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第61回 年末の出来事
12月初め、香子は物語完成の労をねぎらわれ、一旦堤邸に戻りました。賢子も10歳になっていて、少し大人びていました。
「もう疲れた。本当に今は物語を書きたくないわ」
父や弟にそういう香子の本心でした。
12月29日、香子は中宮彰子のもとに帰参しました。小少将の君のいない局で香子は一人寂しく思いました。
「そう。ちょうど三年前の事だったわ。東三条殿に初出仕したのは」
この三年間がとても慌ただしく思い出され、香子は何か空しくなり歌を詠みました。
「年暮れて わがよふけゆく風の音に こころのうちのすさまじきかな」
ー今年も暮れて私は齢(とし)を取ってゆく。心が寒々としていくようだーと我ながらぞっとするような独り言の歌を詠んだものだと香子は思いました。深夜、蔀戸(しとみど)を少し開けて夜空を見ると、子供の頃見た流れ星がさっと一瞬見えました。
翌日の大晦日、追儺(ついなー豆まき)も終わって、さあ寝ようという時の事でした。
「大変、賊が入りました!」
そんな声が響きました。(続く)