見出し画像

オンワード株急落💧バーゲンセールか、それとも……

 株式会社オンワードホールディングスは、7月4日付で2025年2月期第1四半期決算を発表しました。この決算の結果を受けて、株価が大きく急落しています。
 しかしながら、同社は通期の連結業績を上方修正しており、同日に発表された月次売上高などの情報を踏まえると、今後の業績の見通しは明るく積極的な投資が検討できると考えています。

(参考資料)2025年2月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
(参考資料)2024 年6月度月次売上概況

2025年2月期第1四半期の連結経営成績概要

 2025年2月期第1四半期(2024年3月1日~2024年5月31日)の連結経営成績は以下の通りでした。

 連結売上高は51,376百万円と、前年同期比で2.9%増加しました。主要ブランドであるKASHIYAMA、UNFILO、23区、J.PRESSなどの売上が好調で、特にUNFILOは前年同期比74.2%増と、大きく成長しています。
 
 一方、営業利益は5,074百万円と、前年同期比で5.7%減少しました。ただし、経常利益は5,195百万円と、前年同期比で6.9%増加しました。
 また、親会社株主に帰属する四半期純利益は4,019百万円と、前年同期比で20.1%と大幅に増加しました。
 営業利益率は前年同期の10.78%に対して当四半期は 9.88%0.90ポイント低下しています。それぞれの変動理由については後述します。
 
 なお、持分法による投資利益の計上等により、期初に策定した通期業績予想を上回ると判断され、第2四半期累計期間および通期の連結業績予想を上方修正しています。
 修正後通期予想に対する第1四半期の進捗率は、売上高で25.7%営業利益で40.6%、親会社株主に帰属する当期純利益で48.72%です。

 第1四半期という早い段階での上方修正は、年度初めの業績が想定以上に好調だったことを示しています。これは通期の見通しに対してポジティブな兆候と言えるかもしれません。実際、会計期間早期の業績予想修正は、その後の実績との相関が高いことを示唆するエビデンスがあります。

●Managerial Horizon and the Choice for Insiders to Sell Their Shares When Making a Management Forecast" (Cheng and Lo, 2006, Journal of Accounting, Auditing & Finance)
●Management Earnings Forecasts: A Review and Framework" (Hirst et al., 2008, Accounting Horizons)
●Management Forecasts in Japan: An Empirical Study of Forecasts that Are Effectively Mandated The Accounting Review (2009) 84 (5): 1575–1606.

経営成績の変動要因に関する分析

 売上高の成長要因として、季節動向に応じた新規企画商品の好調な販売OMOサービス「クリック&トライ」の利用拡大を挙げることができます。一方で、営業利益率の低下は、商品在庫水準の適正化による売上総利益率の低下に起因するものと考えられます。
 
 売上高の増加要因は月次売上高概況が参考となります。3月から5月にかけて、既存店売上高が前年を上回って推移しており、インバウンド需要も引き続き取り込んでいる様相が伺えます。

 特筆すべきは、2024年6月の売上高であり、既存店ベースで前年同月比110.4%全店ベースで前年同月比111.4%と、2桁成長を達成しています。これは第1四半期(3-5月)の平均成長率を上回っており、好調な売上トレンドが継続していることを示しています。
 
 第1四半期の好調な業績に加え、6月の月次売上も前年を大きく上回っていることから、上方修正された第2四半期累計期間および通期の業績予想達成の可能性は高いといえるかもしれません。
 
 一方で、営業利益率の低下は、株価にとってnegative要因であり、本日の株価急落要因と言えそうです。とはいえ、営業利益率の低下は、計画的であった可能性を指摘できます。

 決算短信において、「商品在庫水準の適正化を計画的に進めた結果、売上総利益率は低下しました」と記載されています。計画的な在庫適正化に関する具体的な記載はありませんが、以下のような状況を想定できます。

❶値引き販売:季節商品や過去シーズンの在庫を値引きして販売することで、在庫の回転を早める取り組みが考えられます。これは売上総利益率を低下させますが、キャッシュフローの改善新商品のための在庫スペース確保に寄与します。
❷クロスセル・アップセル:在庫商品と新商品をセットで販売したり、顧客に追加購入を促すことで、在庫商品の消化を図ることができます。
❸季節外れ商品の早期販売:気候変動に対応した新規企画商品の展開が好調だったと報告されていることから、季節の先取り販売で在庫を整理した可能性があります。

 販売価格の下落は、短期的には売上総利益率の低下につながります。しかしながら、中長期的には健全な在庫水準の維持と、新商品のための資金・店舗スペースの確保につながります。
 月次売上情報において、6月の売上が好調であることから、計画的な在庫整理が売上貢献に寄与している可能性が示唆され、第2四半期以降の営業利益率改善が期待されます。

当期純利益ベースで進捗率が異常に高い理由

 オンワードの通期計画と第1四半期の実績を比較すると、第2四半期の収益性が極めて悪いことが予想されます(第1四半期の時点で進捗率が48%を超えています)。

第1四半期実績:
売上高:51,376百万円、営業利益:5,074百万円、営業利益率:9.88%
第2四半期累計予想:
売上高:94,900百万円、営業利益:5,500百万円
第2四半期単独の推定:
売上高:約43,524百万円(94,900 - 51,376)、営業利益:約426百万円(5,500 - 5,074)、推定営業利益率:約0.98%

 同社の経営成績は、季節性が顕著であり、第2四半期の収益性が極めて低くなります。オンワードに限らず、アパレル業界では通常、第2四半期(6-8月)は夏のセール時期に当たり、利益率が低下する傾向があります。
 また、秋冬商品の仕入れや宣伝費用が先行して発生し、コストが増加する可能性があります。
 
 一方で、通期の業績予想が上方修正されているということは、会社側が第2四半期以降の業績上振れを想定していることを示唆します。第1四半期に計画的な在庫整理が、第2四半期の経営成績にpositiveに作用する可能性もあるでしょう。

 総じて、第1四半期の営業利益減少にもかかわらず、通期では2桁成長を見込んでおり、下半期に向けて本業の収益性改善を期待していることがうかがえます。
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?