見出し画像

「あたり前」の疑い方

【はじめに~当たり前を疑う「職業的懐疑心」を発揮して企業価値向上を】

「これが本当にベストなんだろうか?もっとよい方法はないんだろうか?」
当たり前のことをあえて疑ってかかる、って人間なかなか難しいものですよね。”当たり前”には先入観や固定観念も含みます。視点はとかく慣れきっているものに固定されがちですし、たとえ頭では分かっていても思い切って変えるにはエネルギーやストレスを要します。しかし、何が起こるか分からない、まさかまさかのVUCA時代下の経営や事業オペレーションにおいては「守りながら成長し続ける」、双方の観点から実は必須の姿勢なのです。

1.「今のままでもおっきな問題起きてないから別にいいじゃん」
2.「変えるの正直メンドウ。。。慣れたやり方がいい。。。」
3.「どうやったらいいの?How??」

の声がビジネス現場では多く聞かれます。

1については、まず大問題でないからOKという誤解。これは小さい傷をほっとくと窓割れにつながる「窓割れ理論*」でよくお答えしてきているところです。もう一つの誤解として、そもそも問題が起きてないからOK、ではない点です。現状維持は衰退です。より効率的な経営を確保しROE/ROICなどの経営指標を改善し、株主価値を向上し続けるにはどうすればよいのか。このトリガーとして「これまでの当たり前を疑う」視座が必要となるのです。これは守り系とは対の「成長し続け、企業価値を向上し続ける」ための視点です。成長し続けるとは、EPS(一株当たりの当期純利益)の成長がアナリストのコンセンサス(予想平均)を超え続けるレベルです。

2については、人間は本来楽をしたく易きに流れる生き物なので、変革への抵抗勢力はどの組織にも発生します。客観的メリットとマインドゾーン転換(Stepping out of the Square)の刺激を提供し続けることが一つの解決策となるでしょう。例えば「これってそもそも何目的でやっている?」「これX部署と重複してて無駄だから、カットしてこうAと連携したらこれだけ早く正確にできるし、生産性も上がりますよ」みたく。

3について、チェック(監査)する側の視点にフォーカスする形となってしまいますが、今回新たな視点を提供し強化の一助となればと整理してみました。金融庁が監査法人を検査した指摘事例集**から、関心度の高い事例を厳選し、具体的にどう頭を使ったら、の観点からコメントを付してご紹介します。皆さんの様々なご判断の参考になれば幸いです。

【ケース1】
会社における飲料の自動販売機による売上について、売上を過大計上する動機はあると評価しているものの、多額の不正を行うためには少額の現金売上取引を多数計上する必要があり、不正の実行が困難であること等を理由に、不正による重要なリスクを識別していない。しかし、経営者による財務データの改ざんの可能性を考慮していないなど、自動販売機売上計上に関する不正による重要な虚偽表示リスクについて十分な検討を行っていない。

あるある。額小さ過ぎて相当何回もしないと得にならないから普通やらないよね、だからこれはいいよね、としてしまい見逃すケース。4大監査法人で起こった事例です。やる人はやるし、想像を絶する犯罪者って存在します。抜け道はないか、データ自体に信頼性は十分あるかなど、トコトン脳の網を張り巡らせてリスク評価に漏れがないようにトライしましょう!ほんの小さな努力が大きな不正を防ぐことにつながったりします。私は常に自分を疑っています、心折れない程度に笑

【ケース2】
経営者による内部統制の無効化に対応する監査手続として仕訳テストを実施しているが、自動仕分けについては不正の余地が小さいと考え、手入力仕訳を検証対象としている。しかし被監査会社が業務システムに登録されているデータを修正することによって自動仕訳を起票していることを認識していながら、仕訳テストの対象から自動仕訳を除外することの妥当性について検討していない。

「機械/システム統制だからリスクないでしょ、人間絡んでないから大丈夫!」って陥るパターン。いやいや、プロセスの全体像やPCスクリーンの裏側にいる人間の存在にも思いを至らせましょう。落とし穴としてシステムやAIに入れるデータの選択・修正を人間がやっている、そしてそこに間違いが起こることがあります。監査実施の過程において、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別した場合(変な犬がいる)には、不正による重要な虚偽表示の疑義が存在していないかを判断するために、経営者(部門責任者や拠点長)に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続きを実施し、十分かつ適切な監査証拠を入手する必要があります。

【ケース3】
得意先から発注を受けた商品について、当該商品とは関係がない事業を営む、被監査会社代表取締役社長の個人所有会社A社に発注している。また、A社は、当該発注を受け、当該商品を取り扱う、被監査会社代表取締役社長の個人所有会社B社に発注している。しかし、被監査会社がB社に直接発注するのではなく、A社を介することの合理性を検討していない。また、被監査会社とA社との間の、具体的な取引条件を把握していない。

「代表・役員がやっている取引だからいいよね、大丈夫だよね」という聖域にするのではなく「信頼しますが検証も」しましょう。英語で「Trust but Verify」といい、グローバル企業では良く触れられる言葉です。関連当事者との取引は、第三者との取引(サードパーティリスク)よりも財務諸表の重要な虚偽表示リスクが高くなります。取引条件が経営者の説明と整合しているか等について慎重に検討する必要があります。また、全般に言えることですが、被監査部門が作成した資料(ここでは例えば、"関連当事者一覧表.xlsx")も、その入手をもって十分な監査証拠を入手したと考え、その資料作成のプロセスを理解していないケースもありますのでゆめゆめご注意を。「監査に要求されたからチャチャっと作ってしのいだ」「この数字ちょっとマズいから変えて出そう」の観点でじっと見てみて下さい。関連当事者関係は筆者が取締役として上場審査を受けたときにかなり厳しく問われた点でも印象深いです。利益相反の視点も日々頻発するわけでないのでとかく意識薄れがちです。テールリスク(確率は低いが発生すると非常に巨大な損失をもたらすリスク)の一つとしてぜひ心に留め置いておきましょう!!

【むすび】
三様監査(監査役、会計監査人、内部監査)の相互連携は、監査の効率化と品質向上、コーポレートガバナンスの観点から重要であり、更なる連携が望まれています。一人一人が見る目を養って監査側として強く育ち、すばらしい経営をしっかり支えていきましょう!


【出典/参考】
*割れ窓理論とビジネス心理学
https://biz-shinri.com/dictionary/broken-windows-theory

**「監査事務所検査結果事例集(令和3事務年度版)」https://www.fsa.go.jp/cpaaob/shinsakensa/kouhyou/20210709/2021_jireisyu.pdf

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?