インドネシアへの想い⑤ 夫編
〜人生最大のビッグウェーブ 前編〜
ジャカルタで暮らす日本人の誰しもが受ける洗礼が、食あたりと渋滞の苦しみです。
とにかく水道水が清潔ではないため、私はうがいさえもミネラルウォーターを使っていました。大衆レストランでは、ジュースの氷が水道水の可能性が高いので要注意です。
また、ジャカルタの渋滞は有名で、目的地が見えていても全く動けません。空港へ車を飛ばしても、搭乗時間に間に合わないこともしばしばでした。
今回のお話は、このジャカルタ版「あるある」が2つ同時に我が身を襲ったことによる大惨事についてです。(あまりにも悲惨かつ壮絶な内容となりますため、気の弱い御婦人は閲覧注意!)
(毎日の通勤時間には必ずこのような渋滞が巻き起こる)
その日、仕事を終えた私は客先との会食のため、社用車(運転手付き)で目的地へ向かっていました。すると案の定、渋滞にはまったのです。それだけならよかったのですが、急に猛烈な腹痛に襲われたのです。
(まずい!早くトイレに行かなければ!)しかし、車は一向に進みません。
「ディディさん(ドライバーの名前)、腹が痛い!早く、ト・トイレに行きたい・・・」
「旦那さん、この近くにトイレはありませんよ。一番近いのは○○○○プラザホテルですが、この渋滞じゃ・・・」
私は、車の中で寄せては返す波と格闘しながら、ひたすら車がホテルに到着するのを待ちました。それはまるで、ビックウェーブをあやつるプロサーファーのように・・・
(こんなにかっこいいわけがない)
私は車の後部座席に、半分死にかけたかのような状態で横たわっていました。苦しみに悶えながら、体の中で必死に機能しているのは、括約筋だけでした。
かつやくきん【括約筋】肛門(こうもん)・尿道の周囲などにある環状の筋肉。その弛緩(しかん)と収縮とにより、内容物を必要に応じて通過させたり止めたりする。
私は括約筋に呼びかけます。
私「括約筋よ、ホテルまではなんとか耐えてくれ!」
括「はい!旦那様、精一杯、締めさせていただきます」
私「あっ、ビックウェーブが来るぞぅ・・・」
括「了解です!締めまーす!」
私「ありがとう!括約筋くん。ナイスファイトだ!おおおお、またビックウェーブが来たぞぅ・・・」
括「旦那様!ビックウェーブが来る周期がとても短くなっていますよー」
(ビッグウェーブの威力が増している)
後部座席で何度も何度も押し寄せるビックウェーブと戦っているうちに、決して爽快とは言い難い冷や汗が滲んできました。そして、もう限界かと思われたその時、ようやくホテルの灯りが私の目に飛び込んできたのです。
私「括約筋よ!あれがホテルの灯だ」(『翼よ!あれがパリの灯だ』風)
括「旦那様、わたしに残された力はあとわずかですぅ・・・」
ホテルの入り口に車が滑り込み、後部座席から飛び降りる私。トイレを目指して一目散に走り出そうとしたその時、括約筋が悲鳴をあげながら私に懇願したのです。
括「だだだ旦那様!走ってはなりませぬー!走ると歩幅が広がります。歩幅が広がると、大腿筋につられてわたしも広がってしまいますぅー!」
私「な、なんとういうジレンマだ・・・」
私は走るのを止め、できるだけ歩幅を狭く、しかし足はできるだけ速く動かすことにしました。そのときの私は、競歩の日本代表選手にも匹敵する速さだったことでしょう。
先頭を切る競歩の私は、待ち焦がれていたゴールテープを、あのおなじみのトイレマークをとうとう発見したのです。
私「括約筋くん、よく頑張った。ありがとう!もうすぐ君を楽にしてあげるからね・・」
しかし、楽園であるはずのトイレの中で想定外の出来事が待ち構えているなんて・・・その時の私と括約筋は、まったく知るよしもありませんでした。
後編へつづく。