抗リン脂質抗体症候群(APS)について
抗リン脂質抗体症候群(APS)とは?
APSは、血液が固まりやすくなることで血栓(血のかたまり)ができやすくなる病気です。また、妊娠中の女性では流産や早産の原因になることもあります。この病気は、体内に「抗リン脂質抗体」という特別な抗体ができることで発症します。
なぜ血栓ができるの?
通常、抗体は体を守るために働きますが、抗リン脂質抗体は自分自身のリン脂質やそれに結合するタンパク質を攻撃します。その結果、血液が過度に固まりやすくなり、血管内に血栓ができてしまいます。
主な症状
1.血栓症
・深部静脈血栓症:足の深い部分の静脈に血栓ができ、痛みや腫れを引き起こします。
・肺塞栓症:血栓が肺の血管に詰まることで、呼吸困難や胸の痛みが生じます。
・脳梗塞:脳の血管が詰まり、言語障害や半身麻痺などの症状が現れます。
2.妊娠合併症
・流産や早産:妊娠初期から中期にかけての流産や、妊娠34週未満での早産が起こりやすくなります。
・胎児の発育不全:胎盤の機能不全により、胎児の成長が遅れることがあります。
3.その他の症状
・網状皮斑(もうじょうひはん):皮膚に紫色の網目模様が現れます。
・血小板減少:血液中の血小板が減少し、出血しやすくなることがあります。
・神経症状:頭痛、めまい、てんかん発作などが起こることがあります。
誰がなりやすいの?
APSは、特定の基礎疾患がなくても発症する「原発性」と、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に伴って発症する「続発性」に分けられます。特に若い女性に多く見られる傾向があります。
診断方法
抗リン脂質抗体の検出
・抗カルジオリピン抗体
・抗β2-グリコプロテインⅠ抗体
・ループスアンチコアグラント(LA)
があるかを調べます。
※LAは凝固検査であり、必ずしも抗カルジオリピン抗体とは相関しません。
注意点:診断には、少なくとも12週間の間隔を空けて2回以上の検査で陽性であることが必要です。
治療法
1.血栓症の治療と予防
・抗凝固療法:ワルファリンなどの薬で血液が過度に固まるのを防ぎます。
・抗血小板療法:低用量アスピリンで血小板の働きを抑制します。
・生活習慣の改善:禁煙や適度な運動、バランスの良い食事を心がけます。
2.妊娠中の治療
・薬物療法:低用量アスピリンとヘパリンを併用します。ワルファリンは胎児への影響があるため使用しません。
・定期的な検診:産科医と協力し、胎児の発育をしっかりと見守ります。
3.重症例の治療
・劇症型(キャタストロフィックAPS):抗凝固療法に加え、ステロイドや血漿交換療法を行う場合があります。
予後と注意点
・早期診断と治療が鍵:特に劇症型では迅速な対応が重要です。
・定期的なフォローアップ:医師の指導のもと、定期的な検査と診察を受けましょう。
日常生活で気をつけること
・喫煙を避ける:タバコは血栓のリスクを高めます。
・避妊薬の選択:エストロゲンを含むピルは避けましょう。
・体調の変化に注意:足の腫れや痛み、息切れなどの症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、血栓症や妊娠合併症を引き起こす可能性のある病気です。しかし、早期発見と適切な治療で症状を管理し、日常生活を問題なく送ることができます。気になる症状や不安がある場合は、遠慮なく医師に相談しましょう。