。

鑑別診断
・他の運動障害:舞踏病、ジストニアなど。
・精神疾患:強迫性障害、注意欠如・多動症(ADHD)との併存が多い。
・薬物や物質の影響:中枢神経刺激薬や抗精神病薬の副作用。

5.治療と管理
1)教育と心理的支援
・本人と家族への教育:チック症の理解を深め、不安を軽減します。
・ストレス管理:リラクゼーション法やストレス対処法を学びます。
2)行動療法
・習慣逆転療法(HRT):チックの前兆を察知し、代替行動を取る訓練です。
・包括的行動介入(CBIT):HRTに加え、環境調整やリラクゼーションを組み合わせた方法です。
3)薬物療法
ドーパミン受容体拮抗薬(抗精神病薬):
・ハロペリドール、リスペリドン、アリピプラゾールなど。
・効果:チック症状の軽減。
・副作用:体重増加、錐体外路症状など。
α2アドレナリン受容体作動薬:
・クロニジン、グアンファシン。
・効果:チックと併存するADHD症状を改善します.
その他の薬剤:
・トピラマート、ナルトレキソンなどが試されることもあります。

4.併存症の治療
・ADHD:中枢神経刺激薬(メチルフェニデートなど)や非刺激薬(アトモキセチン)を使用します。ただし、刺激薬はチックを悪化させる可能性があるため注意が必要です。
・強迫性障害(OCD):選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や認知行動療法を併用します。

5.外科的治療
・深部脳刺激療法(DBS):重症で薬物療法が無効な場合、外科的に脳の特定部位を刺激する方法が検討されることがあります。

6.予後

・自然経過:チック症状は小児期に発症し、多くは思春期から成人期にかけて軽減または消失します。
・長期的な影響:一部の人では成人期まで症状が持続することがあります。
・影響要因:早期の適切な支援と治療により、生活の質を向上させることが可能です。

7.注意点
社会的理解の促進
・偏見の軽減:チック症状は本人の意志で制御できないため、からかいやいじめの対象となることがあります。社会全体での理解が重要です。
学校や職場でのサポート
・環境調整:静かな場所での学習、試験時間の延長など、個々のニーズに合わせた配慮が必要です。
・教育関係者への情報提供:教師や同級生にチック症について理解してもらうことで、学校生活が円滑になります。
家族のサポート
・ストレスの軽減:家庭内で過度なプレッシャーを与えないようにします。
・肯定的な関わり:成功体験を増やし、自尊心を高めます。

8.まとめ
チック症は、小児期に発症することが多い神経発達障害であり、突然的で反復的な運動や発声を特徴とします。適切な診断と多角的な治療アプローチにより、症状の軽減と生活の質の向上が期待できます。本人や家族、教育者、医療者が協力してサポートすることが重要です。


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