【ビジネス教養としての簿記・会計(第4回)】高配当で人気のあおぞら銀行、株価暴落の理由は?-金利と債権と引当金
四半期ごとに配当を行う高配当株として、投資家からの人気も高かったあおぞら銀行(証券コード8304)の株価が暴落しました。
高配当、およびその期待を織り込んで形成されていた株価は、3年平均を上回るPERで推移していました。しかし、3年の間に上昇した時価総額は、たった1日で失われたことになります【図1】。
日経新聞やブルームバーグ等でも報道されている通り、2月1日付で発表された2024年3月期 第3四半期決算の結果をうけての下落です(2024年3月期 第3四半期決算短信)。
第3四半期時点における経常利益は248億円の赤字となり、通期では、490億円(うち親会社帰属分は280億円)の赤字を計上する見込みとなっています。
15年ぶりの赤字転落という経営成績を受け、同社は下期の配当を無配としました(2024年3月期 通期業績予想および配当予想の修正に関するお知らせ)。
2024年3月期第3四半期の経営成績(損益計算書)見てみますと、一般的な企業の売上高に相当する(四半期)経常収益が1932億円と、前年同期の1263億円と比べて増収となっています。
しかし、前年同期において184億円の黒字が計上されていた経常利益が、本四半期では248億円の経常損失となっています。売り上げは増加しているにも関わらず、経常利益が大きく圧迫された原因は、有価証券の売却損と引当金の繰入です。
2023年度第3四半期決算概要によれば、「米国金利上昇等の影響を受けて評価損となった外国債券を中心とした有価証券について、来年度以降のポートフォリオ運営の柔軟性確保と収益改善を目的として、売却による処理を加速」との記載があります(2023年度第3四半期決算概要)。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、米国の中央銀行であるFRBは、史上最大規模ともいえる金融緩和策を実施しました。しかし、この緩和政策によって、世界的なインフレが招かれてしまったことは記憶に新しいと思います。インフレを抑制するため、FRBは段階的に政策金利を引き上げてきました。しかし、金利が上昇すると債権価格は下落する傾向にあるのです。
例えば、金利が年利5%の債権を額面で100円分保有していたとします。この債権を保有することで、元本のみならず、年間で5円の利息(クーポン利息)を受け取ることができます。しかし、政策金利が上昇すると、合わせて新規に発行される債権金利も上昇します。
もし仮に、新たに発行された債権の金利が10%であった場合、額面で100円保有していれば、年間で10円の利息を受け取ることができます。同じ100円という額面の債権であるはずなのに、金利上昇前と後では、受け取ることができる利息が異なるわけです。
当然ながら、既存の債権(5%の利息しかもらえない債権)価値(時価)は、新規に発行される債権(10%の利息をもらえる債権)と比べて低くなります。
額面が同じであるのなら、利息を多くもらうことができる債権の方が価値が高いというわけですね。
そのため、政策金利が上昇すると、債権の時価は下落することが一般的です。銀行が大量に債権を保有している場合、保有期間中に金利が上昇すれば、当該債権に含み損が発生することになります【図2】。
債権と金利の関係性は、【図2】に示したほど単純ではありませんが、イメージとしては概ね正しいように思います。
あおぞら銀行が保有していた外国債券には、莫大な含み損が発生しており、その損失をどの時点で認識するかという問題が残されていたわけです。同行は下期にかけて410億円の損失を確定する見込みであり、第3四半期では有価証券の売却損93億円を含む111億円が費用計上されました。
ただし、あおぞら銀行の経常利益の圧迫要因としては、有価証券に発生した売却損よりも、324億円にものぼる引当金繰入の影響の方が大きいでしょう。実はこの引当金、ドル建(約220百万米ドル)で計上されており、円安も費用増大の悪化要因だったといえます。
あおぞら銀行は、米国のオフィス向け不動産に対して、積極的な融資(ノンリコースローン)を行ってきた経緯があります。
しかし、米国における政策金利(≒ローン金利)の上昇や、新型コロナウイルスの感染拡大を契機とした在宅勤務シフト等に伴い、米国オフィス不動産の流動性は悪化していました。同行は、市況環境が安定的な状態に戻るまでに1~2年の時間を要すると見積もっています。
このような状況下にあっては、あおぞら銀行の貸付金回収に、一定の懸念が発生します。引当金とは、将来において金銭債権の回収が行えなくなった場合に発生する損失の合理的な見積もりであり、当該金額は費用として計上されることになります。つまり、将来の損失に備えて、当期のうちに費用計上せよ、という要請が引当金計上の根拠となっています。
引当金は、将来の特定の費用、もしくは損失であること、その発生が当期以前の会計事象に起因すること、その発生の可能性が高いこと、その金額を合理的に算出することができる場合には、費用として計上しなければなりません。
その意味では、災害に関わる損失や費用を引当金として計上することはできません。災害の発生確率は低く、また損失の額も合理的に算出できないからです。
引当金として計上する費用(繰入額)は、債権が貸し倒れるリスクに応じて、貸倒実績率法、財務内容評価法、キャッシュ・フロー見積もり法によって算出します。
僕も銀行の実務を経験したわけではないので、詳しいことは知りません。ただ、日商の簿記検定では、一般債権においては貸倒実績率2%前後、貸倒懸念債権では貸倒設定率を50%で計算する問題が多く出題されていたように思います。
あおぞら銀行では、ローンの信用リスク(債務不履行が起こる可能性)に応じて、2.2~44.5%の設定率で引当金が算出されたようです【図2】。
引当額の総額は貸付残高1,893百万米ドルの18.8%にあたる357百万米ドルとなり、第3四半期では約220百万米ドルの引当金繰入額を計上することになったわけです。日本円にして324億円ですから、前年同期の経常利益も吹き飛ばす金額ですね。
米国金利の上昇が頭打ちであることを踏まえると、外国債券の評価損の拡大リスクは小さいと思います。当期に損失を確定したことで、機会損失を回避し、機動的に運用を再開できるかもしれません。
一方で、米国の不動産市況は長期にわたり低迷が続きそうです。今期の繰入で引当額は十分としていますが、貸付金の回収ができないリスクが払しょくされたわけではありません。あおぞら銀行の経営成績は、米国の政策金利に強い影響を受けビジネスモデルであることに注意が必要ですね。
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