深読者Vol.8
ⅩⅢ.神話の完成に観た「全景」〜[LANDSCAPE]〜
神話を完結させたPIERROTは、『HEAVEN〜THE CUSTOMIZED LANDSCAPE〜』のリリースののちの2002/05/01より、5つのタームに分けて<[LANDSCAPE]>と銘打ったライヴを行った。
2002/05/01は<[LANDSCAPE]−SCRAPⅠ−>として。
2002/05/02は<[LANDSCAPE]−SCRAPⅡ−>として。
そして2002/05/08から05/10までは<[LANDSCAPE]−HADES SIDE−>、<[LANDSCAPE]−REAL SIDE−>、<[LANDSCAPE]−HEAVEN SIDE−>として、それぞれ物語の核であった楽曲をメインにしたセットリストで神話を振り返った。
以下にそのセットリストのみを掲載しておく。
2002/05/01<[LANDSCAPE]−SCRAPⅠ−>
1.セルロイド
2.ENEMY
3.Adolf
4.GENOME CONTROL
5.DOMESTIC VIOLENCE
6.有害の天使
7.Waltz
8.ゲルニカ
9.鬼と桜
10.青い空の下…
11.FREAKS
12.ドラキュラ
13.自殺の理由
14.FOLLOWER
アンコール
15.PARADOX
16.VURTUAL AGE
17.満月に照らされた最後の言葉
18.HAKEN KREUZ
2002/05/02<[LANDSCAPE]−SCRAPⅡ−>
1.FREAKS
2.ENEMY
3.Adolf
4.真っ赤な花
5.サルビア
6.有害の天使
7.Waltz
8.MASS GAME
9.鬼と桜
10.青い空の下…
11.セルロイド
12.ドラキュラ
13.満月に照らされた最後の言葉
14.FOLLOWER
アンコール
15.PARADOX
16.VIRTUAL AGE
17.自殺の理由
18.蜘蛛の意図
2002/05/08<[LANDSCAPE]−HADES SIDE−>
1.THE FIRST CRY IN HADES(GUILTY)
2.CREATURE
3.ENEMY
4.Adolf
5.MASS GAME
6.有害の天使
7.Waltz
8.不謹慎な恋
9.パウダースノウ
10.ゲルニカ
11.FREAKS
12.ATENA
13.神経がワレタ寒い夜
14.AGITATOR
15.自殺の理由
16.FOLLOWER
アンコール1
17.HEAVEN
18.新月
19.THE LAST CRY IN HADES(NOT GUILTY)
アンコール2
20.MAD SKY〜鋼鉄の救世主〜
21.満月が照らした最後の言葉
22.HAKEN KREUZ
2002/05/09<[LANDSCAPE]−REAL SIDE−>
01.ENEMY
02.Adolf
03.DRAMATIC NEO ANNIVESARY
04.真っ赤な花
05.有害の天使
06.KEY WORD
07.Screen1.トリカゴ
08.MAGNET HOLIC
09.脳内モルヒネ
10.ICAROSS
11.壊れていくこの世界で
12.REBIRTH DAY
13.Newborn Baby
14.CREATURE
15.自殺の理由
16.HAKEN KREUZ
アンコール1
17.HEAVEN
18.新月
19.CHILD
アンコール2
20.ドラキュラ
21.満月に照らされた最後の言葉
22.FOLLOWER
2002/05/09<[LANDSCAPE]−HEAVEN SIDE−>
01.HEAVEN
02.新月
03.DRAMATIC NEO ANNIVESARY
04.HOME SICK
05.ENEMY
06.LOVE&PEACE
07.COCOON
08.BELIEVER
09.AUTOMATION AIR
10.壊れていくこの世界で
11.OVER DOSE
12.REBIRTH DAY
13.BIRTH DAY
14.SUPER STORING THEORY
15.満月に照らされた最後の言葉
16.FOLLOWER
アンコール1
17.鬼と桜
18.Adolf
19.HAKEN KREUZ
アンコール2
20.クリア・スカイ
21.自殺の理由
22.蜘蛛の意図
キリトは<[LANDSCAPE]−HEAVEN SIDE−>本編中、「BIRTH DAY」を歌う前にこうMCをした。
「今まで長い間ずっと続いてきたひとつのストーリーが、今ここで終わります。世界を憎んでいた<怪物>は今ここで、命を終えます。これからまた新しいものが始まるけれど、世界を憎んでいた<怪物>はここで死ぬ時、新しい命を祝おうと思いました。今ここにいる、すべてのお前たちひとりひとりのために歌おうと思います。『BIRTH DAY』」
世界を憎んでいた<怪物>は《CREATURE 》であったわけだが、Ⅴで触れたように<怪物>は私たちの<本性>でもあった。
人は誰しもが、孤独を抱えている。そのインナーチャイルドを癒すかのように、私たちはこの神話の主人公《僕》、そして求められ続ける存在である《君》のストーリーを追い続けた。
そしてそれらの物語は、私たちの存在すべてを肯定して、大団円で終了したのであった。
ⅩⅣ.神話の崩壊
この「神話完成後」のPIERROTについて、そしてPIERROTというバンドの存在意義について少しだけ触れる。
PIERROTはこの後、何枚かのシングルと何本かのツアー、4thアルバム『ID ATTACK』と5thアルバム『FREEZE』をリリースし、各メンバーがソロ活動に突入。
そして──2006/04/02に日比谷野外音楽堂で行われたFC限定ライブ<「EMERGING」>を雨の降る中敢行し──突然にHPにて2006/04/12、解散を発表した。理由は「ソロ活動を重要視したいメンバーとPIERROTの活動を重要視したいメンバーとの意志の統率ができなかった」というものだった。
PIERROT最後のシングルとして2006/06/21に「HELLO」がリリースされ、それを区切りにメンバーはそれぞれの活動を本格化させていった。
私たちが社会に不満を抱いた時に、その憤懣によって自らで社会を変えようとする人間もいれば、何かに縋らねば生きていけない人間もいる。どちらかがいいだとか悪いだとか、そういった問題ではなく、それは生き方の<選択>である。そして後者の逃げ場として存在するのが宗教である。これを音楽に置き換えた時、PIERROTというバンドはまさに宗教だった。
宗教の経典には創世という物語が書かれており、PIERROTもまったく同じ手法でファンを取り込んだ。さらに彼らが他の「宗教」と差別化を図った部分が、絶対的存在であるはずの神への疑問を投げかけ続けた事である。主役をあくまで神の創造物である《僕》にする事で、理不尽な力に対する反抗心や、運命に強制的に従わされる哀しさを描き、さらには《僕》が民衆を味方につけ新たな神へと進化する過程を、キャッチーなメロディとノリの良いリズムで包みリスナーへ届けた。それらを踏まえた上で《僕》が神になった後の苦悩も歌い、「創世」というありふれたテーマに深みを持たせ、神へのテーゼとアンチテーゼをひとつの世界に内包したのである。そうすることで《僕》はリスナーの投影対象でありながら、PIERROTというバンド本体として応援される存在と成長した。
PIERROTの世界観は、一曲や一枚のアルバムを聴いただけでは解らない。ただの終末思想ではなく、ただの創世のストーリーではなく、あくまで普遍的な内容──それは存在の「肯定」だ──にもかかわらず、何度もその舞台が転換するからである。一度PIERROTにハマれば彼らが描き出す次の景色を見ずにはいられなくなる。ライブでの何万、何千の人間のマス・ゲームも、その行動が彼らの表現したい世界に必要だとファン全員が信じて行っていたのである。
度重なる実験の様なライブやリリースを体験し、私たちはひとつの結論に至った。
PIERROTは神に憧れていた。
ファンの意識を進化(深化)させる為と銘打たれた数々のライブを行ううちに、初めは客観的に宗教の疑似体験をしていただけだった彼らが、どんどん精神世界の深みにはまっていくのが解ったのだ。民衆から称賛され、神の真似事が真似ではすまされなくなり──バンドは崩壊した。
人間は神にはなれないという事まで、PIERROTというバンドと彼らが描き出した神話は体現したのである。それは逆に、彼らが神にしか入れない領域に近づいた証でもあり、だからこそ私たちはその不完全さに惹かれたのだ。
崩壊しない神話は神話ではなく、堕天しない崇拝者もまた、そこには期待されていないというパラドクスが存在していた。
ⅩⅤ.《DICTATORS》は果たして……
2014年、PIERROTは突然に「2日限りの復活」をした。10/24・25に、さいたまスーパーアリーナにて<DICTATORS CIRCUS FINAL>と冠したライヴを行ったのである。
この<DICTATORS CIRCUSシリーズ>というものはPIERROTのインディーズ時代から行われており、バンドのあらゆる節目に行われたお祭り的ワンマン・ショーの色が濃いものであった。
道化のメイクを施したボーカリストが<独裁者>としてファンを煽動する。PIERROTというバンドにこれ以上ないほどマッチしたコンセプトのライヴ。
その<FINAL>として、区切りとして開催されたライヴ中のMCで、キリトは「今後のPIERROT」について、「どうなるかはわからない。またやるかもしれないし、もうやらないかもしれない」と言った。しかし、
「あの日以来、時間が止まったままの人たちもたくさんいたんだろうかと思っていました。そういう人たちの呪縛が少しでも解けたらいいなと思います。そして、お願いがあります。昨日今日と本当に夢の様な時間でした。この感覚を噛み締めて、明日からはどうか、現在(いま)を生きてください。俺達も大切な帰るべき現在に帰ります。二度と歌えない、と思っていた曲がまた、この5人で歌えるということで本当に噛み締めながら歌いますので、君たちも一緒に。本当にありがとうございました。PIERROT、最高です。俺にとっても誇りです。そしてまたこんな時がやってくると、きっとやってくると信じています」
と、多大な感謝を述べてこの「復活の日」を総括したのだった。
<DICTATORS CIRCUS FINAL>は、10/24に開催されたものは<-I SAID「HELLO」->という副題が、25に開催されたものには<-BIRTHDAY->という副題がそれぞれ冠されていた。
解散が決まってからリリースされた最後のシングル、「HELLO」。
神話の最終章であった「BIRTH DAY」。
まるで《僕》が産まれ出ずるすべての「君」へ祝福の歌を歌ったように──生まれてきてくれてありがとうと、挨拶をしたように──PIERROTは「この復活を喜んでくれたすべての存在に」感謝をし、限定的な再結成を終了した。
そして2017/01/01。ヴィジュアル系シーンに、新たな動揺が走った。PIERROTとDIR EN GREYの二大巨頭による新プロジェクト<ANDROGYNOS>の始動が報告されたのだ。
<ANDROGYNOS>は通称<丘戦争>と呼ばれ、長く不仲を囁かれてきたPIERROTとDIR EN GREY──そしてピエラーと虜──を同じステージへと置換し、2017/07/07は<ANDROGYNOS-a view of the Megiddo->──PIERROTの楽曲である「メギドの丘」──と、07/08は<『ANDROGYNOS-a view of the Acro->──DIR EN GREYの楽曲である「アクロの丘」──と副題をつけ、それぞれの、決して融合しなかったであろう景色を見せつけた。
このヴィジュアル系の歴史的なライヴをもって、またしてもPIERROTは沈黙する。
神になれなかったバンドは、このあとどのような物語を展開するのだろうか。期待しているのはFOLLOWERのみなのだろうか。それとも、《CREATIVE MASTER》本人ですら、この先のストーリーは読み取れないのだろうか。
そこには"手に汗を握る位の「裏切り」”が存在するかもしれないのだ。
さあ幕は切って落とされようとしている
自己複製(コピー)を繰り返し増殖しな
ビリヤードの玉の様にぶつかりあいドラマ作って見せてよ
(「CREATIVE MASTER」作詞:キリト)
相変わらず青いこの空の下
夢はまだ成し遂げられないけれど
志は高いままさ
また悩める子羊を探そう
どんな時も暗黙に 人々は
「必要悪」をきっと求めているのさ
(「FOLLOWER」作詞:キリト)
深読者:完