没落
気持ちが悪い。
電車の中で、
明らかに俺の周りだけ空気が違う。
俺の前に立ってる若造、そんな目で俺を見るな。
俺は宝石界で名を馳せた、池谷秀一だぞ。
だからそんな目で俺を見るな。
優先席は俺のためにあるんだぞ。
俺のこの手が、この手が世界を動かしてたんだぞ。
世界中のクソセレブどもが俺の手のひらで
転がっていたんだぞ。
わかるか、若造。
俺は栄光も挫折も知っている。
今はこんなナリだが、昔はすごかったんだ。
この手で、
この手で
世界を動かしていたんだぞ。
だがな、若造、偉くなるとはどういうことか知っているか。
人間は、なんで偉くなりたいか知っているか。
それは、本能なんだ。
天まで飛んでいく虫と一緒だ。
虫ケラとな。
私は虫ケラを幾度と無くけちらしてきた。
天に昇りたくてな。
だがな若造、組織なんぞ結局は人間が作ったものだ。
目に見えないリレーションシップ?
ふざけるな、世の中は勝ち組と負け組だ。
俺は負け組の人間にだまされた。
勝ち組もずっと勝ち組だとな、
なにが勝ちかわからなくなってくるんだ。
気づいたら負け組だ。
組織なんてそんなもんだ若造。
わかったか。
そんな目で俺を見るな、若造のくせに。
俺は偉かったんだ。
俺は偉かったんだぞ。