チェコ買い付け日記2023⑳ 「古本屋を巡る」
今回は本屋らしく、チェコの旅で見つけたすてきな本の紹介です。
◾️『Zuzanka objevuje svet』イジー・トルンカ( Jiri Trnka) 絵 1944年
この本はプラハの古本屋で見つけたました。
トルンカはチェコアニメの巨匠。アニメだけでなく絵本や人形劇も手掛けています。
私が初めに手に取ったのはわりと後年に出版されたビニールコーティングの版。「おお、トルンカだ!やっぱりきれいな絵だな。」とパラパラめくって確認していると、カウンターにいた主人が1944年出版の同じ本を出してきてくれました。比べると印刷の色が全然違います。そして値段も10倍くらい違います…。
うーんと一瞬迷いますが、ビニールコーティングされた版が色褪せて見えてしまうので、見てしまったからには仕方ありません。
ちなみにこの古本屋には元気な犬がいて、新しい客が入ってくるとひとしきり匂いを嗅がれます。しばらくすると納得して自分の定位置に戻りますが、動物との接触があまり得意ではない私は、このクンクンはいつまで続くのだろう??とドキドキしていました。
しばらく本を選んでいると常連らしきおじさんが入ってきました。犬は発作を起こしたのか!?というくらい大興奮で、おじさんにお腹を撫でてもらい、店を走り回り、また撫でてもらい、走り回り…。おじさんも嬉しそうに犬に付き合っています。お互いよっぽど好きなんだな。
しばらく繰り返していました。
◾️『S malirem kolem sveta』イジー・カロウセック( Jiri Kalousek) 絵 1984年
朝からプラハの古本屋を回っていた日。1軒目で割とたくさん良い本に出会え、2軒目のこの店でもすてきな本がたくさん!まだ2軒目だけれど一度宿に荷物を置きに帰ろうかと思いながら、選んだ本をカウンターに置くと、そこに並べられていたこの本を見つけました。
400ページ以上ある、かなりの厚さの本。持てるかしら、と思いながら中を確認し、そのまま追加でカウンターの本の山に合流させました。
宿に帰ってからもう一度中を見返すと、やっぱり買ってよかった!世界の国々を紹介するカロウセックの絵がほとんど全てのページに、しかもたっぷりと描かれています。
この本を作るためにカロウセックがどれだけの時間をかけたのか、そして編集者や出版社がどれだけの意気込みで作ったのか。
本の序文はカロウセックが書いているのですが、実際に自分が旅したわけではなく、いろんな資料を集めてそれを元に絵を描いた、と書いてあります。もちろん自分で世界一周をして情報を集めるなんて現実的ではないので、そりゃそうだろうなとは思うのですが、インターネットがない時代にこれだけの情報と絵の元になる写真などを集めるのは大変な労力だったと思います。
紙で、しかも画家が1枚1枚絵を描くというなんとも贅沢な作りの世界地理の本です。
最近は子どもの本で(大人の本でもでしょうか)網羅的に世界の国々を紹介する百科事典ものの出版が少なくなっています。情報量が多く、準備に時間とお金がかかるのに世界情勢は次々に変わる。出版した時点ですでに情報が古いということもあります。ネットで調べたほうが早い、となるのもわかります。私もすぐにネットで調べてしまいます。
でも最新の情報にすぐに書き換えられるということは、情報の蓄積がなくなる可能性もあるということ。そして書き換えようと思えばどんどん書き換えられてしまうということ。結構怖いことです。
最近はデジタル資料のアーカイブもされるようになっているみたいですが、20年、30年分の情報がすっぽり抜けてしまうということもあるんじゃないかな。
司書時代を思い出して話が外れてしまいました。
◾️ヴァーツラフ・カバートの本
ヨゼフ・ラダ推しのSYSLOVBOOKSでなぜか人気のヴァーツラフ・カバート。
前回の旅でゆるい、でもちょっとブラックな部分もある絵がいいなと買ってきました。たまたま子ども向け雑誌 「Materidouska」にカバートが表紙を描いている号があり、それと共にすぐに売れてしまったので、今回は重点的に探して買ってきたのですが、これもほとんどがすぐに売れてしまいました。
決して一般的なかわいさはないけれど、黒い線で緻密に、時には塗りつぶす勢いで描かれる絵はかなり好きなテイストです。
プラハでトラムに乗っていると、車窓を古本屋らしき店が流れて行きました。全くチェックしていない店だったので慌てて地図に印を付けます。
トラムを降りて引き返すと、本当に小さな町の古本屋という雰囲気。ゆっくり見ていくと、カバートの絵本が3冊も見つかりました。
ヨゼフ・ラダはどの本屋でも何冊かあるけれど、カバートが複数冊あるのは珍しい。すぐにGoogleマップにお気に入りマークをつけました。
◾️そしてもちろんヨゼフ・ラダの本
今回もラダの本はたくさん買いましたが、一番嬉しかったのは『VZPOMINKY Z DETSTVI』(子どもの頃の思い出)。ラダが自分の少年時代をイラストとともに書いているのですが、その絵が『黒ねこミケシュのぼうけん』や『おばけとかっぱ』などに出てくる村の様子にそっくりで、やっぱりラダはいつもお話の舞台をフルシツェで想像しているんだな、と嬉しくなりました。
フルシツェを歩いているとミケシュたちに会えそうな気がしてくるのは、私だけではないはず。今回の旅ではフルシツェには行かなかったけれど、また行きたくなりました。