Yell note :Page67 朗読劇『青野くんに触りたいから死にたい』感想
観劇後、呆然とした頭のまま駅に向かったらスマホの電源を切っていたことを忘れていて自動改札に容赦なく止められた。
『ホラー映画にはルールがあるの。でも現実にはない。現実の方がよほどホラーだ』
観客の拍手と共に劇は終わるけれど、この皮肉めいた現実は僕を嘲笑うかのように続いている。
そんなビターな記憶もまだ新しく。9月11日〜9月16日に渡って荒井瑠里さんが出演していた朗読劇「青野くんに触りたいから死にたい」を観てきたので今回はそちらの感想記事です。
0.感想を書くにあたって
漫画原作の方は「名前だけは何となく聞いたことあるような…」という程度だったので予習はせずにまっさらな状態で観劇に臨むことにしました。原作読んでからだと「原作と声が違う」というクソめんどくさい妄想オタクになりがちなので。ていうかドラマ化もされてたのか…。
そして演出を担当される田邊さんの作品を観るのはこれが三作目です。すっかりお馴染みになった感。(今年もう一作品観る予定ですのでよろしくお願いします)
1.参加イベント概要
・イベント名
朗読劇『青野くんに触りたいから死にたい』presented by eeo Stage
・開催日時(参加した公演)
2024-9-14(土) 13:00~15:15頃
2024-9-14(土) 18:00~20:15頃
・開催場所
CBGKシブゲキ!!(東京都)
・出演者(順不同、敬称略)
(9/14 13:00回)赤澤遼太郎、生駒里奈、梶原岳人、星守紗凪、渡辺みり愛、織部典成、阿川しづ音、荒井瑠里、金澤慎治、川口飛雄我、坂口実成夢、白石翔太、豊永実紀、美藤大樹、真島淳、和田望伶
(9/14 18:00回)赤澤遼太郎、生駒里奈、汐谷文康、竹内夢、渡辺みり愛、織部典成、阿川しづ音、荒井瑠里、金澤慎治、川口飛雄我、坂口実成夢、白石翔太、豊永実紀、美藤大樹、真島淳、和田望伶
・syuの位置
(9/14 13:00回)4列目上手指定席
(9/14 18:00回)2列目中央指定席
2.本編感想
①あらすじ
あらすじを読んだだけだと「死んだ彼氏(幽霊)と女の子が試行錯誤しながら付き合うハートフルストーリーなのかな」と思ったりしたのですがフタを開けたらハートフルボッコストーリーでした。
②全体の印象
まず最初にお断りしておかないといけないことがありまして。
それは「この朗読劇を観る対象として、僕は最も適していない人間だった」という前提です。(予防線張るみたいでカッコ悪いですが)
なので本当はこういう感想記事を人目に付く形で残しておくべきではないとも思うんですけど、決して安くないチケットを2公演分買ったので後学のためにお焚き上げさせてほしいわけですよ。
以下ストーリーについて。
原作が7年以上続いていてまだ未完の物語であるということを考えれば約2時間の中でスッキリまとまっていたかなと思います。
途中で青野くんの憑依に関するルールについて美桜が考察する場面があったのでゴーストバスター的な展開になるかと思いきや、本筋は青野くんと優里のラブストーリーなんだよ!!というストロングスタイルでした。
序盤は優里の純粋さと黒青野くんの謎がストーリーを引っ張っていたのもつかの間、優里の姉である翠が出てきたあたりから「優里の純粋さ」は絶望の裏返しなのでは?という疑念が生まれる。流血さえ厭わない自分自身に対する無頓着さ、捨て身とも言える青野くんへの依存。生者の狂気も死者の不気味さに負けないくらい怖い、という二段構え。
そして思わず目を背けたくなるような人間のドス黒い感情、原始的な欲求、そういったある種の「汚さ」にちゃんと触れられていたせいで、各キャラクターの生々しさも天井知らず。優里が枕を介して青野くんを抱きしめながら「きみを抱いているのに わたしの匂いだ わたしの匂いだ わたしの匂いだ」と独白するシーンは序盤の掴みとしては鮮烈でしたね…。
ラストシーンで青野くんと優里はお互いの境界線を明確にするという選択に至ったわけですが、ストーリー中に散りばめられた謎や伏線めいた要素は原作で回収されているのでしょうか。私、気になります!
それにしても吸血鬼は許可が無いと入ってこれないとか鳥居が現実と異界の区切りとかってどこかで見た気がする。化物語だったかな。たぶん同じ伝奇が元ネタなのでしょう。
他に気になったところをひとつひとつ書いていくと煩雑になるので箇条書きで後述しておきますね。
以下演出について。
前述したとおり田邊さん演出作を観るのはこれが三度目。今作のように「声役とモーションアクター(以下MA)が同時に演じる」というフォーマット自体は昨年の朗読劇「あの星に願いを」で体験済みだったのですんなり観ることができました。会場も同じシブゲキでしたしね。
大きく異なるのは声役とMAの間に紗幕が使われていたこと。これによりMAの皆さんがちょっと見づらくなるというメタ的なデメリットはあったものの、それを差し引いて余りある演出効果があったと思います。
まずは映像の投影。恐らく原作のコマ割りや構図を意識したものか、結構な頻度で動画や画像が映し出されていました。特に黒青野くんによる怪奇現象(美桜の家のインターホン事件や対価として差し出されたパンの黒化)あたりは恐怖心を煽るために割り切った見せ方としてきたなという印象です。
一番驚いたのはMAの影を映したことでよりドラマ性が増したという点です。青野くんと優里が水族館デートの後に寄り添う様子は影で表情が隠れていたからこそ「切ねえ~」っていう傍観者の気持ちになりました。
で、ラストシーンでその紗幕は降ろされるわけですが…。
この作品って様々な「境界線」が散りばめられていたと思うんですよ。
生者と死者、あの世とこの世、此岸と彼岸、内と外、表と裏、虚と実、本音と建前、男と女、姉と妹、あれやこれや。
メタ的にいうと舞台と客席にも境界は存在してますけど意図的にその線を曖昧にすることでより没入感を増す狙いがあったのだと思います。ラストシーンで紗幕が降りたのはその集大成でしたね。青野くんと優里の存在が、二人の交わった感情が、「確かにそこに在る」という。
とはいえ。MAの活用、客席を巻き込んだ各種演出、ということに関しては過去の田邊さん演出で既に体験していたので、少なくとも僕にとっては特に新規性を感じる手法ではありませんでした。
朗読劇というパッケージの中でさらにアトラクション性を増していくのか、それともまた違ったアプローチをしていくのか。次回作を楽しみにしています。
※9/20追記
書き忘れてたことについて。紗幕があることによってMA側からも客席が見えにくくなるんだけどそれが役者さんのメンタルにどういう影響を与えてたのかが気になる。まあプロだからお客さんの視線があろうが無かろうが変わらないのかな。
……そしてこれが最大の問題なのですが、そもそもストーリーや演出を味わう余裕が僕に全くなかったということです。正確に言うと開始約10分の時点で特大の「恐怖」を味わうことになったため、その後に体感したことのインパクトが相対的にかなり薄まってしまった……というのが前述した「僕は(観客として)最も適していない」と自称した理由なわけです。
なにせ制作側の意図と全く違うところでビビり散らかしている125分間!
さすがに2回目は多少落ち着いて話の流れを追えましたけどね…。
③印象に残った役者さん
今作に出演していた役者さんについては出番の多寡はあっても皆さん本当に素晴らしい演技でした。粗が無いのはもちろんのこと、緊張感や気迫が客席までビリビリ届いていました。
そんな中でも特に気になった方々をピックアップして語りたいと思います。
まずは刈谷優里役の生駒里奈さんについて。
いやもう本当に、「圧巻」の一言しかありません。
失礼ながら「元乃木坂」という肩書しか知らなかったので少し偏見があったのもありますが、声優としても遜色ないどころか抜きんでているのではないかと思わせられるほどでした。終盤に至るまで、張り詰めた糸のような優里の危うさを表現していたのは素晴らしかったです。憑依された状態でのイケボとかも!ブラボー!
単純に台詞量も群を抜いて多く、客席から見えた台本にはびっしりとピンク色のマーカーが引かれていました。それを昼夜2公演ですからね。集中力に頭が下がります。
続いて堀江美桜役の星守紗凪さんについて。
星守さんといえばアサルトリリィの郭神琳役としての上品なイメージが強く、何度か舞台も観に行っていたので今作ではそのギャップを楽しめました。
特にオタク気質あるあるのコミュ障っぷりは数少ないギャグ要素というか一息つけるポイントになってくれていたと思いますし、台詞が無い時のダウナーな姿勢も引きこもりという境遇をうまく表していました。優里と友情が育まれていく様は胸熱でしたね~。
最後に藤本雅芳役の汐谷文康さんについて。
特筆すべきは少年期特有の繊細さ、みたいなもの。どこか突き放すような、トゲのあるような言い回しをしつつも青野くんに対する友情を隠せない。そんな二律背反めいた心情が声に含まれているようでした。
特に目を引いたのは、Blue cheerの会議が終わって優里と青野くんのシーンに移った際、おもむろに折り鶴を作っていたことです。ただ黙々と、粛々と。2回目で気付いたんですが他の回でも藤本役の人は作っていたのでしょうか?そしてこの折り鶴が重要な伏線になるのかと思ってたらそんなことはなかったぜ!(ソードマスターヤマト感)
④モーションアクター・荒井瑠里さんについて
今回の朗読劇を観に行った目的であり、僕に致命傷を与えた張本人たる荒井さんは刈谷優里のMAとして全10公演に出演されていました。相変わらず中々ハードな役柄でしたね。本当にお疲れさまでした。
「あの星」に続いてヒロインのMAを演じたというのは作り手側の皆さんに荒井さんの演技が高く評価されていたという証であるはずなので、原作に強い思い入れがあったというエピソードも含めて、勝手ながら喜ばしく思っています。
なお、僕の個人的事情は作品の出来や演技の良し悪しにまっっっっっっったく関係無いので割愛しますけど、翌日参加した横アリのアイドルフェスの最中に情緒不安定になりすぎて意味もなく二回泣きました。心的外傷後ストレス障害かな?
それはさておき。MAとしての演技面に話を戻しまして。
誰しもパーソナルスペースってあると思うんですよ。その距離は家族や恋人、友達といった関係性によっても異なりますが、どんな人に対しても無くなるってことはない、はず。
でも優里にとって青野くんに対するパーソナルスペースはノータイムで「わたしの中に入ってきてもいいよ」と応じる言葉通りの"ゼロ"だったので、青野くんに寄り添い触れ続ける(あるいは縋り続ける)姿がかえってその異常さを際立たせていました。
逆に微笑ましいなと思ったのは美桜との初対面のシーン。優里が映画に例えて自分の境遇を打ち明けるとき、声役の台詞にも無いんですが「まあまあ座ってください」と促す仕草をしてるんですよね。
こんな感じで会話中の所作だったり他者との関係性や優里本人の性格を補完するような演技がキラリと光っていました。
あとはビジュアル面に関し後から原作をチェックして気づいたことがありまして。荒井さんの外見ってかなり原作の優里に寄せてましたよね?単に黒髪ストレートってだけじゃなくて野暮ったい雰囲気とかメンヘラ感とか。
だから表情も合わさってその立ち姿は時折り死相が見えるほど。何だったら優里の方が幽霊っぽい。「わたしのキスを返して!」と言い放ったシーンの強い眼差しでホッと安堵したくらいですもん。それは生きていくと決意した人間の貌だったから。
そして余談を付け加えると乃木坂の卒業生である生駒さんや渡辺さんと共演できてよかったですね。荒井さんはお二人が現役だった当時にライブ行ってたんじゃないでしょうか。何かお話ししたのかな?
この記事内での画像に演技中の荒井さんが登場しています。この手の宣伝でMAが写ってるのは中々貴重なのでありがたや。
3.これがわからないよポイント
観劇した後メモアプリにびっしり書いちゃったからここぞとばかりに放出しちゃうぞー
4.宣伝
11/8(金)に荒井さん主演の朗読劇がありますので平日ですがぜひ声の演技も観て聴いてほしいです。今度は動かない代わりにちゃんと喋ってくれると思います。……え、喋るよね??