【ビジネス教養としての簿記・会計(第2回)】サイバーエージェント社の事業投資は失敗した!?-のれんの発生とのれんの減損
株式会社サイバーエージェントは、2024年1月31日付で2024年9月期第1四半期を発表しました。売上高は前年同期と比べて15.2%増の1930億でしたが、四半期純利益(純損失)は約2億円(親会社帰属分は4.72億の純損失)の赤字となっています【図1】。
サイバーエージェント社と言えば、メディア事業やゲーム事業を始め、多彩なビジネスを展開している企業です。僕たちの日常生活との接点も少なくありません。
例えば、ブログを2000年代から始めた方は、アメーバブログをご存知かと思います。同ブログサービスもサイバーエージェント社のプロダクトです。
近年では、新しい未来のテレビ「ABEMA」や、2021年にリリースされた「ウマ娘 プリティーダービー」の大ヒットが広く知られているように思います。
今期に赤字転落した大きな要因が、特別損失として計上されている35.56億円です。この特別損失のうち33.76億円は、株式会社リアルゲイトの買収に伴い発生した「のれん」の減損損失となっています(株式会社サイバーエージェント2023 年 12 月 29 日)。
今期の決算において、33.76億円の特別損失が計上されなければ、赤字を回避できたことになります。しかし、実際には減損損失として巨額の費用を計上することになってしまったわけです。端的に言えば、33.76円の損失は、事業投資の短期的な失敗に起因するものです。
サイバーエージェント社は、2021 年 7 月 1 日付で不動産業を営む株式会社リアルゲイトを子会社化しています。同社の発行株式数の65.7%を取得することで、不動産領域への事業進出を目論んでいました。
企業が他の企業を買収する場合、一般的な事業用資産の購入と同じように時価(≒上場企業の場合は発行株式数×株式時価)で買収します。収益性が高く、ビジネスモデルが優れた企業ほど、企業が保有している帳簿上の資産価額と比べて、企業の時価が高くなることは想像しやすいと思います。
企業の時価と帳簿上の資産価額の差が「のれん」と呼ばれる概念であり、簡単に言えば企業のブランド的価値のようなものです【図2右側】。
子会社の買収で発生したのれんは、親会社では無形固定資産として計上されます。無形固定資産とは、建物や備品のように物理的な形を有する資産(有形固定資産)とは異なりますが、収益の獲得に貢献するという意味において、資産の定義を満たすものです。
代表的な無形固定資産として、のれんの他にも、特許権や借地権などの法律上の権利、あるいはソフトウエアを挙げることができます。
のれんという資産がもたらす収益が、当初の見積もり通りに獲得できれば問題はありません。しかし、期待される収益が当初の見積もりよりも大幅に低下した場合には、収益性の低下に伴う損失を、来期以降に繰り延べるのではなく、当期に認識しなければなりません。この損失こそが減損損失です【図2左側】。
減損損失が発生すると、特別損失として経常利益から差し引かれることになります【図3】。もし仮に、経常利益以上に減損損失が発生していた場合には当期純損失(赤字)となり、株主利益が棄損されることになります。
減損が生じるということは、当該資産(企業)の購入(買収)にあたり、当初に見積もった事業投資の回収可能価額に関する重大な見落としがあったことに他なりません。減損損失の発生は、ある意味で事業投資の短期的な失敗を表しているのです。
サイバーエージェント社が買収した株式会社リアルゲイトののれんは、当初の見積もりよりも収益性が低下し、投資額の回収が困難になったことで、33億円の減損損失を発生させました。
このような減損損失の発生は、経営陣による経営戦略が、短期的には目論見通りにいかなかったことを示唆する傍証ともいえるのです。
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