日本調剤株式会社(TYO: 3341)の事業内容と財務分析

 有価証券報告書や決算短信をもとに、日本調剤株式会社の事業内容や財務状況を考察していきます。
2020年4月 1日~2021年3月31日事業年度有価証券報告書
2022年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕

事業ポートフォリオ

日本調剤の公式ウェブサイトの「事業内容」を見てみますと、以下の8つの事業を紹介しています。Eコマ事業もやっていたんですねぇ。個人的には医薬品情報提供ウェブサービス事業情報提供・コンサルティング事業の詳細が気になります。

① 調剤薬局事業
・全国47都道府県に調剤薬局を展開
② 保険販売代理店事業
アフラックの代理店業務や、第一生命グループである「ネオファースト生命」の保険商品の取り扱いを始め、乗合代理店「日本調剤 ほけんショップ」を運営
③ 病院向け薬剤師派遣事業
病院薬剤師の働き方における福利厚生の支援事業として「産休・育休代替薬剤師派遣サービス」を展開
④ Eコマース事業
コスメ商品、健康食品、癒し用品、介護用品など、ヘルスケア関連商品を「日本調剤オンラインストア」にて販売
⑤ 医薬品情報提供ウェブサービス事業
高度DIウェブプラットフォーム「FINDAT(ファインダット)」を医療機関や保険者等に提供
⑥ 医薬品製造販売事業
子会社の日本ジェネリックや長生堂製薬株式会社を通じて後発医薬品を製造販売
⑦ 医療従事者派遣・紹介事業
薬剤師を対象とした人材会社としてメディカルリソースを設立。その他、薬剤師向けの「ファルマスタッフ」、医師向けの「ドクタービジョン」、登録販売者向けの「チアジョブ登販」、全国の有料老人ホーム・高齢者住宅の検索サイト「探しっくす」などのサイトを運営
⑧ 情報提供・コンサルティング事業
日本医薬総合研究所による日本調剤が保有する処方箋情報を匿名化したうえで、医薬品の処方動向などの解析業務

 日本調剤と言えば、薬剤師なら多くの方が知っている調剤薬局チェーンだと思います。その事業ポートフォリオは薬局運営にとどまらず、幅広く展開されている印象もありますが、有価証券報告書上のセグメントは調剤薬局事業医薬品製造販売事業医療従事者派遣・紹介事業の3つです。

 調剤薬局事業は「日本調剤株式会社」及び連結子会社9社にて展開されており、医薬品情報提供ウェブサービス事業はこのセグメントに含まれているようです。医薬品製造販売事業は「日本ジェネリック株式会社」の他、長生堂製薬株式会社を子会社化し、その規模を拡大させています。医療従事者派遣・紹介事業として展開されている「株式会社メディカルリソース」は薬剤師の方ならお世話になった人も多いかもしれませんね。

経営方針

 日本調剤は2018年4月27日付にて、「日本調剤グループ 2030年に向けた長期ビジョン」を策定しており、高齢者社会に向けた成長戦略とその事業展開について売上高1兆円企業を展望調剤薬局市場におけるシェア10%ジェネリック医薬品市場におけるシェア15%収益ポートフォリオの深化(調剤:他の2事業=50%:50%)を掲げています。

 調剤薬局事業だけでなく、他の2事業の収益比率を高めることで、持続可能な経営を行っていこうという方針が見て取れますが、このことはまた、調剤薬局事業の将来性が必ずしも明るいものではなく、単独セグメントとしての成長性はあまり期待できない可能性を示唆しているようにも思います。

 なお、日本調剤株式会社は営利企業とはいえ地域医療を担う企業として、具体的な経営指標を定めていません。投資家の観点からすれば、明確な経営指標の無い企業に積極的な投資をしたいとは思わないかもしれませんね。

事業リスク

 企業の特殊要因として目立つのは医療制度的な問題でしょうか。薬局事業の収益は調剤報酬に基づいて計上されるため、報酬体系の改正によって、大きな影響を受けます。同事業は消費税増税の影響も軽視できません。調剤売上は消費税法により非課税となる一方で、医薬品等の仕入は同法により課税されるからです。また、薬価改定は医薬品製造販売事業の売上減少の大きな要因と言えるでしょう。

事業セグメントの状況

 2020年4月~2021年3月会計年度における同社の売上高は278,951百万円営業利益8,106百万円経常利益8,409百万円親会社株主に帰属する当期純利益3,538百万円となっています。セグメントごとの経営成績の概要は次のとおりです。

・調剤薬局事業
売上高244,072百万円、営業利益10,585百万円(営業利益率4.3%
・医薬品製造販売事業
売上高45,699百万円、営業利益2,350百万円(営業利益率5.1%
・医療従事者派遣・紹介事業
売上高8,393百万円、営業利益は712百万円(営業利益率8.5%

 営業利益ベースでみれば、売上高8割近くが調剤薬局事業であり、収益ポートフォリオの深化への道のりはまだまだ険しそうです。営業利益率もかなり低めと言わざるを得ません。派遣・紹介事業でさえ10%に満たない状況です。新型コロナのような突発的な事業リスクが発生した場合に、キャッシュフローを維持できるか心もとない印象です。

業績推移

2017年3月から2021年3月までの利益率(親会社に帰属する当期純利益/売上高)の推移は、2.1%→2.5%→1.5%→2.5%→1.3%と超低空飛行です。鼻息で吹き飛んでしまいそうな状況ですが、自己資本比率も20%台と低い状態が続いています。むろん、業績が大きく変動しにくい業種ではあるものの、金利が上昇して支払利息が増加すれば、純利益を大きく圧迫しかねません。最近の話題としては、長生堂の行政処分の影響も気になるところです。

キャッシュフロー

 同社は明確な経営指標を設定していませんが、経営状態の把握において重視しているのはキャッシュフローとしています。2020年4月~2021年3月会計年度における同社のキャッシュ・フローの状況は、営業活動によるキャッシュ・フローが11,213百万円投資活動によるキャッシュ・フローが△7,767百万円、財務活動によるキャッシュ・フローが△2,806百万円となっています。長期借入金は今のところ無事に返済ができているようです。

 投資活動によるキャッシュフローのマイナスは主に有形固定資産の取得による支出であり、設備投資によるものと考えて良いと思います。新規の出店に伴う銀行からの借り入れがほとんどでしょう。

貸借対照表

 現金及び預金は2021年3月31日会計年度で32,893百万円となっており、総資産に占める割合は17.6%です。ややキャッシュが少なめな印象もありますが、売掛金が21,050百万円、商品および製品が23,139百万円と、流動資産そのものは決して少なくありません。調剤報酬が入金されるまでは売上計上とタイムラグがありますし、医薬品の在庫はそれなりに高価です。

 負債の部で目立つのは借入金でしょうか。ただ、1年内返済予定の長期借入金が増え、長期借入金が減少していますので、借入よりも返済の方が大きいということなのでしょう。

2022年3月期 第1四半期決算短信

決算のハイライトとしては以下の通りです。

・調剤薬局事業
前年と比較して既存店の処方箋枚数が増加したことに加え、前期に出店した29店舗が寄与したこと等により増収増益
・医薬品製造販売事業
新規薬価収載品が牽引したこと等により増収となった一方、薬価改定に伴う既存製品の販売価格の下落及び予定していた一部の新規薬価収載品の発売を延期したこと等により減益
医療従事者派遣・紹介事業
新型コロナウイルスワクチン接種関連業務の需要に伴い、
医師紹介の実績が拡大した一方、薬剤師の派遣が減少した
こと等により売上高・営業利益ともに減少

 連結損益計算書における営業利益率は1.3%と過去の同期と比較しても、低空飛行のまま離陸的でいないという状況です。貸借対照表上は負債が増加していますが、これは借入金ではなく買掛金とのこと。

 ただ、調剤事業は出店を増やさなければ目先の売上高は頭打ちという印象もぬぐえません。これは薬局業界全体に共通することかもしれませんが、設備投資を継続的に行わなければ、キャッシュを積み上げられない状況が持続的に可能となることは想像しにくく、どこかで事業ポートフォリオを多面化していく必要があるように思います。

 とはいえ、Eコマ事業においては既にAmazonやドラックストアが運営しているウェブサイトで医薬品が購入できる以上、参入障壁は高いと思います。また、医薬品情報やコンサルティングだけでキャッシュが得られるような事業モデルを構築することは現状では難しいように思います。どのようなニーズを作り出せるか、消費価値の創造こそが今後の調剤薬局事業にとって重要な要素となるような気がしています。

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