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薬剤疫学における研究デザインの設計思想:新規使用者ザイン(new-user design)とは?

 薬の有効性や安全性に関する観察(薬剤疫学)研究においては、薬剤の新規使用者を曝露とすることが一般的です。新規使用者を曝露とすることによる研究デザイン上のメリットとして、以下の事項を挙げることができます。

❶治療を開始した時点を起点として追跡調査が可能であること(時間的順序関係の明確化)
❷治療開始前における被験者の予後因子が収集できること(交絡因子調整制度が高い)
❸治療を受けるまでの期間を観察期間に含めないことで、immortal time biasを排除できること。
❹治療開始から時間経過とともに、有害事象リスクが低下する(有害事象に対する耐性が生じる)場合においても、適切な効果量が検出できること(感受性枯渇の考慮)。
❺の時間経過に伴う、薬剤の効果量変化を測定できる

 なお、Immortal time biasとは、被験者(研究参加者)が曝露を受けるまでの期間、必然的に生存していなければならないという事実を考慮しないことで生じるバイアスです。
 例えば、臓器移植を受けた患者の生存率を評価する観察研究において、移植手術を行うまでの期間は患者が生存していなければならず、この「不死時間(Immortal time)」を考慮せずに分析すると、死亡率を過大評価(つまり、生存率が高くなる)してしまう可能性があります。
 
 薬剤の新規使用者を曝露とするコホート研究のデザインは新規使用者デザイン(new-user design)と呼ばれますが、同デザインはまた、❶new-user versus non-user、❷active comparator new-user、❸ prevalent new-userの3タイプに分類することができます。
 
 今回の記事では、新規使用者デザインにおける3つのバリエーションについて、その概要を整理したうえで、解析結果に対する解釈の相違などを解説します。

新規使用者デザインにおける3つのバリエーション

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