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「間隙」と「隙間」の間隙

急啓

 隙間という言葉を説明しろと言われたら、どのような解説をすることができるだろう。

 隙間とは、「物と物の間にある僅かな距離」「物に生じた穴や裂け目」である。私が思い当たるのはこのような説明だ。大抵の人は急に隙間の話を振られてもこの程度のことを言うのではないかと思う。

 そして、日本語には「間隙」という言葉もある。意味は隙間とほぼ同じ、漢字の前後を入れ替えただけの熟語である。今のところ私の人生23年半で生じたこの言葉に対する感想は「隙ってゲキって読むんだ」程度のものである。

 日本語には同義語というものが存在する。異なる表現、異なる語形の言葉同士でも、全く同じ意味を持つことがあるということだ。私は日本語の表現の幅の広さが好きなので、同義語の使い分けというのは文章の醍醐味の一つであるとすら感じる。

 同義語を使いこなしこそすれ、マイナー側の同義語の存在意義を問うことは野暮であり、言語の簡素化を招く行為であると私は考える。考えた上で問いたい。

 「間隙」の使い所はどこなのか。

 ともすれば、日常的にこの言葉を使っている人間もいるかもしれないが、私は文語表現以外でなかなかこの言葉と出会ったことがない。なぜなら「間隙」が使用される余地のあった全ての場合において、「隙間」というさらに使いやすい言葉が成り代わっているからだ。

 有り体に言えば、私は今「間隙」の存在意義を問うている。それは自身の野暮やナンセンスを承知の上で、だ。

 私の考察として、間隙の使い所として考えられるのは二つの場合だ。

 一つ、形式ばった場面や文章。そしてもう一つ、このコラムのように、インテリぶったイタい人間がわざと難解な表現を使って満面の笑みをニッチャリと浮かべている場合。

 正直、こうなってくると間隙という言葉になかなかいい印象を持つことができない。しかし、私には文章を書く際に大切にしている一つの心掛けがある。それは、断言をする際には裏を取るということだ。

 さて、言葉について知りたいときは、素直に国語辞典を引用させていただこう。

かん-げき「間×隙]カンケ゜キ 名
①すき。すきま。「ーをぬって進む」
②仲たがい。不和。「ーが生じる」

すき-ま【透き間[▲空き間・×隙間】スキマ
①あき。すき。
②ひま。手すき。
③油断。手ぬかり。

[引用]角川 新国語辞典

 如何だろう。隙間についてはまぁ認識通りとして、間隙の②は意外に感じた人もいるのではないだろうか。そう、間隙には隙間にない、「仲たがい、不和」という意味が内包されているのである。正直目から鱗だった。

 そう、間隙は自分だけの価値をすでに持っているのだ。空間の隙間に加えて時間の隙間、行動の隙間を内包する「隙間」。一方で、人間関係の隙間を持つ「間隙」。この二つには明らかな違いがある。喪黒福造は人の心の「隙間」を埋めることはできるが、人と人の「間隙」を埋めることは決してできないのだ。

 ここで冒頭の記述に関し、訂正してお詫びさせていただこう。「間隙」と「隙間」、この双子のような、一見違いのない熟語には、合目的的に使い分けるに足るほどの違いがある。その意味の隔たりは、全くの同義語とはとても言えない、存在意義を問うまでもなく確固たるものだ。

 そう、双子の間には確かに「間隙」があったのである。

草々不一

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