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高齢者に対するSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬のプロコンから垣間見る科学的議論の構造
高齢化が進む先進諸国では、高齢者における慢性腎臓病の管理が重要な臨床課題となっています。2020年以前において、腎予後の改善や病状進行の抑制に対する薬物治療に関する質の高いエビデンスは限定的でした。
しかしながら、慢性腎臓病に対するSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬のランダム化比較試験では、一貫して病状進行の抑制が示され、同疾患の薬物療法にパラダイムシフトをもたらしたと言えるように思います(KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. PMID: 38490803.)
一方、高齢者に対するSGLT2阻害薬やGLP-1作動薬の使用は、加齢に伴う多様な生理学的変化や併存疾患を考慮すると、そのリスクとベネフィットのバランスについて、慎重な判断が求められます。
とりわけ、虚弱(フレイル)と呼ばれるような状態にある高齢者においては、ランダム化比較試験の組入れ基準を満たさず、これら集団における薬剤効果の検証は厳密な意味でなされていません(Giorgino F, et al.2020;PMID: 32285611)。
また、高齢者においては骨折や急性腎障害、尿路感染症など、潜在的な有害作用に対する懸念が、治療の意思決定を複雑化させます。そのような中、高齢の慢性腎臓病患者に対するSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の有効性や安全性を、Pros & Cons形式でまとめた総説論文が報告されました(Liabeuf S, 2024;PMID: 39906070)。
今回の記事では、同論文の議論をなぞりながら、Pros & Consの行方と米国の哲学者クワインの思想との親和性を考察します。
Pros(メリット)を主張する立場の論理
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