ケガをした話
天気がいい。久しぶりにカーテンを洗おう。
天井に近いところにレールがあるので、イスを使う必要がある。
右側の分を取り外し、左にイスを動かしてイスに登ったとたん、イスがひっくり返った。
いきなり、だ。カーテンにすがる間もなく。
背もたれのある回転するイスだが、安物なので固定ができない。
座面がゆる~く動く。
私はそのまま1mくらい飛んで、テレビ台の角にしたたか背中を打ち付けた。
今まで生きてきて(かなり長い)一番痛かった。息ができない。動けない。
後から位置を確認したのだが、とにかくイスからダイレクトにテレビ台まで飛んでいた。
そんな私が一番先に目にしたのは、テレビに挿してあるアマゾンスティック。かなり曲がっていた。
「ちょっ、それは困る」
私はヘビーユーザーだ。幸い左手は少し動いたので、アマゾンスティックをちょっと動かした。もとに戻った。よかった。
そのあとは、1時間くらいそのままの姿勢で動けなかった。
救急車呼ばないとなのかな、とぼんやり思ったが、今救急車呼んでも来ないよな...それ以前に電話のところまで行けない。
一人暮らしなので、自分で動かないと何も解決しない。
だいぶ経ってから、ちょっとずれて床に横たわった。そのまままた1時間。
ただこれがまずかった。いざ起き上がろうとしても、痛くて動けない。
ぶち当たったテレビ台にすがるようにして、ようやく起き上がることができた。
本当は病院だよな。でも、家を出て階段下りて、バスやタクシーやらに乗って、しかも病院で待って診察受ける、なんて絶対無理。
何かしなくちゃ。そうだ、冷えピタがあった。
よろよろしながら、冷えピタを探して、洗面所で恐る恐る背中を見る。
「げっ」
直径8センチくらいの大きな赤い丸。その下に大きなナイキのマーク。
幸い背骨からは少し外れていた。
今手元にある武器は冷えピタだけだ。
動く方の手でゆっくり、やっとこ、冷えピタを貼った。
すぐに無くなった。急いでネットで追加注文した。そうそう、シップも要るよね。
怖いのは内臓損傷だ。見た感じ、多分肋骨が折れて内臓に刺さったりはしていないだろう。知り合いの薬剤師さんに電話して相談したのだが、骨にヒビが入っているかどうかは、医師でもレントゲン撮らないとわからない、と。
そりゃそうだよね。
いずれにせよ動けないので、しばらくそのまま様子を見ることにした。
東京が燃え盛っていた時期だ。
病院に行ってコロナをもらってしまう可能性と打撲による損傷を天秤にかけた。
私は何かあれば病院に行く方だ。家で素人が悩むより、専門家に早く解決してもらいたいタイプ。
でも今回は思った。
「自分で治そう」
それから毎日冷えピタを貼り、シップが届いてからはシップに切り替えて、とにかく安静にしていた。そうそう、カルシウムのサプリもネットで頼んだよ。
手を上にあげることが痛いのはわかるのだが、例えば引き出しを引くとか、ペットボトルの栓を開けるとかが出来なくなった。普段私は全く運動をしないので身体の構造には疎いのだが、いろいろなところで筋肉がつながっているんだな、と実感した。
あれから2週間。だいぶましになったとはいえ、まだ痛い。
寝返りもやっと打てるようになったし、くしゃみをしたときに飛び上がるほどだったのも、随分よくなった。
背中の日の丸もだいぶ小さくなった。ナイキのマークはまだ健在だけど。
今回のことで肝に銘じたことがある。
「注意一秒ケガ一生」
これ、大げさでもなんでもない。
何かあってもすぐに病院に行けるわけではない。
自分を守るのは、自分。よくわかった。