魔女の愛した永遠【第十一話】
夕食を食べ終わり、私は彼に明日また来てくださるようお願いした。
大勢の来訪者があり、土人形たちが忙しなく掃除をしていたから落ち着かないだろうと思ったのだ。
そして私は自室にある書棚の中を調べていた。ずっと遠い昔に忘れ去ろうと心に決めた記憶。その場所へ彼を連れて行きたいとそう願った。
もしかしたらこれまでのように数ヶ月、彼が来ないかもしれない。それならそれでよかった。この身も焦がれるような熱い感情の渦はその程度のことで消えることはないのだから。
すぐに見つかるものと思ったそれはなかなか見つからない。探索魔法をかけるか思案していると、強い風が吹き、名無しの魔女の訪れを告げる。
「おやおや、随分忙しそうにしてるじゃないか。」
「おかげさまで本物の愛というものを見つけたからね。貴女にとっても喜ばしいのじゃないかしら。」
誇らしげに告げると、名無しの魔女は鼻で笑った。
「まだ分かっちゃいないね。でもまぁ、九十点ってところだね。」
「それが試験なら十分に合格よ。」
「あとちょっとが足りなくてここで何人が死んだと思っているんだい?」
今度は私が鼻で笑う番だった。
「あとちょっと?最初から遠く及ばない者たちばかりだったわ。」
「そう思うのはお前がまだまだ未熟だからさ。」
「何も用がないのなら今すぐにでも消えなさい。」
私は怒りのあまり制御できない炎が全身を包んでいくのを感じていた。やがてこの炎は無差別に私の近くにあるものを破壊し始めるだろう。
人間相手であれば脅威でしかない炎を見ても魔女は一切怯まなかった。優雅に踵を返し、やってきたのと同じ窓から部屋を出て行こうとする。
「余裕のない魔女はつまらないものだね。まぁ、また来るよ。」
そう言って、また夜の闇に消えていった。
徐々に怒りが収まり、身体中にまとっていた炎も静まった。気を取り直し、書棚に身を翻すと、どこからともなく名無しの魔女の声が響く。
「お前さんが探してたものなら、机の奥にしまってあったよ。」
その声に呼応するように棚の横にある小さな机の引き出しが開き、一冊の書籍が顔を出した。
「勝手に私の部屋を漁らないでちょうだい。」
名無しの魔女の高笑いが響き渡る。
「魔力のあるものぐらい感知できるようになりな。」
そう言い残すと、今度こそ名無しの魔女の気配は完全に消えた。
私が数百年前に書き残した日記に、私の全てが書かれている。いつか私が読むときまでその記憶は封じ込められているはずだった。
だけど、彼が私を庇ったとき、確かにあの頃の断片のようなものが見えたのだ。それはつまり、この本を開くときが来たことを告げる合図だった。
私は彼に会う前に記憶を取り戻すことに決めた。ただページを開き、念じるだけで私は全てを思い出す。苦痛か、恐怖か…。私は静かに本を開き、念じ始めた。