魔女の愛した永遠【第四話】
私は男を食堂へと誘った。途中、カラスが私の肩に止まり、夕食のリクエストを催促する。私はカラスの足に括り付けられた紙を解き、指で文字を書いた。それは焦げ目となって浮かび上がり、数行のメモとなった。
そのメモを丸め、カラスに差し出すと片足で掴んで飛び立った。カァカァと鳴き、離れていく黒い鳥を見て男は言った。
「君はなんてすごい人なんだ。愛しい魔女。私ではあんな風に飼い慣らせないよ。」
「飼いならしたわけではないわ。あれは私の魔法で作り出した人形なの。」
「素晴らしい人形だ。その手は全てを完璧に作り変えてしまうんだね。」
「いいえ、私は借り物の体を作ることしかできない。指示待ち人形を作るのが関の山よ。」
「謙遜してる貴女もとても綺麗だ。」
男は握り直した私の手にキスをした。そして何事もなかったかのようにまた歩き始める。
私は命を作り出すことはできない。だからもし、あの夜の呪いに従い、愛しい人が死んだとしても私が生き返らせることはできない。
だが、本当に永遠を生きる無欠の人であるならば、私と同じく死を望んでいるに違いない。だから、私の呪いの秘密は彼に話すつもりはなかった。
壁に飾られた絵画や、天井のシャンデリア、彫刻や小さな小物に至るまで、男は私の趣味を理解してくれたようだ。調度品の類まで一通り褒めると、私たちは向かい合って座った。十人ほどの人間が並んで食事を取れるテーブルに、私たちは二人だけだ。
私は土人形たちが運んできた夕食について説明する。
「このソースやスープには全て毒を混ぜてあるの。およそどんな生き物であっても数分も生きることはできない猛毒よ。でも、私が口にした時には悪くない味がしたわ。貴方がもし不死であるのなら、きっと美味しく感じるはずよ。」
「もし私が不死でなかったら、どうするつもりなんだい?」
「その時は、私たちの愛も終わるわ。」
もっとも、ここで食べるのを拒めば、私が貴方を焼いて食べることになるもの、結果は同じものだと確信していた。
しかし男は私の試すような視線にも動じず、肉を切り、ソースにつけ、口に運んだ。
「とても美味だ。舌先に広がる痺れにも似た刺激は今まで味わったどんな料理にもなかったものだ。君は本当に天才なんだね。」
そう言って、食事をする彼はおよそ毒を口にしたようには見えなかった。
まさか、オーダーを間違えたのだろうかとも思ったが、銀でできたスプーンとフォークは毒を感知して黒く変色していた。
気付くと、彼は優しく気遣わしげな瞳で私を見つめていた。
「料理が冷めてしまうよ。」
「ええ、そうね。お口に合うか不安で、つい貴方を見てしまったわ。」
「それなら心配ない。私はきっと、これからずっとこの料理を気に入ると思います。」
「そう、それなら良かった。」
私も彼と全く同じものを口にした。確かにこの中には指示した通りのものが入っていた。私がどのような顔をしていたのかは知らないが、男は私に微笑んで言った。
「私は君からの愛に応えられていますか?」
「ええ、今のところは期待以上だわ。」
「今のところは、か。」
男は悲しそうに肩を落とした。完璧だと思っていた男の頬に今食べたばかりのソースが付いていた。私はナプキンを手に取り、それを拭き取った。
「そんなに気落ちすることはないわ。貴方が本当に私の望む運命の人なら、これから幾らでも時間があるのですから。」
「そうですね。少しずつ貴女に受け入れて頂きましょう。」
得体の知れない男、だけど、今まで会った誰よりも心惹かれた。これは運命だ。そう本能が叫んでいた。