魔女の愛した永遠【第九話】
帰路に着くと思いがけない人が門の前に立っていた。
「愛しい魔女。お待たせして申し訳ありませんでした。」
そこには、花束を持った男が立っていた。何ヶ月も前に私の手で地面埋めてしまった男だ。
私は驚いた。驚きのあまり、従えていた土人形たちの呪いが解けて、品物をいくつかダメにしてしまったくらいだった。
「あぁ、愛しい人。生きていたのですね。」
「まだ私に貴女と時間を共有する資格はございますか?」
そう言って彼は私にバラを九十九の薔薇をあしらった花束を手渡した。私はそれを受け取り、そして右手を差し出して言った。
「もちろん。私も貴方を疑ってしまいました。許して頂けますか。」
彼は私の手を取り、手の甲にキスをした。
「私が待たせてしまったのがいけないのです。貴女の信頼と愛はあの炎によって証明されています。」
「ありがとう。貴方を愛しているわ。」
「私もです。愛しい魔女。」
そうして彼は私を抱き締めた。私はそれに応え、背中に手を回した。外で待っていたからか、その体は少し冷たかった。
「いけないわ。体が冷えてしまっている。暖かい料理を作るので、その間、私の試練を受けて頂けないかしら。」
「ええ。どのような試練ですか。」
少しだけ体を離し、説明する。
「貴方の肉体が永遠を生きるに足るものであることは分かったわ。でも、人の精神は崩れやすいもの。音のしない暗闇の中、貴方が耐え得るのかどうかを試させて頂きたいのです。」
彼は小首を傾げて聞いた。
「密室に入って待つということですか?」
「いいえ。もっと孤独を感じる場所ですわ。」
そう言うと正面玄関の扉が左右同時に開き、玄関ホールに黒雲でできた球状の物体が宙に浮いていた。
「音もしない、色もない、暑さや寒さもなく、地面を踏む感覚も自分がいるのかさえも分からない闇があの中に広がっております。あそこで食事ができるまでお待ち頂きたいのです。」
ただ、この中にいると通常よりも時間が長く感じられ、私がディナー用のドレスに着替えるまでの一時間で一年ほど過ごしたような気になるはずだった。
飢えと精神、どちらでも死なないことを確かめたかった。
崖から落ちた時と同じように、愛しい人は黒い塊の中へと迷わずに身を投じた。
「では暖かい食事ができるまで余興を楽しませて頂きます。」
そう言うと、彼は何もない空間に吸い込まれていった。