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「君たちはどう生きるか」が何を伝えたいか「地球儀」を聞いたらちょっと分かった話

 話題のジブリ最新作「君たちはどう生きる」を見てきました。自分の様なアホには一見して難解で抽象的な映画に感じたというのが正直な感想です。本作を見た周りの友人に感想を聞いても同様の応えが多かった印象です。ですが、ある要素を踏まえる事で映画の持つ意味や奥深さをグッと理解する事が出来ました。
 それは本作の主題歌である米津玄師「地球儀」の歌詞に込められています。タイアップという性質を踏まえると、この曲は本映画の本質を一曲に凝縮して表現しているものだと思います。故にこの楽曲の歌詞を紐解く事こそが、一見難解な本映画の本質を理解する手助けになると考えました。
 自分なりに考察しまとめたので自分用の備忘録として書かせて頂きます。映画素人の書いた稚拙な文章です。若干のネタバレや個人の視点も多く含まれています。以上をご理解の上温かな目&適当な気持ちで読んで頂けると幸いです。

君たちはどう生きるか=宮﨑駿の頭の中

 結論から書きます。自分は本作=宮﨑駿の頭の中を出来る限り正直に表現した映画だと思います。年齢を考えると宮﨑氏のキャリア上最後の監督作になり得るであろう本作で彼は自身の経験や考え方、好きな物や表現などを包み隠す事なく告白したのだと思います。本作から名義が宮崎駿から正式な表記である宮﨑駿に変更されている姿勢からもその要素は伺えます。そこには「風立ちぬ」という感動作でキャリアを綺麗に締め括ってたまるかというクリエイターとしてのエゴがあったのかも知れません。本作が戦時中という設定にも関わらず、後半ではその設定が全くと言っていい程登場しないのも、戦時中に生まれた宮﨑駿自身を本作の主人公眞人に重ねさせるための設定に過ぎないからだと思います。
 娯楽的仕掛けや緻密なストーリー展開で視聴者を感動させる事を目的に作られた映画ではないのだと思います。それ故に難解で説明に乏しく急展開の連続です。それが視聴者の頭の中に?を多く残す原因だと思います。しかしそれで全く構わないのだと思います。
 人(特にクリエイターの)の妄想や頭の中を忠実に再現したら、そりゃもうストーリーも設定もめちゃくちゃなモノになると思います。鳥が急に喋り出したり、この世と別の世界に飛ばされたり、突如火を操る少女が現れたりと、なんだって起こります。本来であればそのメチャクチャな要素をストーリーや編集を用いて繋ぎ合わせて一つの作品にするのが創作だと思います。ですが、最後の作品ではそういった創作性よりも、宮﨑駿氏自身の頭の中を純粋に再現する事を優先したのだと思います。本作の中に宮﨑氏の過去作を彷彿とさせるモチーフか断片的に数多く登場するのもそういう理由だと思います。 
 次の章では何故自分がそう解釈したのか、本作の主題歌「地球儀」の歌詞を紐解きながら考察したいと思います。

「地球儀」が何を意味するか

 自分は主題歌である「地球儀」は創作における宮﨑駿の頭の中の世界を一言で言い表した言葉だと思います。創作時に宮﨑氏が自身の頭の中に無限に広がる世界の中から作品のモチーフを選び、創作に向き合う姿勢を"地球儀を回す様に"と表現したのだと思います。
 本人のSNSの投稿にもある通り「地球儀」という楽曲は、米津玄師本人と宮﨑駿及び鈴木敏夫が幾度にも渡る話し合いの上制作した楽曲との事です。

「この4年間のあいだ、幾度か小金井のスタジオへと足を運び、宮﨑さんや鈴木さんとお話をさせて頂いたのですが、その殆どが不思議なくらい気持ちよく晴れた日でした。」(本人ツイッターより引用)

 自分はこの投稿の「宮﨑さんや鈴木さんとお話をさせて頂いた」という表現が気になりました。打ち合わせを柔らかく表現しただけとも捉えられますが、自分はあえて「お話」という表現を選択したのだと思います。それは本楽曲が映画の内容になぞられただけの作品ではなく、宮﨑駿氏の人生そのものを表現した物であり、それを描く上で本人との綿密な「お話」が必要だったからだと思います。
 つまり、「君たちはどう生きるか」という映画の主題歌を作るという事は宮﨑駿氏のこれまでの人生の全てが描かれた一曲を作る事だったのだと思います。それが「地球儀」という楽曲です。それを踏まえて歌詞を解釈してみます。全てを書くとアレなので重要な箇所を抜粋して自分なりに書きます。

"僕が生まれた日の空は高く遠く晴れ渡っていた
  行っておいでと背中を撫でる声を聞いたあの日"

 冒頭は宮﨑駿氏の誕生が描かれます。この世に産み落とされ家族や漫画との出会いに支えられ創作の道へ歩み出す彼の姿が歌われていると思います。その後に続く"季節の中ですれ違い時に人を傷つけながら"も、順風満帆な創作人生では決してなく、様々な思いや葛藤と闘いながら今日まで創作を続けてきた彼の姿勢が歌われます。

"風を受け走り出す瓦礫を越えていく
この道の行く先に誰かが待っている
光さす夢を見るいつの日も"

 サビでは自身の作品を待ち望む人に向けて映画制作という創作の道を突き進む宮﨑氏の姿が歌われます。"瓦礫を越えていく"は、戦後の過酷な時代を生き延びた彼の見てきた景色や精神性が投影されていると感じます。"光さす夢を見るいつの日も"は、自分の作品が視聴者の人生を照らす光であって欲しいという前向きな願いが込められていると思います。

"扉を今開け放つ秘密を暴くように
飽き足らず思い馳せる地球儀を回すように"

 個人的にはサビの後半であるこの箇所が一番重要だと思います。ここでいう"秘密"というのは宮﨑氏本人の創作の頭の中の世界だと思います。ジブリというブランドを築き上げ世界的にも評価された彼の創作の根源を、本映画で正直に全て包み隠さず視聴者に見せるという意志だと思います。説明しなければ勝手に神格化されたかも知れない部分ですら全て告白したのだと思います。そして、創作に向き合う姿勢を"地球儀(宮﨑駿の頭の中の世界)を回すように"と表しています。

"雨を受け歌い出す人目も構わず
この道が続くのは続けと願ったから"

 2番のサビでは"雨"という苦しみを受けながらも、周りの目も気にせず歌う姿が描かれます。これは米津氏自身が宮﨑氏の創作に影響を受けているため、自身の姿を重ね合わせて表現したため"描き出す"ではなく"歌い出す"としたのでは無いかと考えています。そして"この道が続くのは続けと願ったから"と歌われます。個人的にはこの歌詞が本楽曲で一番好きかも知れません。自分の作ったもので誰かが幸せになればいいなという気持ちは勿論あるのかも知れませんが、結局創作をする理由は自分が創作をしたくてたまらないからに他ならないのだと思います。それ以上でもそれ以下でもないという訳です。ただ作りたくて、そして作り続けたくてここまでやってきたという、宮﨑氏のクリエイター論を表しているのではないかと思います。

"小さな自分の正しい願いから始まるもの
ひとつ寂しさを抱え僕は道を曲がる"

 "小さな自分の正しい願いから始まるもの"は、宮﨑氏ほど偉大な方でも1人の人間に過ぎず、それでも何かを作りたいという気持ちが、宮﨑氏の作品に影響を受けた後継者達に受け継がれれば良いなという願いが込められていると思います。そんな願いを抱えながら"僕は道を曲がる"と、宮﨑氏の現役引退にも感じる様な歌詞が歌われます。ここで"立ち止まる"などの表現を使わない点が米津氏の作詞の妙だと感じます。宮﨑氏は創作を辞めたのではなく、現役として評価や名声の中で戦う創作の道から、自身の内面を告白する創作へ変化した様を"道を曲がる"と表現したのだと思います。本映画が大勢の理解を求めている娯楽作品ではないと示します。しかしそこには"ひとつ寂しさ"があるとも歌われており、宮﨑氏の人間味が感じられます。

"手が触れ合う喜びも手放した悲しみも
飽き足らず描いていく地球儀を回すように"

 創作をする中で感じる喜び(手が触れ合う喜び)も、現役を退く事を決めた悲しみ(手放した悲しみ)も宮﨑氏の中には確かに存在します。それでも彼は"飽き足らず描いていく"、つまりは作品を作り続けるのだと思います。

君たちはどう生きるか?という問い

 自分の頭の中を正直に曝け出してまで宮﨑氏が伝えたかった事とはなんなのか。それはまさしくタイトルにもある通り「私はこういう人生を歩みこういう創造力の元で創作をしてきたが、それを受け取った君たちはどう生きるか?」と問いたかったのではないでしょうか。後継者にバトンを渡す上での最後の勤めが自身の想像の世界を赤裸々に全て見せ切る事だったのだと思います。そのためにこの一見難解で抽象的な映画を作る必要があったのだと思います。
 そしてそれは本作の主題歌が宮﨑駿氏から強い影響を受けた米津玄師氏にオーダーされた事にも大きく関係していると思います。前述した米津氏本人のSNSの投稿では
 
地球儀は「君たちはどう生きるか」の為の曲であり、わたしが今まで宮﨑さんから受けとったものをお返しする為の曲でもあります。」(本人ツイッターより引用)
 
とあります。これは米津氏が宮﨑氏から創作とはなんたるかを学び、バトンを受け取り、そしてその感謝とある種の引退へのポジティブな意味での餞を送りたかったのだと思います。宮﨑氏からのメッセージを正しく受け取った後継者の1人である米津玄師氏に本映画の主題歌を依頼する事で、宮﨑氏は自身のクリエイターとしての現役に一つのピリオドを打ちたかったのだと思います。
 けれども、歌詞の最後にある通り宮﨑氏は今後も創作を続けるのだと思います。誰のためでなくても、周りに理解されなくても、なんと言われようと、子供が無邪気に地球儀を回し想像の海を泳ぐ様に作品を作り続けるのだと思います。そしてそれこそが創作に向き合う最も純粋な姿勢だと後継者に伝えたかったのだと思います。

 
 以上です。正直周りに友人が「君たちはどう生きるか見たけどよく分からんかったわ〜」と言っていてその人達に説明する意味でも書きました。勿論感想は個人の自由ですが、分かりにくい作品だからといってそれが悪い作品ではないと思います。何も考えず見て楽しめる映画ではないのかも知れませんが、自分にとってはとても意味のある作品だと感じました。駄文&長文失礼しました。


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