魔女の愛した永遠【第三話】
湯浴みを終えた私は決して私を傷付けることのない炎によって髪を乾かし、白に黒いスパンコールで複雑な模様を描いたドレスに着替えた。
静かになったロビーへともう一度足を運ぶ。無残な男の死に様を、私の目で確かめなければならない。私のために散っていった瞬間を水晶越しに愛でるのだ。どれだけ儚くても、その力が及ばず死んで行く男どもは常に美しかった。
扉を開くと、私は驚愕で口を閉じることができなかった。愚かな男は死んでいた。肉片となり、床という床を血で汚しながら、最期まで抗ったのだろう様子が見て取れた。
だが、私が見たのはそれだけではなかった。獣たちの真ん中に、先ほどの男よりも上背があるのに細身で、書物に埋もれて過ごすのが似合いそうな別の男が立っている。そして獣たちは怪我の一つもなく、彼の足元で倒れ伏している。おそらく、気絶させられているのだと気付いた。
私は動揺したが、それをおくびにも出さず言った。
「来訪者様。私を狩りに来たの?それとも愛されに来たのかしら。」
「いいえ、貴女を愛しに来ました。」
なんと胸踊る響きだろう。続けて私はその男に問うた。
「彼らを眠らせたのは貴方?」
「ええ。扉が開いた時、彼らは男を食い散らかした後でした。男一人では足りず、私にまで牙を向けるので、急所を外して眠らせました。飼い主の貴女に申し訳ないことをしてしまいました。」
男、ということは肉片になった男と共に来たか、もしくはこの館に入っていく姿を見ていたのだろう。その上でこの場に足を踏み入れたのだ。私の頰が紅潮していくのが分かった。望むものが手に入るというのはこのような感覚なのだろうか。まるで思い人に当てた手紙を落としてしまい、それを当人に読まれてしまったかのような高揚感と不安に似ていた。もっとも、小説の中でしか見たことはないのだけれど。
だが、まだ安心はできない。彼がただの凄腕の狩人なのかもしれなかったから。過去にもそのような男は数人いた。私は首を振って答えた。
「いいえ、気にしないでください。彼らを正しく対処して頂き感謝致しますわ。」
「ありがとう。そのように言って頂けて非常に助かります。」
男は胸に手を当てお辞儀をした。
「良ければ貴女様のお名前を教えては頂けないだろうか。」
「私は魔女。それだけが真実であり、知っておくべき名前よ。」
「なるほど。愛しい魔女。それでは私も私が貴女を名前で呼ぶにふさわしい男になるまで、名は不要です。」
「愛しい人。では、そう呼ばせて頂くわ。」
私は自分の後ろを指し示し、男を呼んだ。
「愛しい人、良ければディナーをご一緒致しませんか。貴方のことをもっとよく知りたいのです。」
「あぁ、もちろんです、愛しい魔女。良ければ私に貴女をエスコートさせてください。」
そう言うと、男は雄鹿のように軽やかに階段を駆け上がり、私に右手を差し出した。
私は会釈をしてその手を取った。こんな素晴らしい夜が訪れるとは思いも寄らなかった。私はこれから起こるであろう物事を想像して胸をときめかせていた。