終わらないえんそく~つれづれメモ8 青いソファーと「終わりの絵」~
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さて、二回に渡って「ウシノシタ団総統閣下の物語」を追って行ったが、その物語の続きを少しだけ辿って、彼の話を終えようと思う。
「惡」の旗印を掲げている総統閣下。そのため、4thアルバムの『惡道に死す』もまた、彼の物語だと言っていいだろう。
ここに至るまでに『狂い咲く春のはじめ方』と『アリス・エクス・マキナ』、『12モンスターズ』というシングル・リリースがあったのだが、これらはえんそくが描くメインの物語が当時「総統閣下の物語」とは切り離されていたことを表しており、「総統閣下の物語」とは別に存在している。だからこそ、『正しい世界の終わり方。』は、「1st ラストシングル」と冠されていた。
ただ、細い線をつなぐように『狂い咲く春のはじめ方』では「–これまでのお話–」として、「1999年のブルース」で歌われた「新しい『ソレ』」の目覚めの物語が綴られる。その『ソレ』は、「世界の墓地からこんにちは」する存在だということも示されている。
『アリス・エクス・マキナ』、『12モンスターズ』と、その新しい物語が綴られたあとに、もう一度総統閣下は『惡道に死す』で復活。そして、その後リリースされた『金曜日のチェーンソー/天獄への十三階段』で、彼の物語は完結──ということになっている。
『惡童のススメ』の時とは違い、サウンドもゴリゴリのハードロックが多く、歌詞も中二病感満載。一曲目の「『ここがお前の死に場所だ!!』」はヘヴィになったサウンドに載せて、総統閣下が蘇ったこと、そして我々を死人の国へ──それは『惡童のススメ』で「改造人間『人間改造ニンゲン』」が少女たちを改造人間にしてしまったように──誘う、非常に重要な楽曲である。ここで切り離されていた物語はひとつの宇宙に収束していく。
このアルバムを「総統閣下の物語」と捉える上で特筆しなければならないのは、やはり「怪人ラボの夜」になるだろう。筆者が彼の物語を書く上で、起点にしたものが「デジデリオ 」だからである。
二人で冷やかしていた家具屋も もう 潰れちゃったから
二人で買おうねって言ってた青いソファーは 二度と手に入らなくて
二人で住む予定の「絵の中のあの部屋」も ずっとそのままで
二人で描いた未来ごと 色褪せていった
(「デジデリオ」/えんそく)
「怪人ラボの夜」では、ひとりの男性が「あの頃」描いた理想の続きを、ひとりでまだ続けていることが描かれる。
例えばね 世界の終わりを企む 「悪の秘密結社の継続」だろうと
気がついたら寝てて ふと目が覚めた一人ぼっちの夜には ただの寂しいおじさんに戻る
(「怪人ラボの夜」/えんそく)
このおじさん=総統閣下は、楽曲の中で失くしてしまった同志への思いを吐露している。
おい 二人目の子供の話なんて聞いてないのに いつの間にそんな大きい子が!?
写真に写る君の後ろ その部屋には個性の無いベージュのソファーが置かれている
あの日々を思い出し 閉じる
(「怪人ラボの夜」/えんそく)
「日々、宇宙色」で「女」が「男」に送ったメッセージのように、かつての同志は総統閣下に「現在」を伝えている。
そして、過去にふたりで暮らすときには買おうと言っていた、幸せの象徴だった「青いソファー」は、別の幸せの象徴として、まるで無個性な「ベージュのソファー」になって、同志と誰かの家庭に存在している。
この怪人ラボでボクは 毎晩ずっと この「生け贄」を壊す武器を作ってる
怪人 怪獣 新しい機械…いずれ皆殺しにして 全部救ってやるんだ
ボクの仲間だけじゃなく もう死んじまった大事な人も スレ違ったまま別れた人も
どんな奴だって救ってやる もちろん 君と あの日終わっちまった途切れた物語も
(中略)
今 ボクラだけが知ってる世界の果てから 魔法をかけて
暗闇に咲くバラよ 君にどこか似ているあの娘の上に降って 刺さって 狂い咲いて
次の「終わりの絵」を共に描いて遊ぼう 闇色の筆で
ボクは世界の果てから君に毒を放った
反射しその頬を照らして 甘く香り誘う月を追いかけ いつか君の町にも行くよ
夜の霞に紛れ ボクの描いた 終わらない悪夢を見せに行くよ
(「怪人ラボの夜」/えんそく)
総統閣下は「そして計画は続く」で、「悪の秘密結社ウシノシタ団」が描く終末への計画──「終わりの絵」──を示唆し、彼の戦いがまだ続くことを歌う。
その後「キャトル」──言うまでもなくキャトルミューティレーションである──で高次元生命体の存在と「アセンション」──次元上昇──の示唆をし、「狂ったセカイと時計仕掛けの神様」で、1stラスト・シングルのタイトル『正しい世界の終わり方。』を回収する。
その先に待ち受けているのが、『金曜日のチェーンソー/天獄への十三階段』である。
「金曜日のチェーンソー」でくだらない日常から切り離された魂は、「天獄への十三階段」で次元上昇する。
そして彼の物語は、別の並行宇宙で続くのである。
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