第147回 競の仕返し
平家方に一人残っていた渡辺競(きおう)には目論見がありました。
主人・源仲綱が苦しまされた仇を討とうとしたのでした。
宗盛には白葦毛(あしげ)の煖廷(なんりょう)という名馬がありました。
『こんな名馬がありながら、また人の名馬も所望されるとは・・・』
つくづく宗盛の狭量を競は思いました。宗盛にうまく言って煖廷を借り受け、その夜、妻子を逃がして自邸を焼き、園城寺へ向かいました。
園城寺の頼政らは、一人平家に残る形となった競を案じていました。
しかし夜遅くに競はやってきて、
「仲綱様の木の下の代わりに、宗盛秘蔵の煖廷を取って参りました。これを仲綱様に差し上げます」と言いました。
仲綱はじめ頼政ら一党は大喜びで喝采が起こりました。
そして早速に名馬煖廷の尻尾とたてがみを切り、尻に焼き印をして翌日の夜にこっそりと六波羅の宗盛の邸の中へ追い入れました。
煖廷は馬小屋に入り、他の馬と喰いあって騒ぐので、舎人がびっくりして、
「煖廷が戻って参りました!」と報告しました。
宗盛が急いで庭へ出て見てみると、
「宗盛入道」という焼き印がしておりました。
「入道(出家)せよということか!」宗盛はさすがに怒り狂いました。
「競を生け捕りにして鋸(のこぎり)引きにせよ!」(続く)