デジタル伝送のジッタ対策でストリーミング音楽体験をアップグレード
デジタルデータと言えども伝送する物理環境によって音質は変化する
音源を送受信する機器のクロック周波数安定度がジッタ低減のカギ
同軸接続のジッタは光接続よりも少ないという噂はおそらく正しい
■ オーディオ沼
日に日にデジタルオーディオの沼に沈んでいきます。iPodなどにCDのリッピング音源を溜め込んでいた学生の頃とは違い、現在ではストリーミングサービスで手軽に高解像度の音源が手に入るようになりました。ストレージ容量を気にして音質を犠牲にする必要もほとんどありません。
そうなると「できるだけ良い音で聴きたい!」となるのが研究者の性。最近のデジタルオーディオのお作法を調査しながら試行錯誤した結果、Amazon Musicのデジタル音源からイヤホンやヘッドホンを駆動するアナログ信号を生成する環境として、ひとまず満足できるものにたどり着きました。
この構成のもと、ヘッドホンやイヤホンとして
・Sennheiser HD650+onso 03:4.4mmバランス接続
・final A8000+NOBUNAGA Labs 鬼丸改-S:3.5mm3極アンバランス接続
などをつないで音楽を聴いています。今回の主題ではないですが、電気信号から空気振動を生成するアクチュエータの基本性能も欠かせません。
■ 各機器の役割
①は音源データのビットパーフェクト伝送が可能なネットワークストリーマです。Amazon Musicから音源データをダウンロードして、そのデータをS/PDIF(Sony Philips Digital InterFace)方式でTOSLINK端子から光デジタル信号を出力します。再生や停止などの操作は、スマホなどの専用アプリから快適に行なえます。
②はジッタを除去するためのデジタル・デジタル・コンバータ(DDC)です。この構成における陰の主役です。①から送られてくるS/PDIF方式のデータを浄化(Purify)してくれます。10MHzの高性能クロック内蔵とのこと。音源データの50倍から200倍程度の周波数です。
この機器が欠かせない理由は、WiiM Miniに内蔵されているクロックの周波数安定度があまり良くないためです。例えば、48kHzの音源データは、1/48,000秒の周期で送信することが前提となっていますが、クロックの周波数安定度が低い場合には、データ送信の周期がズレることになります。その送信信号の時間周期のゆらぎがジッタです。このジッタの有無が最終的な音質に大きな影響を与えるというのが本記事の趣旨です。
WiiM Miniは192kHz/24bit対応を謳っていますが、その出力信号にはジッタが生じています。というのも、動作確認のために用意されている192kHz/24bitのテスト音源を③にそのまま送信して再生すると、ブツブツと大きなノイズが発生します。TOSLINKケーブルを384kHz/32bitに対応したグラスファイバー製のGlass BlackⅡ+に変えても同様です。
一方で、②のDDCを経由することで192kHz/24bitテスト音源のノイズはきれいに除去されました。このことからも、①から出力されるS/PDIF信号にはジッタが生じていることがわかります。ちなみに、②と③を付属品のプラスチック製TOSLINKケーブルでつないだ場合にも同様のノイズが発生します。光接続よりも同軸接続がジッタに対してロバストなのだと思います。もちろんケーブルやコネクタの質にもよるので一概には言えませんが。
③は高機能かつ高音質で評判のデジタル・アナログ・コンバータ(DAC)兼アンプです。本機のレビューはたくさんの記事があるので省略しますが、ポータブルな大きさでありながらもパワフルにヘッドホンを駆動できます。もちろん音質にもこだわっているとのこと。
■ 音質変化の主観評価
ジッタ除去によって192kHz/24bit音源の再生でノイズが消えたことに加えて、その他の音源に対しても音質の大きな向上が実感できました。主観的には、低音の迫力が増すのと同時に空間表現や残響の繊細さが向上して、ボーカルもより近くに聴こえるようになりました。
MacBookとDACをUSB接続するだけのシンプルな構成と比べてみました。
一般にUSB接続の音質はイマイチと言われているようですが、この単純な構成でも十分に良い音です。もっと言えば、WiiM Miniに同梱されているプラスチック製のTOSLINKケーブルでつないだ場合よりも音質はかなり良く感じられるので、ビットパーフェクト単体にはそれほどこだわらなくても良い気がします。(もしくはMacBook Proの性能が良すぎるのかも…)
参考までに、Bluetoothのワイヤレス接続とも比較してみました。
LDACはSonyが開発したBluetoothコーデックで、24bit/96kHzでハイレゾ音源の伝送ができると謳われています。しかし、決して悪い音ではありませんが、迫力や繊細さが失われるように感じます。
以上の構成はデジタルデータの伝送方法が異なるだけですが、最終的な音質に差が出ることが体感できました。接続方法を変えて音の変化を簡単に比べて遊べるのも高機能なDACの楽しさだと思います。
■ ちなみに
同軸と光の違いも知らないままWiiM Miniを買ってしまいましたが、WiiM Proであれば同軸接続だけでS/PDIF信号をDACまで伝送することも可能です。同軸にこだわるならこちらが良いと思います。ただし、ジッタ対策でリクロックする前提だと大して差はないかもしれません。
使用しているDACは、主流のリニアPCM(Linear Pulse Code Modulation)方式だけでなくDSD(Direct Stream Digital)やMQA(Master Quality Authenticated)などのデジタル信号フォーマットにも対応しているようなので、デジタル化の違いという観点でも比較してみたいと思います。
「ジッタ」は、私が関わる原子時計の研究プロジェクトでもたびたび登場します。オーディオとは全然関係ない経緯で始まった研究ですが、趣味を通じて実生活とリンクするとより面白く感じます。10年後くらいには、小型原子時計搭載のオーディオ機器が当たり前になるかも!?
▼引き続きモノ雑記をマガジンに投稿予定です