9月の呼び方
スーパーでパックの団子を買ってきた。
今日のお月様は一段と大きな三日月だった。
まだ十五夜には早かったが、せっかくの三日月なので、私は外で団子を食べることにした。
夜遅くに玄関へ行くと、相棒のしば犬が是非もないという顔でついてくる。
外に出るとまだ風がぬるい。
一応着てきた上着を脱いで、しば犬と公園へ進む。
草陰で鈴虫が鳴く中、アスファルトの上には定期的にセミファイナルを見つけた。
夏と秋が混ざり合っていて、私はまだ8月でも9月でもないのだと思い出した。
公園に着くと、近所のおじいちゃんたちが手を繋ぎ、円になって立っている。
私はしば犬がそれを邪魔しないようにリードを引きつつ、ベンチに腰掛けた。
「お前、ラッキーな犬だよ、見てな。」
私はしば犬にそっと耳打ちをして、取り出した団子を食べながらおじいちゃんの輪を眺めた。
おじいちゃんたちは、繋いだ両手をゆっくりあげる。肩に負担がかかるので、その動きは深呼吸よりもゆっくりだ。
やがて両手が限界まで上りきると、そのままおじいちゃんたちは徐々に回転し始める。
それはおじいちゃんたちの意思ではない。
秋風の力が、おじいちゃんたちを回転させるのだ。
しば犬は、地面にうずくまりながら、初めての光景をじっと見ていた。
「秋が来たんだよ。」
私は最後のだんごを飲み込んで、しば犬に囁く。
「日本の秋は、こうして来るんだ。」
老人が手を取り回る。季節が巡る。
それだけのことで、どうしてこんなに心が穏やかになるのだろう。
月明かりに照らされて、おじいちゃんたちはしばらくの間、ふわふわくるくる周り続けた。
私は家に帰ってから、カレンダーをちぎった。
そこにはもう、9月がいた。
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