私のLINEを未読無視した美容師と再会しました。

今回はこの記事の続きです。先にこちらをお読みください。



2025年 1月30日

推し美容師の彼にLINEを未読無視されてから、2か月と少しが経った。
面接前にバリカンが使えない謎の新人に無理を言って切ってもらった私の髪は、かなり伸びた。ツーブロックにしていないので、2か月しか経っていないが髪は結構ボサボサだ。
いつもは3ヵ月は我慢するが、推し美容師の彼がLINEを無視した意図も気になるし、早く1度会って話したかった。
私としては本当にたまたまLINEを見逃しただけだと思っていたが、結構な人数に
「もう嫌われている」
「美容師はあなたのことが嫌だと気づいてもらおうとアピールしている」などと言われ、流石に不安だった。
だから、いつもは3ヵ月待つところだが、もう髪を切ることにした。

今回は、推しの彼にお金を払って切ってもらおう。少し遅くなったけれど、一人前の美容師になってデビューした彼へのお祝いだ。

ここでひとつ疑問に思ったのだが、カットモデルでいつも無料で切ってもらっている人は、美容師が自立したらお祝いに行くのだろうか。お祝いで1回有料で切ってもらってから、次の人に移行するのだろうか。

そういえば私の母は最近、バリカンが使えないあの新人にまた髪を切ってもらったらしい。
そのとき「この前、息子さんの髪あまりうまく切れなくて、申し訳ありません」と謝られたらしい。
母の話によると、その人は3月いっぱいで研修期間が終わるそうだ。
母は「なんか、大丈夫なのか?って感じだよね。私の髪はすごい上手に切るし手際も良いけどさぁ、バリカンとか刈るの出来ないんでしょ?それでもう研修終わって大丈夫なのかね」と言った。
私は聞いてみた。
「3月過ぎたら、デビューのお祝い行くの?いつもどうしてる?美容師が自立したら、1回お祝いで正規のお客さんとして行ってから次の人行ってる?」
母は答えた。
「お祝いなんてしたことないよ。LINE交換して何回もやってくれる人がまず少ないし。大体1回きりしかやってくれないからさ。今の子は上手だし良かったんだけど、研修終わるタイミングでなんか遠くの別の店に行っちゃうらしくてさ。」
私のように2年以上やってもらうのは、レアケースらしい。そもそもLINEを交換すること自体が珍しいのだ。知らなかった。
私が1度お祝いに行こうとしている話をしてみると、
「しゅんきは2年くらいずっと行ってるし、本当にお祝いしてやっても良いくらいだわ。良いんじゃない?」とのことだったので、
私は有料でカットしてもらうことを決めた。


私は彼にLINEした。

「平日の昼間で、カットお願いできますか。課金しますわ」

なんだか緊張する。
また無視されたらどうしよう。

いつもの彼なら、すぐに既読が付くはずだ。


30分後、既読になり、返事が来た。

「あら。今日も空いてるよ!それか来週の木曜!」


よかった。無視されなかった。また3日も4日も既読が付かなかったらどうしようかと思った。

私はすぐに返信し、その日のうちに切ってもらえることになった。


久しぶりに彼に再会した。

彼は「珍しいね、課金して。いっぱい稼いだの?」などと聞いてきた。
私は「いや、なんかもう自立してるのにタダで頼んだらダメなのかなと思って、別の店の新人に頼んだんだけどさ。バリカンとか使えなくていつものツーブロックできなくて、切りながら『難しい』とか『うまい人の所に行ったほうがいいかもしれない』とか言われて、だから今回はお金払ってちゃんとやってもらって、元の髪型に直してもらおうと思って。」と答えた。
さすがに
「あなたのことを題材にして書いたブログが19万人に読まれて、読者にちゃんと金払えってめっちゃ怒られたから金払いに来たよ」と言うわけにはいかない。
彼は「え?そんなこと言われたの?そんなこと言う人いるんだ」と笑った。
「これからも、また別の人に切ってもらって変になったら、あなたにお金払って直してもらいに来ます」と言うと
彼は「え~?ちょっと、やめてよ~」みたいなことを言ってきた。
意味が分からない。なぜダメなのか。
変になった時に直すために来るということは、彼のことを信頼している証である。変な髪型になっても彼ならうまく直してくれると信用しているということだ。
私がそのことを力説すると
「まぁ、そうか~。」とは言いつつ、どこか納得していなさそうな顔をしていた。よくわからない。本当は、もう私に来てほしくないのだろうか。

髪を切ってもらっていると、彼は
「この前ごめんね、LINE見れてなくて」と、この前未読無視したことを謝ってきた。

私は勇気を出して聞いてみた。
「いや、なんか、ずっとタダでお願いしてるからもう嫌になったのかなとか思ったりして。そんなことない?」

彼は答えた。
「いや、本当にLINE溜まってて。結構焦った。『あ、やべ』って。だからその後は返事すごい早かったでしょ?」

確かに、私が彼に未読無視された数日後に送った「別の人に頼みました」というLINEにはすぐ返事が来た。

彼はやはり、本当にLINEを見ていなかっただけなのだ。
私は安心した。

しかし、彼が嘘をついている可能性も捨てきれない。本当は無料でカットするのが嫌だったかもしれない。もう少し探りを入れてみることにした。

営業時間終了後に無料でカットしてもらっている人は私以外にも何人もいたはずだ。その人たちは皆、彼が自立したことを察するなり聞くなりして、他へ行ったのだろうか。または彼に正規の料金でカットを頼んでいるのだろうか。彼は自立したことを自分から言わなかった。
私にだけ内緒にして、他の人には
「もう研修が終わって一人前になるんだ!だから、次からは正規の料金になっちゃうけど、是非一人前になった私にカットを頼んでね!」などと言っているはずがないだろう。おそらくみんな、私と同様に彼との会話の流れで偶然知ったか、質問したか、もしくは未だに彼が研修生だと思っているお客さんもいるかもしれない。

「今でも営業終了後に無料でカットしてるお客さんもいるんですか?」と聞いてみた。
彼は「あ~、まだ何人かいる。仲間いるよ。」と答えてくれた。

私はさらに踏み込んだ。
「そうなの?いや、私もさ、この前まで知らなかったからさ。あなたがもう自立してたこと。もっと早く言ってくれたらお祝いとか行ったのに~。」
彼は笑いながら言う。
「いや、絶対来ないでしょ。そんな人情タイプの人間じゃないじゃん。」

私はショックだった。
私は自分のことを、人情味溢れる人間だと思っていた。

私は情で家庭教師の授業を延長してあげることもあるし、プリントをオリジナルでわざわざ時間外につくってあげることもあるし、大学の知人に飴やお土産を配るし、知らない人にも話しかける。なんて人情溢れた人間だ。

最近、大学の講義で2人1組で作業することがあった。
何週間かかけて、ペアでネットワークのシステムを構築する。
私はいつもの知人とペアを組んだ。
しかし、私の隣の机に座っていた女子が、人数が奇数であったため1人で作業することになっていた。
全く喋ったことのない子だったが、私は時々話しかけた。
「ワンオペ、ひとりで大変じゃない?」
「ワンオペ、125ページのステップ3できた?」
「ワンオペ、これ先生に返すの?持っといて良いの?」
(名前も知らない子だし、突然話しかけて名前を聞くのも変なので、ワンオペと呼んだ。ひとりで作業しているからワンオペ。)
私はこのように、ひとりで居る人に気を遣って話しかける。
自分が中学時代とか高校時代ずっと独りで、たまに気遣って話しかけてくれる子がいるとめちゃくちゃありがたかった。話しかけてくれる人のありがたみを、人一倍わかっている。だから私は人に話しかける。
周りのみんなは、仲間内だけで喋ろうとする。つながりを広げようという気が見られない。
仲間内で盛り上がっている人たちにわざわざ話しかける必要はないが、ひとりで作業している子には気をかけてあげたほうが良い。(「ひとりが好きな人も居る!」などと余計な反論をしないこと。そういう細かいケースにいちいち触れていてはキリがない。)

このように、私はかなり人情タイプの人間だ。
私は美容師の彼に言った。
「いや、私結構人情タイプよ?言ってくれたらさ、デビューしてすぐ行ったのに~。」
彼は「いつも喋ってると全然そんな感じしないけどね」と否定。

私は「もう自立したので次から有料でって言ってくれたらすぐ昼間に来たのに。なんで言ってくれなかったの?」と聞いてみた。
ずっと聞きたかった、不可解な点だ。なぜ彼は自立したことをしばらく黙っていたのか。
noteを読んだ一部の方の意見では「言いにくかったのではないか」とのことだが、練習台やカットモデルが必要なくなるくらい上達するのは喜ばしいことだし、自然なことである。普通のことである。何も言いにくいことはない。
練習台が不要になったと言われて
「オマエは練習がまだまだ必要だろ!ふざけるな!」とキレる奴がいるのだろうか。そんな奴は、いたとしてもごく一部であろうし、これまでに結構な時間会話した私がそういう客でないことはわかるはずだ。私は彼にクレームを言ったことはない。カットの出来に苦言を呈したこともない。

彼は
「いや~、今さら言いにくくない?今さら良いかな~と思って。お母さんにもお世話になってるし」と答えた。

衝撃だった。まさか本当に言い出せなかったとは思わなかった。

私は驚きすぎて
「あぁ、そう。言いにくかった?え~。」と言い、それ以上言葉が出ず、深堀り出来ず次の話題に行ってしまった。

彼は何故「もう自立して練習台が不要になった」というだけのことが言えなかったのだろう。美容師は、お客さんとたくさん会話する職業だ。
カットしながら世間話などするし、飲食店のようなただ注文を聞くというだけの会話ではなく、深くコミュニケーションをする。
きちんと言いたいことが言えないと困ることも出てくるかもしれない。
彼は大丈夫だろうか。悪いお客さんに、こき使われることはないだろうか。少し心配になった。(お前が言うな、と言われるかもしれないが。)

カットの終わる頃、私はもうひとつ気になっていたことを彼に聞いた。
「まぁ、こんなもんだろ」についてだ。
前回バリカンの使えない新人に切ってもらったとき、終わってみて仕上がりがどうか聞かれた際「まぁ、こんなもんだろ」と答えると
「俺お客さんにまぁこんなもんだろなんて初めて言われたわ」と言われた。
私はカット終わりに「長さこのくらいで大丈夫ですか?」などと聞かれると
いつも「まぁ、こんなもんだろ」と答える。
新人の反応から考えるに、この答え方はあまり良くないのかもしれない。
noteを投稿したときにもそのようなご指摘がいくつかあった。

私は彼に、前回の新人の反応について話した。そして
「他のお客さんは、まぁこんなもんだろって言わない?みんな何て言うの?」と聞いてみた。
彼は「ありがとうございます、とかが多いね。まぁこんなもんだろって言われたことは無いね」と教えてくれた。
私は、長さが良いかどうかを聞かれていることに対して「こんなもん」と言っているわけで、あなたの美容師としての腕前に対して言っているわけではないということなどを釈明した。
「まぁこんなもんだろって言われて、嫌だった?なんだコイツって思った?」と聞くと、彼は
「中学生くらいに言われたら嫌かもしれないけど、もう、しょうがないっていうか、今さら変わんないじゃん?」などと言い出した。
私は悲しかった。
私は彼に、人情味も礼儀も何もないまま育った人間だと思われてしまっていた。
そんな風に思われていたなんて、ショックだ。
悪気があったわけではない。彼を傷つけようとしたわけでもないし、ただカットしてもらいながら楽しくおしゃべりしていただけだ。


彼にカットしてもらった1時間で、いろいろな学びがあった。
「1人前になってもう練習台が不要になった」という程度のことも言いにくいと思っている人間がいること。
人には、言いづらいことがあるのだということ。
自分では人情タイプの人間でいるつもりでも、全然そう思われていなかったりすること。
「まぁ、こんなもんだろ」は失礼だということ。

人と関わるというのは、難しいことだ。美容師と客の関係性レベルでこれだけ問題が起こるのだから、友達や恋人とうまくやっていくのは至難の業だ。
でも、こうやって、ひとつずつ学んでいくしかない。
嫌な顔せず何回も無料でカットしてくれたし、たくさんのことを知るきっかけになった彼には、とても感謝している。
彼はカットの途中、突然「最近食べるラー油にハマってるんだよね。差し入れくれるなら食べるラー油がいいな」と言った。
差し入れをしたい、と私が言い出したわけではない。何の脈略もない発言だ。おそらく、話すことがなくなったときに毎回言っているのだろう。
美容師に差し入れする奴なんかいるのか?と思うが、そんなに多くはないが、美容師に差し入れを渡す人はいるらしい。
たくさんお世話になったし、彼に今度お願いするときは、食べるラー油を持っていこう。差し入れして、私が人情タイプの人間であることをわかってもらおう。


カットが終わると、彼は
「長さどう?まぁ、こんなもん?」と聞いてきた。

私は「まぁ、こんなもんだろ」と言い、ふたりで笑った。




彼に初めてお金を払ってカットしてもらった、領収書。
一応初回だから20%引きらしい。