カタールW杯ヨーロッパ予選観戦メモ【第6節】
視聴期限ギリギリだった!危な。
アイスランド×ドイツ
フリック体制になってからここまでの2試合では盤石のパフォーマンスで連勝を飾ったドイツ。9月シリーズ最後の試合はアイスランドのホームに乗り込んだ。
立ち上がりからドイツはいつも通りにホフマンを上げて可変3バック。キミッヒがアンカー気味になってひし形を作ることもあれば、ゴレツカと並んで3-2の形でビルドアップをすることもあった。
一方のアイスランドも前節の北マケドニア戦と同じく4-1-4-1から一人出ていって4-4-2でミドルゾーンからプレッシャーをかけていく。形としてはキミッヒに対してIHのどちらかが出ていき、右WGのグズムンドソンがケーラーに対して出ていくことが多かった。
しかし、ノイアーも含めたドイツのビルドアップ隊を2人で止めるのは難しく、撤退して4-5-1で構える形が多くなっていく。そして、撤退した相手に対するドイツの振る舞いは一級品。幅、高さ、間を使って守備ブロックを揺さぶることにかけてはこのグループはもちろん世界でも指折りのチームである。
この試合でもアイスランドが4-5-1で中盤の5レーンを埋めていてCBに時間があると見るやCBからの長いボールを多用。大外に開いたサネや裏を狙うヴェルナーを使ってアイスランドの守備網を広げにかかった。この試合では長いボールを使って早々に先制して余裕ができたこともあり、広げたアイスランド守備陣の間に積極的に縦パスを入れて揺さぶりをかけていた。
アイスランドとしては自陣で耐えてドイツを引き込んでからカウンターで裏返すというプランだったのかもしれないが、ドイツのボール保持におけるクオリティが想像以上に高く耐え切れなかったのが誤算のように感じた。
自陣に撤退して守るとボールを奪う位置が低く苦しい展開にはなるのだが、この日のアイスランドは簡単にボールを離さず繋ぐ姿勢を見せた。ドイツはボールを失った後に前線の選手が密集して奪い返しに来るため、それを外してカウンターを仕掛けられればチャンスになる。アイスランドの選手たちはそれを分かってリスクを承知で自陣から繋ぎに行っているように見えた。
もちろんそれで奪われてピンチを招くこともあるのだが、成功してチャンスを作れる場面もちらほらあった。48分にグズムンドソンのシュートがポストを叩いたシーンはその最たるもの。低い位置で構えて耐えることでドイツを自陣に引き込んでカウンタープレスを外し、アタッカーをスピードに乗った状態でDFラインと対峙させるのがこの日のアイスランドの狙いだったのだろう。カウンタープレスを外してチャンスを作れるというのは当たっていたが、その前提である自陣に引き込んで耐えるということができなかった。
とにかくボールを持っているときのドイツは常に最善手を選び続けてくる、というのがここまでの3試合を通しての印象。4-4-2でやりたい放題されたアルメニアはさておき、アイスランドとリヒテンシュタインの守備ブロックののクオリティは決して低くなかったように思うが、ほとんどチャンスを作れないまま敗れることになった。
ドイツのビルドアップ隊は生半可なプレッシャーではロングボールでの逃げを選択させることもままならないし、かといって撤退して時間を与えれば長短のパスで守備ブロックを揺さぶられて崩されてしまう。
おそらくドイツに一泡吹かせるならば死なばもろとものプレッシングでビルドアップをさせないかボールを取り上げるかしてドイツのボール保持の時間を削るしかないのかな、と感じた。この辺は昨今のJ1における川崎をどうやって倒すか問題に通ずるところがあるかもしれない。
前の2戦に引き続きボール保持で圧倒的なクオリティを見せたドイツはW杯ストレートインに向けて視界良好。敗れたアイスランドは2位との差が7ポイント。プレーオフ行きも相当怪しい状況に追い込まれてしまった。
気になった選手
ティモ・ヴェルナー(ドイツ)
決定力不足をネタにされることの多いドイツ不動の1トップ。この試合でもまあよく外していた。88分に決めた得点もGKに当ててしまっていて危ういところだった。
逆に言えばそれだけ決定機が得られる場所に立っているとも言えるし、そもそも点が取れなくても起用され続けるだけの働きをしているとも言える。裏抜けと降りる動きでボールを引き出し続け、ファーストディフェンダーとしての働きもサボらない彼あってこそのドイツのボール保持なのだろう。
試合結果
FIFAワールドカップ・ヨーロッパ予選
グループJ 第6節
アイスランド0-4ドイツ
@ラウガルタルスヴェルル
【得点者】
ドイツ:4' ニャブリ、22' リュディガー、56' サネ、88' ヴェルナー
北マケドニア×ルーマニア
プレーオフ出場権を争う両チームの直接対決は、やはりと言うべきか北マケドニアがボールを保持する展開となった。
序盤は北マケドニアが右SBのリストフスキを上げて3バックとしつつ、左サイドのアリオスキを起点に前進を試みる。アリオスキが持ち上がってルーマニアのWGを引き付け、その裏にチュルリノフやバルディが流れていく形で前進。さらに中盤からはアリオスキを上げてボランチを落とした3バックも併用。バルディの列落ちも合わせ、ルーマニア守備陣に揺さぶりをかける。
これまでの試合と同様にボール前進はうまくいっていた北マケドニアだが、そこから先で手詰まりとなるのも相変わらず。特に前半はビルドアップが左サイド中心だったため違いを生み出せるエルマスが消えがちに。右サイドにボールが来ても中央に入って大外のリストフスキにスペースを与えるくらいしか仕事がなかった。もっともこれはルーマニアがうまくケアしていたとも言えるかもしれないが。
また、2CB+誰かの3バック形成がうまくいかず、最終ラインの距離感が近すぎるような場面も見られた。時間がたつにつれて皆前に出るタイミングが早くなり、ルーマニアのプレッシャーに捕まる場面もちらほら。前半ゴールに近かったのはむしろルーマニアという印象すらあった。
ということで後半からはエルマスを活かす形に変更。リストフスキではなくエルマスが大外に張り、左サイドで前進してからエルマスのアイソレーションで突破を図る。北マケドニアで最も個人能力での突破ができる選手がドリブルで仕掛けられる形となり、この変更はてきめんに効いていた。
形としては完全に北マケドニア優勢で、決まってもおかしくないシュートも何本かあったが、ルーマニアにすんでのところで守られてしまった。ルーマニアはこの辺が偉くて、何とかして凌ぐ必要があるところでは全員が体を張ることができる。傑出した選手はいないが、全員が戦えるソリッドなチームであることが今この順位にいる要因だろう。
北マケドニアは191cmのヤホビッチを投入してゴール前の圧力を強めに行くが、終盤になるにつれ間延びして速い展開が増えてしまい、その長身を活かす場面は作れず。両チーム勝ち点1を分け合う結果となった。
気になった選手
エズジャン・アリオスキ(北マケドニア)
最終ラインでビルドアップの起点になったかと思えば1分後には相手陣地を深くまでえぐってクロスを上げている、タフで器用な左SB。ビルドアップ隊とチャンスメーカー隊の両方でプレーできる選手がSBにいるというのはボール保持型のチームにとって貴重だろう。
彼とバルディが行き来してビルドアップを助け、エルマスの個人能力で突破という後半の形はこの3試合でもっとも理に適っていたと思う。あとはクロスを叩き込めるエースストライカーがいれば良いのだが……
試合結果
FIFAワールドカップ・ヨーロッパ予選
グループJ 第6節
北マケドニア0-0ルーマニア
@トシェ・プロエスキ・アレナ
【得点者】なし
アルメニア×リヒテンシュタイン
前節ドイツに6-0の大敗を喫したアルメニアは未だ勝ち点0のリヒテンシュタインをホームに迎えた。ライバルに粉砕された悪い雰囲気を断ち切るためにも確実に勝ち点3が欲しいところ。
リヒテンシュタインは過去2試合と同様に5-3-2撤退からスタート。見始めた初戦がドイツだったので特例かと思ったが、どうやら自陣引きこもりが基本スタイルらしい。
というわけで自然とボールを持てたアルメニアはSBを上げた。そこまでは普通なのだが、IHのバルセグヤンとバイラミアンが大外に開いて仕掛け出したのが意外だった。
アルメニアはこの2人のドリブルでWBを引き出し、カバーに来たCBの裏に2トップを走らせるパターンを多用。また、サイドをえぐってから切り替えしたりSBに戻してのクロスもよく使っていた。3センターを揺さぶって疲弊させようみたいなことはあまり考えていないようで、基本的には同サイドを突破しようと頑張っている感じ。
どちらかといえばパワーで押すスタイルなのだが、バルセグヤンとバイラミアンのドリブルは威力が高いので割と普通に効いていた。何とか凌いでいたリヒテンだったが前半終了間際にCBの裏を突いたムヒタリアンを倒しPK献上。アルメニアとしては立ち上がりから狙っていた形で一つの成果を出したと言える。
一点ビハインドで後半に入ったリヒテンだが、このチームはそう簡単には前に出てこない。引き続きアルメニアにボールを渡し、自陣での撤退を継続した。ドイツ戦に比べればボール保持者に圧力はかけているが、ロングカウンターの手段に乏しいのは変わらない。特に交対策で前からの圧力を強めるとかもやらないのでこのまま終わりかなと思っていた80分、自陣深くで奪ったリヒテンがアルメニアのカウンタープレスを外してするすると前進し、ミドルのこぼれ球をノア・フリックが詰めて同点とした。
なんとも再現性のなさそうなゴールだが……アルメニアにとっては痛すぎる一撃。カウンターで前進されているのに戻りが遅く、バイタルからフリーでのミドルシュートを許してしまった。ドイツ戦の入りといい、どこか緩いところが抜けないチームという印象。
結局このまま1-1で終了。アルメニアは後々響いてきそうな痛い引き分け。リヒテンシュタインは初の勝ち点を獲得したが、ボール保持率21%、シュート3本と押し込まれっぱなしのスタッツは相変わらず。もう突破は不可能だろうが、この予選から何かを持ち帰ることができるのだろうか。
気になった選手
ティグラン・バルセグヤン(アルメニア)
右サイドからドリブルで仕掛けまくってリヒテンのWBとCBを引き付け、ボール保持で存在感を放った。アルメニアの前線はみんなでかくて上手いし早い。割とゴリ押し気味だったこの試合の手法が通用するのは彼のようなアタッカーがいるという要素が大きいだろう。
逆に言えば多少ポカがあってもそれで何とかなってきたからどこか緩い雰囲気が残ったままなのかもしれないが……
試合結果
FIFAワールドカップ・ヨーロッパ予選
グループJ 第6節
アルメニア1-1リヒテンシュタイン
@レプブリカン・スタジアム
【得点者】
アルメニア:45+5' ムヒタリアン
リヒテンシュタイン:80' N. フリック
今節を終えての順位表はこちら。