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世界が音で満ちてた

そうやって音楽ばっか聴くのやめろよ、と後輩からたびたび注意されたものだった。
車に気づかず事故に遭うかもしれないし、難聴になるかもしれない。
どんなリスクを説かれても、歩きながら、あるいは乗り物の中で、音楽を聴くのが好きでやめられなかった。
雑音を遮断し、脳内で響くお気に入りの曲をリピートするためだけに旅に出たいと思うほどだった。
「イヤホンないとどう?物足りない?」
「世界が音で満ちてた」
「中二かよ」
「違うよ、新鮮だった」
いつもイヤホンでシャットアウトしていたので、耳からの情報を取捨選択するのが下手なんだろうと思う。
「今まで、耳ふさいで生きてきてたんだなって実感した」
「死ぬ時、最後まで生きてるのって聴覚らしいよ」

『スモール ワールズ』 一穂ミチ

最終章の「式日」から

素晴らしい連作小説。めちゃめちゃおもしろかった。
全部の話がよかったけれど、特に最後の「式日」の”先輩”の
音楽をリピートするためだけに旅に出たいほどだった 
っていうところは自分みたいだった。

私も娘にヘッドホンしていると言われる。
耳が悪くなるからやめたら って。

平日休みの午前中

風 葉っぱや木に擦れる音 いろんな角度から いろんな強さで
鳥 何種類も いろんな角度から いろんな音の高さで
足音
玄関の音
冷蔵庫の音
キーボードの音

音楽を消すといろんな音がする。
ここはいい場所だと思う。

お天気のよい休日に家中の窓やサッシを開け放って、
テーブルに座って、誰にの目も気にせず作業ができる環境。

でも10年後はここに住めるんだろうか
新たに引っ越してくる人もいなくて、ここはいずれなくなっちゃうんじゃないかと思う。
心細くはなる。

子どもたちがそれぞれ外に出ていき
両親がそれぞれいってしまったら
私はこの町にいなくてもいいのだが

それにしても、ここの自然は大好き。

仕事もそうだけど
この先、最後にどこで今みたいに心地よく誰と生きるか

本来だったらもう全部手に入れてもいい年頃なのだろうけど
私は何も持ってないので
子どもたちが大きくなってきたのを機に
今後の仕事と終の棲家と今後いっしょにいる人たちのことを少し考える。
わくわくしないでもない。

最後は音楽と旅があったらいいなと
結局ヘッドホンをしながらそんなことを考える。

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