もっとゆっくりでいいんじゃないか?
便利だ。ほんとに便利。
今はLINE、メッセンジャー、メールなんかですぐ連絡が取れる時代。
連絡が取れない。待ち合わせで会えない。
なんてことはほぼない世の中。
情報も人間関係も、あらゆることがスピードアップ。
そのスピード感は楽しいし、刺激的ではあるのだが、
「そんなに急いで僕らはどこへ向かうんだ?」
って感じる時もある。
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僕がベルギーのパティスリーで働くために日本を離れたのが、ちょうど20年前の2004年だ。
もう20年が経ったのか…。つい昨日のことのように記憶が鮮明なままだ。
ベルギーには必要最低限の荷物しか持って行かなかった。
大好きなビリージョエルのアルバムと、オーボンヴュータンの河田さんのレシピ本は持って行った。
当然スマホもパソコンもない。
国際電話も高いからできない。
だから毎週、日本にいる彼女に手紙を書いた。(今の奥さんね)
それが楽しみだった。
1週間、異国の地で暮らし、働いて感じたことを書く。
それを休みの日の午前中に郵便局まで出しに行く。
古い歴史を感じさせる郵便局だった。
窓口に並んで、つたないフランス語で切手を買い、それを封筒に貼ってポストに入れるのが楽しかった。
小さなことだけど大きな達成感。
気分が良くなってカフェでコーヒー飲んだり。
その国の暮らしに入っていけてる感覚。嬉しかった。
ちゃんと届くかな。返事が待ち遠しいな。
LINEでのやり取りが常識な今の若者からしたら考えられないだろうが、そんな面倒な時間はとても豊かな、幸せを噛み締められる時間でもあるのだ。
そんなある日。
彼女が日本から送った手紙が2週間以上経っても届かなかった。
なぜだ?
僕が日本に送った手紙は数日で届いているのに。
日本からの手紙は店に届く。
僕は店から離れた厨房の2階に住んでいたから、いつも誰かが届けてくれるのだ。
洗い場担当のボスニア人のおじさんが、汚れた鉄板の間に挟まれた2通の手紙を渡してきた。
「ユースケ!ごめん、ごめん!手紙預かってたんだった。ここに挟まってた!ハハハーwww」
って、おーーーーい!!!
いつもの笑顔と笑い声で怒る気にもならない…。ずるいぞ。
このおじさんの名前は「スマイル」
いつもニコニコで気さくなおじさんなのだ。
なかなか届かなかった2通分の手紙がようやく届いた…。
待ち侘びた手紙の封を開けるときのワクワク感は忘れられない。
「タイパ」なんて言葉を最近よく耳にするけど、こうやって時間がかかることで熟成されたり、噛み締めたりする感情も大事だよ。
だから自分の商品を購入してくださった方には、短くてもいいからその時の自分の気持ちをカードに書いて添えている。
直筆の文字には感情も一緒に入っていると思うから。
自分で書くのが追いつかなくなるくらい商品が爆発的に売れてくれれば嬉しいんだけどね…(笑)
まあ、それもゆっくり楽しみますよ。
「スマイル」おじさんのお話もどうぞ↑
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