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小説:54歳マイクエで奇跡をみた【12】自分をだまし続ける人生なんてありうるだろうか?

【第一話冒険】はこちらから

54歳マイクエで奇跡をみた【登場人物】

シュン 主人公  54歳独身 サラリーマン
クトー 旅の仲間 小中学生のラグビーコーチ
アンリ 旅の仲間 心理カウンセラー
ホリアーティ 旅の仲間 占い師
ナスちゃん 旅の仲間 看護士
ニバミン 旅の仲間 ダイエット指導者
神林(株)ゴールデン•スパイラル 開発担当
千川部長 シュンの出向先の元上司
籠井先生 シュンの小学校の担任
平山先生 シュンの中学校の陸上部顧問
魂の指南役 正体不明
片次 シュンの描く漫画の主人公
もやい様 片次の旅仲間

【絶望】

『シュンさん、すごいじゃないですか?検索したら、LINEスタンプ見つかりましたよ。駅で販売されてるという絵はがき是非手にしたいです!』
グランドメッセージで仲間全員にこれまでの成果を掲載してみた。こんなに大々的に発表したのは初めてだったから、オーディションに参加したよう面持ちだった。夢を追う同じ志をもった仲間だけど、それでも他人だ。過去の経験から構えてしまう。しかし、不安は一瞬に消し飛んだ。反応は良かった!全員とは言わないが、好意的なコメントが多く寄せられた。それで十分すぎるほどだ。
ただやってきたことを承認してくれたおかげで、それを自分で素直に受け入れることができた。人生で全く何もしなかったわけじゃない。残してきたものはある。ワークの効果を実感できて、正直うれしい。そんなこともあり、平日の朝はただ予定に急かされて職場に出向くだけだが、今朝はちがう。気分も乗ってて、なんだか職場での時間も楽しい。うまく回っているし、順調そのもの。何か新しいことにチャレンジしよう。無縁だった海外旅行なんかを計画するのどうだろう。いい夢だ。そうださっそくパンフレットを手に入れよう。なんだかワクワクしてきた。

帰宅後、さらにワークをすすめるべくCDGをかけてみたが、楽しい将来に思いをはせてみた。とびっきり楽しい夢だ。輪郭がハッキリしてきたのは、フランス西海岸、モン・サン・ミッシェルだ。日本でも大人気の観光地。サン・マロ湾に浮かぶ島とそこにそびえる修道院でユネスコの世界遺産だ。巨大な皿に建物がデコレートされた姿は絵画そのものといっていい。橋を渡り近づいてみた。現地に行かなくても、CDGならイメージできるのだ。早く気づけばよかった。ゴールデンスパイラルの神林さんありがとう!島は多くの観光客で賑わっている。コカコーラの看板を見つけた。ええっ?一杯6ユーロ(約1000円)もするの?と驚いてしまった。でも一口飲んで感じる!この雰囲気でコスパ最高。さぁ修道院目指して歩くぞ!とコーラを飲みほしたが、足が進まない。何かが足に絡まっている。足元に目をやると、砂地に足がうまっていたのだ。陸地と島は遠浅の砂浜で、潮の流れが早い。8キロも流れるようだ。昔の巡礼者は命がけで渡ったらしい。現在は橋があり、潮の満ち引きに関係なく渡れるのだが、僕は何を思ったか、砂浜に降りてしまっているのだ。満ちる前にここから上がらないと。焦りが生まれる。すると、強い満ち潮が流れてきた。ヤバい状況だ。冷静に考えた。
何か不安が具現化してきたのではないか?臨場感はあるが、ここはオズウェイだ。実際に行った旅行先での楽しかった思い出をイメージした。すると、足元から海水は引き、頑丈な地面を感じることができた。
残念なことに島がずいぶん遠くなり、まるで美しいタペストリーのようになってしまった。

いや少し違う。本当に一枚もののタペストリーになってしまった。さらにタペストリーは四隅が突如燃えはじめた。島も修道院も炎に包まれ、崩れていった。
鼓動が早くなる。なんだ、この感じ。そこに姿を現したのは、あの小学校だった。僕は愕然とした。なぜ?慌てた!まだダメージは回復しきっていない。自信喪失になるのは、いつも調子いい時なのだ。でも大丈夫。ピンチはチャンス。真剣に構えない。マジメになりすぎるから、どはまりした分だけ、しんどいのだ。圧を下げる。
空間をボードに見立てて、「ドリーム・スクラップ」で埋めつくしてみた。カッコつけていうと、漫画やアニメでいうところの結界だ。だが、どうみても幼稚園や小学校の壁に貼られた行事の思い出写真をまとめたものだ。でも、僕にとっては気分があるものばかりだ。
空間はたちまちあたたかいエネルギーにつつまれる。力がみなぎってくる。大きく深呼吸した。深くゆっくり息を吐き出し、落ち着いて声を出した。
『出てきたらどうなんだ!』

魂の指南役が姿を見せた。
『ご主人さま。傷は癒えられたのでしょうか?ところで、何か御用すでしょうか?』
唖然とした。どういうことだ?
「驚かれることはないでしょう。ここはご主人様が思い描く世界。私が呼ばれたということは何かしらあってのことかと。」
ここ最近で一番幸せを感じているのに、なぜだ?
「無粋な詮索で申し上げるのは、いかがなものかと。ご主人様が描いておられる幸せにどこか不安を感じられていて、それが具現化したのでは?」
ピンチがチャンスを一度呟き、静かに目を閉じた。
小さいながらも掴んだ成功、大きな夢、旅の仲間のはげまし等ありったけの達成感や幸福感といった感情をさらに空間に投入した。空間中に隙間なく写し出された幸福のイメージが巨大ソーラシステムのようなエネルギー板へ変わった。自分にこんな力があるとはびっくりだ。例え、どんなに小さなものだったとしても、それを誰かと比べて卑屈になることもない。自分にとっての成功だ。胸を張れ!自分に言い聞かせる。
ここで悪夢は終わらせるのだ。ワークを通じて生まれかったのだ。そう自分にしっかり言い聞かせると、360度に敷き詰められた全パネルが真っ白に輝きはじめた。僕は右腕を高く掲げ、人差し指を延ばす。そして、振り下ろした。一斉に魂の指南役に照射した。
しかし、魂の指南役も全方位にバリアらしきものを張り巡らし、攻撃を防いでるのが分かる。直撃ではやられてしまうのだろう。ヤツも、というか不安は圧倒的な幸福の前では叶わないのだろう。僕は魂の成長を感じた。千川部長、平山先生、そして転職に成功した自分。感謝そして誇り。それで大きく前進だ。圧を上げる。そのバリアも少しずつ、縮んで行く。あきらかに押している。デジタルな表情にヤツの苦悶の表情が見える。さらに僕は空間を見渡す。叶えたい未来の映像で気分もぐんとよくなる。攻撃のパワーはさらにあがる。魂の指南役のバリアはほとんど、バリアの効果がないほど範囲が縮んでいる。

「…そつき」

何か聞こえたと同時に僕は足にするどい痛みを感じた。太ももが裂け、血が流れている。
激痛に叫び声をあげた。また「ウソつき!ウソつき!」と聞こえたかと思うとどこからか、鋭いものが切りつけてくる。苦痛を感じたせいだろうか、灼熱エネルギーの攻撃は出力が弱っているように思える。
空間を取り囲む映像も色彩を失うものも出てきた。
「ご主人様」
魂の指南役が呼びかけてくる。
「その痛み、ご記憶にありませんか?」
コイツは何をいってるんだ?
「ご主人様のエネルギーはすさまじかった。しかし、どんなにまとめ上げても、私にとどめを刺すには、弱すぎます。」
??
「さらに言うとご主人様を攻撃したのは、私ではありません。」
「御託はいい!」激痛の中、僕は叫んだ。
「あなた自身が攻撃したのです。」
何がいいたい、歯をくいしばって尋ねた。
「あなたの達成したことは、陸上であれば平山先生の期待に応えるための一心、出向先の千川部長のときもそうです。もっといえば、無条件であなたという存在を受けいれてくれる人と一緒にいたかった。甘える代わりに、部活や仕事に打ち込んだのです。あなたが自分のために心の底から情熱を打ち込んだものではなかった。」
「それが証拠に高校では陸上競技部には入らず、仕事も出向終えた後にしばらくして退職。」
言ってる意味がわかってきた。自分のためではなく、他人の人生の中に自身の価値を見出し投影しようとしてきたのだということ。だからなんだ?また声だ。
「ウソつき」自分の声だ。ようやくわかった。僕は自分に嘘をついて生きてきた。本当は陸上ではなく、絵を描きたかった。部長と過ごした二年は充実したが、嫌いな職種であることには変わりがなかった。僕はずっと自分の感情を押し止めて生きてきた。だから、ウソつきなのだ。空間を埋めた成果や楽しい出来事。その大半がウソだと僕に抗議しているのだ。
「先を続けましょう。」と魂の指南役。
「ブログでの漫画発表。これは本当にもったいない。1500本も描いたというのに、あなた自身が楽しむためのものではなかった。無条件で自分を受け入れてくれる人を探す行為、もっと分かりやすくいうならSOS信号でした。そこから仕事にもつながりましたが、継続的なものではなく、ご主人様を無条件に受け入れるものではありませんでした。似顔絵を頼まれて描き終わったそんな感じでしょう。幼き日のあなた様が友人を求めて、無惨な結果に終わったのと何ひとつ変わることがないと、心底で感じながら生きているではありませんか?」
さらに何かが切りつけてきた。明らかに子供の声で「ウソつき!ウソつき!ウソつき!」だ。
バカな、、、自分が自分をだまし続ける人生なんてありうるだろうか?でも、これは第三者がボクを分析して語っているのではない。ボク自信が冷静に恐ろしくも残酷なほどに語っているのだ。

魂の指南役は続けた。
「となると、そんなご主人様の目に他人はどう映ったことでしょう。誰かに依存せず、仲間と協力し、自分の人生を生きる姿、それはそれはまぶしすぎたでしょう。冒険のお仲間のクトー様に見たものは、まさにそれでした。ご主人様と違い生き生きと過ごされた高校、大学時代。歳を重ね、逆境の中でも笑顔を忘れず、好きなことに関わり続けている。そこには、ご主人様の理想の人生がありましたが、ご自分の行動はごまかされてきました。」
「だ、、、黙れ!」
「ご主人様は誰かの敷いた道なら誤ったとしても誰かのせいと言い訳ができる。それがご自分を傷つけていることにお気づきになられていない。」
「黙れ!だまれ!」
「自分を偽って生きている。そして今でもそんな生き方を呪っていらっしゃるのでは?」
「黙れ!」
激痛で思考できなくなっている。アイツを黙らせるのだ。足掻くんだ。道はある!幸福なことや希望、未来を考えるんだ。ここはボクのイメージの世界。オズウェイ。何か考えろ!思考停止になるな。何も浮かばない。魂の指南役は追い討ちをかけてくる。
「ご主人様、あなたは本当の意味で自分を理解してらっしゃらない。いえ、傷つかずにこれた人生を顧みてもいない。とりあえずの安心を選ぶ。ご自身のことを愛されたことがおありですか?」
自分が自分を愛してないだと、休み休みに言え。しかし、この痛みはその代償とでもいうのか?気がつくと、エネルギー砲の照射標的が自分に向いてる。僕はまたしても呪いの前になす術なく、屈指しようとしている。

夢や理想までがこちらに反旗を翻している。未来の仲間とあげる歓声、楽しそう街のざわめきにノイズが加わっていく。やがて一つの音にまとまっていく。ウソつき、ウソつき、ウソつきと。夢を描いてもどうせ自分には叶えることができないと思っている。理想を掲げても現在との歴然とした差があり埋められるはずも、術もないことだとわかりきっている。皮膚の表面にうっすら浮かぶ血管が文字のように見えてくる。「あきらめ」だ。だめだ。他の考えに焦点を合わせられない。過去の自分、ネガティブな考えを変えるために冒険に出たのだ。未来は変えられるはずだ。未来は素晴らしい。
それが限界だった。「絶望」の2文字が心に刻印された瞬間、凄まじいエネルギーの全放射を僕は浴びた。

《つづく》


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