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第140回 仲綱の嘆きと頼政の翻意。

源仲綱は、平宗盛の要求に対して、「今日は馬を別の所にやってまして」とか「少し馬の調子が悪くて」など理由をつけて、木の下を渡そうとはしませんでしたが、宗盛の要請は更に激しくなり、ついに父頼政の耳に入り、説得してようやく木の下を献上する事にしました。頼政にはやはり清盛に従三位を叙して貰ったという負い目がありました。

仲綱は恋しい愛馬を思って、歌を六波羅に遣わしました。
「こひしくはきてもみよかし身にそへるかげをばいかがはなちやるべき」-恋しければそちらから来てでも見るがよい。我が身にぴったり寄り添っている影のように大切な鹿毛の馬を。

宗盛は増長していました。そしてこの歌を見て立腹しました。仲綱が渋った腹いせに、馬の尻に「仲綱」という焼き印を押して、客人たちに「仲綱、仲綱」と鞭を打って嘲弄(ちょうろう)したのでした。
仲綱の耳にすぐそれは入り、父頼政の元で悔し涙を流しました。
「父上、悔しうございます。私めが何を悪い事をしたというのでしょうか」
仲綱はおいおいと床に頭を臥して号泣しました。
「おのれ、平家め。我らが何もできぬと思うてか」
泣く息子を見て、頼政は激怒してきました。(続く)

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